5.人間界への旅立ち





 「……おい、どうした? リュー。」



 俺がゴホゴホ咳き込んでいると、セリスさんが少し心配したのか、声をかけてきた。



 「……いや、大丈夫だ。話を続けてくれ。」



 なんやかんやセリスさんは優しい。俺がキューピッド養成学校に通っていた頃からの付き合いで、よく不祥事を起こしては、尻拭いをして貰ったものだ。



 まぁ、俺が問題を起こしすぎているからだろうか、俺に対して怒りやすい問題がある。だが、それも彼女なりに俺のことを気にかけてくれているからだろう。



 「ええ、リューは問題ありません。話を続けてください。」



 と、先程の黒髪美少女が俺の後に続けてなんか言ってる。



 いやいや、なんでお前が言うねん……



 と、心の中で突っ込みながら、俺は彼女と過ごした日々を思い返していた。



 俺が、キューピッドに転生してから約15年が経つ。


 成瀬 奏が高校2年生ということは、俺が死んでから人間界では未だ1年足らずしか時間が流れていないということになる。


 つまり、神界と人間界での時間軸の比率は約15:1。つまり、神界での時間の流れは人間界の15分の1ということだ。



 なんか、感慨深いなぁ……



 彼女が俺を失ったことで、あまり気を落とさずに次の恋というものを見つけてくれたことは非常に嬉しいことだ。



 まぁ、俺の存在はその程度のものだったのか! と言うような嫉妬心的なものが全くないとは言えないが、彼女が俺に抱いていた感情が「愛」ではなかったことは当時から察していた部分でもあるので、嫌悪感というのは殆どないのだ。

 




 「……おい、リュー。 聞いてるか?」



 「え、あぁ、ボーっとしてました。なんでしょう?」



 「……お前は、自分から話を続けろと言っておいて!!」



 セリスさんがキーっと怒っている。


 いや。ごめん。今のは俺が悪かった。



 「……つまり、こういうことです。」



 キーキー怒っているセリスさんの代わりなのか、黒髪美少女が説明をしてくれた。



 彼女の話をざっくりまとめると、、



 ・ 今回の戦いにおいて、パートナーとの契約期間は“1ヶ月”とする。


 ・ 1ヶ月経っても勝敗が決しなかった場合は、“誰も昇進させない”という結果をとるものとする。


 ・ いつも通り、契約期間の終了と同時にパートナーのキューピッドの干渉に関する記憶は消去される。


 ・ いつも通り、矢は“1回のみ”使用出来る。


 ・ パートナーは、自分のキューピッドだけでなく、対抗のキューピッドも確認することが可能。


 ・ キューピッド同士の妨害工作は容認するものとする。


 ・ キューピッドが、パートナーに暴力行為を強制、推奨することを禁ずる。

 

 




 「こんなところよ。」



 「……あ、ありがとう。えーと……」



 「……アカツキ。」



 「……アカツキ。どこかで聞いたことがあるような……?」



 「そりゃ、そうだろう。」



 アカツキ。という名前に聞き覚えがあると言った俺に、先程まで猿のようだったセリスさんが肯定する。



 「彼女は、これまでに数多くの実績を積み重ねてきた上級キューピッドの1人だ。お前も、1度くらいは名前を聞いていてもおかしくない。」



 「上級キューピッド!? なんで、そんな彼女が昇級試験なんかに混ざってるんですか?」



 「私が許可したんです。ふふっ。」



 これまで状況を見守っていたメリュさんが口を開いた。



 「まぁ、元々は彼女の方から“リューというキューピッドについて教えて欲しい。”という要望は受けてはいたのですけれどね。」



 「……え?」



 「ちょ! メリュさま!?」



 「色々と理由を聞くとですね、キューピッド界の恥晒しという称号まで持っている、リューに興味があるということだったんです。」



 「あー……なるほどね。」



 「……きょ、興味があるって言うか……単純にキューピッド界の恥晒しの根性を叩き直しに来ただけだから……!!」

 


 おうおう、可愛いなぁこの子。



 「……へー。それだけの理由で、昇級試験に潜り込んだー? 上級キューピッドもあろうお方が、己の欲求を満たす為に試験に介入するなんてねー? 」



 「んなっ? ち、ちが……!」



 アカツキは、顔を赤くしながらも必死に異議を唱えようとアタフタしている。


 ナニコノコ、カワイスギ……



 「まぁまぁ、リュー。アカツキをあまり虐めてはいけませんよ。本来、昇格させようと思っていたのは、貴方を含めてここにいるアカツキ以外の3人だけでしたからね。


 アカツキは確かに上級キューピッドですが、貴方達も上級キューピッドになろうとするのであれば、彼女が相手であろうとも引かない姿勢を見せて欲しいものです。」





 「ふふっ……なるほど、そういう事でしたか……!!」



 メリュさんのアカツキに関する説明が終わった途端、これまで黙っていたテルくんが不気味に笑いだした。



 「……確かに、私達がなろうとしているのは上級キューピッドです。であれば、同レベルの相手を倒したところで、アカツキ様のような方々と並び立てるとは思いません。」



 ……まぁ、たしかに。



 「ですが、ここでキューピッド界でも指折りの実績を持つ彼女を出し抜くことが出来たのであれば、それこそ、その名前に恥じることのない上級キューピッドになれるはずです……!!」



 テルくんが何やら熱く語っているが、たしかにその通りかもしれない。彼女の参入は予想外ではあったが、彼女を倒すことが出来れば俺の不名誉な呼び名も少しは改善されるかもしれないからな……



 「オレもテルに同意だ。相手として不足はない。胸を借りよう、アカツキ殿。」



 と、オルドーも同意して、やる気満々である。



 「……まぁ、そうだな。やる前から弱気になっても仕方ないしな。」



 俺も渋々同意したことで、メリュさんはニッコリ笑った。



 「ふふっ。元気な男の子は見てるだけで楽しいですね。よろしい、リュー、テル、オルドー、彼女に胸を借りるつもりでこの試験全力で戦い抜きなさい。しっかり応援していますよ。」



 「「「はいっ!」」」



 セリスさんもウンウン頷いており、アカツキはまだちょっぴり顔を赤くしてこっちをじーと見ている。

 


 「……では、セリスの説明も終わっていますし、4人を人間界に転送しますよ。」


 メリュさんはそう言って、毎度おなじみの転送魔法を起動した。



 メリュさんの手から虹色の光が溢れ出し、俺たち4人を包み込んでいく。


 


 さぁ、俺にとっては15年振りの再会だ。



 俺がいなくなってからあっちでは1年の月日が経過している。


 カナ(奏)の成長を見るのが楽しみだ……!




     俺たちは人間界へ飛んだ。



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