【宇沙ちゃんの液が顔にポトリ...。】
その日...風香は生まれた。
俺は妹ができる事に、心を踊らせながら監視員の柳瀬さんと待合室にいた。
風香が生まれたと報告を受けた俺たちは、分娩室から出てきた赤ちゃんを見て彼女が俺の妹だと認識した。
しかしその直後、母の様子を見に行くと母は天井を見ながら魂が抜けたような顔をしていて...その瞳からは涙が頬を伝っていた。
俺は柳瀬さんに手を引かれる。
(お母さん疲れちゃったみたいだから、お散歩しよっか。)
俺たちはこうして屋上へと向かった...。
そして屋上の扉を開けると、1人の少女がポツポツと降る雨に濡れながら手すりを掴んでいた。
そして空を見上げて泣き叫んだのだった。
俺は泣いている少女を見過ごす事はできず、声をかけた。
(大丈夫?)
その少女は涙でグシャグシャの顔のまま、俺に抱きついてきた。
おじいちゃんが死んじゃう......。
嫌だと泣き叫ぶ少女の頭を、よしよしと撫であやしながら優しく抱きしめた。
次の日も少女は屋上へ来ていた、そこにはさっき柳瀬さんと話していたあの人も一緒にいた。
最初はこの子の母親かなと思ったが、少女に聞くとお姉ちゃんらしい。
難しい話をしていたのでよくわからなかったが、あの人誰?...と聞くと同じ仕事をしてる仲間だと柳瀬さんは言っていた。
暫く話していると、柳瀬さんが声を急に荒げた。
(緊急招集!?...しかもこの場所って!)
(嫌なタイミングね......まさかとは思ってたけど。)
(2人をお願いします!)
その直後、柳瀬さんは屋上から飛び降りた。
そして......。
数日後、風香が俺と同じ特能者だと聞かされる。
そして入院していた母の元を訪ねると...。
そこには母の死体があった......。
......。
「ごめん...忘れてたわけじゃないんだ。」
「うん......。」
「あの場所であった事は...思い出したくないんだ。」
宇沙ちゃんは俺のおでこに手を当てる。
「春くん震えてる...ごめんね。」
俺は身体に力が入り、歯を擦り合わせながら部屋の遠くを見るように目線を逸らした。
しかし俺の頬にポツリと何かが触れた、宇沙ちゃんの顔を見ると涙を流していた。
「宇沙ちゃんが悪い訳じゃないんだ...泣かないで。」
俺は宇沙ちゃんの頭を撫でる。
丁寧にゆっくりと、あの時のように。
「うわぁああああん、ごめんねぇ。」
「ほらよしよし...泣かないで。」
「ごめんねぇ...ごめんねっ!?」
俺は彼女を抱きしめて、左手で頭を撫でながら右手で背中をポンポンと優しく叩く。
その後も宇沙ちゃんは暫く泣いていた。
そして泣き止むまで俺は彼女の頭を撫で続けた。
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