第14話 存在しない盆踊り
「トンネルの次は神隠しか……」
僕は頭を抱え、現実逃避をしたい気分になってきた。正直幽霊だけなら気のせいとか、怖い人の可能性もあるが、この状況だと厳しい。
「神隠し?何言ってるんですか、先生。というか、さっきまで盆踊りなんてやってましたっけ?」
内村は今一つ状況が理解できていないようだった。無理もない、常識的な彼からすれば神隠しなんて非日常そのものだ。――いや、僕だってついこの前まではこの手の現象に疎かったが。
神隠しだと説明しても、確信があるわけでもないし、かえって不安を煽るだけだ。僕は適当に誤魔化して、その場をやり過ごすことにした。
「いや、神隠しなんて本当にあるのかなって思っただけです。――それより、やっぱりまだ探しましょう。案外ひょっこり現れるかもしれませんし」
「え?ええ」
釈然としないまま頷く内村をよそに、ちらりと盆踊りを人々を覗う。僕たちを襲う気配はない。ただ生気のない顔で淡々とやぐらの周りを踊っている。
よく見ると、年齢や性別に加えて浴衣や髪型に統一性がない。
――まるでいろんな時代の人が集まっているようだ。
とにかく今は少年探しに集中しようと思い、人混みやその周りをくまなく見回す。すると、盆踊りの奥に、木にもたれかかりながら膝を抱える少年がいた。頭につけているお面は随分昔のキャラクターのようだ。しかし、その子供の姿には見覚えがあった。
「内村さん、あの子!」
「あ、もしかしてタツヒコ君?」
―――――――――――――――――――――――――――
「うっ……っうわぁぁ!」
タツヒコ君は僕たちを見た途端、大粒の涙を流した。無理もない、10歳前後の少年はとっくに限界を迎えているのだろう。
見たところ怪我もなく、顔色も悪くない。ひとまず無事で何よりだ。
泣きじゃくるタツヒコ君だったが、内村に背中をさすられて段々と落ち着いてきた。時折鼻をすすりながら、ポツポツと喋り始めた。
「あのね、歩いてたら、ここに来ちゃって。でもね、お兄さんがこれを持ってここにいなさいって」
どうやらお面はそのお兄さんから貰ったようだった。
「お兄さんはどこに?」
もしかしたら、ここに迷い込んだ人かもしれない。そう遠くへ行っていないと思いつつ、タツヒコ君へ問いかける。
「わかんない」
首を振るタツヒコ君。お兄さんを探す余裕があるかどうかもわからないこの状況だ、このまま帰り道を探したほうが懸命だろう。
内村と目を合わせる。彼も同じようなことを考えたのだろう、タツヒコ君の顔を覗き込んだ。
「そっか。――お母さんが待ってるから、帰ろうか」
頷いたタツヒコ君は立ち上がり、内村の手を握って歩き始めた。
――さて、タツヒコ君を見つけたはいいものの、どうやって帰るのだろうか。生憎僕らは大人でも一般人だ、神隠しからの帰り方など知るはずもない。……恒川は知っていそうだが。
頭を悩ませる僕をよそに、タツヒコ君は大人が2人きて多少安心したのだろう、明るい声で内村に話しかけていた。
「でもね、お兄さんかっこよかったよ。刀持ってたし!」
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