第40話 目覚めた朝に

 ◇◇◇


「おはようございます。ソフィア様。よくお休みになられましたか」


 柔らかな声で目が覚める。寝起きで頭がすっきりしない。確か昨日はお城の夜会に招待されて。そこでジークに求婚されて。あれ?いつ帰ってきたんだっけ。全部が夢の中の出来事みたいで、ふわふわしてる。ここは……アルサイダー邸の私の部屋。カーテンを開けると柔らかな朝の陽ざしが部屋中に差し込む。窓際には愛しい人の優しい笑顔。ああ、今日もジークは綺麗。


「ん~、おはようジーク……え?ジーク!?」


 ま、まさか夢!?今までのこと全部夢だったの!?え?ジークが王子様だったのは本当?私のこと好きって言ったのは私の妄想なの!?


「まさかの夢オチ!?一体どこからどこまでが夢なの!」


 思わず叫んだ私をみてジークが肩を揺らして笑う。


「ふ、ふふ、ごめんね。まさかそんなに驚いてくれるとは。驚かせてしまったね。安心して、全部夢じゃないから」


 ゆっくりベッドに近づいたかと思うと額に軽くキスを落とされる。思わず固まる私を尻目に、今度は髪をひと房取り、髪にも軽く口づけを落とす。


「ソフィア、逢いたかった……」


 琥珀色の瞳が甘やかに溶けて……


(ナニコレ!ジークが甘い!めっちゃめっちゃ甘い!ハチミツよりも甘いわ~~~~~!!!)


 ジークのあまりの甘さにさらに脳内パニックを引き起こす私。


「本当は昨日帰したくなかったんだけどね」


 そうつぶやくとそっと頬に触れられる。


(ジークったらまつ毛の先まで綺麗……)


 徐々に近づいてくるジークの顔を思わずじっと見つめていると


「こら、こういうときは目を閉じるものだよ?」と怒られてしまった。


「だって、一分一秒でも長くジークを見てたいんだもん」


「ソフィアは本当に可愛いな……」


 もう一度二人の距離が近づいたそのとき、


「おはようマイエンジェル!ぐっすり眠れたかい!」


 豪快にドアを開けてとんでもないお邪魔虫が乱入してきた。ドアの前ではアリサがすました顔で立っている。この絶妙のタイミング!絶対わざとだ。


「おや、おや、未婚の令嬢の部屋に勝手に入るのは感心しないな?」


 すました声でジークに声を掛ける父を思いっきり睨みつける。


「お父様!今の絶対わざとでしょ!」


「なんのことだかパパにはさっぱり」


くっ、棒読みのセリフがむかつくっ!


「とぼけないで!いったいいつから聞き耳を立ててたのよ!」


「娘が心配だっただけだよ~」


「今度盗み聞きしたら絶対に許さないから!」


 ぷんぷん怒る私をジークがまあまあとなだめてくれる。


「実は今日はガイル殿に呼ばれてきたんだ」


「え?そうなの?」


「うん、今日は大切な話があるからね。ソフィアも支度ができたら降りておいで」


 そういうと父とジークはアリサを残して連れ立って降りて行ってしまった。


 ◇◇◇


「あーあ、いいとこだったのに!」


思わずため息をつくとアリスにくすくすと笑われてしまう。


「ふふ、昨夜はずいぶん楽しまれたようですね」


「ん?うん。まあね」


 しまった。朝からジークに逢えたことで思いきり浮かれてしまっていた。昨日はあれほどないと言ってたのに結局はジークからの求婚に応えてしまったし。アリサになんといって説明するべきか……


「ジークハルト殿下から求婚されたのでしょう?」


「えっ?どうして知ってるの!?」


「お嬢様の態度を見てると分かりますよ。おめでとうございますソフィア様。良かったですね」


「うん。ありがとうアリサ……」


「ジークハルト殿下ならお嬢様を決してないがしろにしないと信じておりました」


 そっと目尻の涙をぬぐうアリサ。アリサの心からの祝福に胸が熱くなる。アリサにはずいぶん心配をかけてしまった。


「本当はね、ジークとは絶対結婚できないって思ってたの。もし、ジークが結婚を申し込んでくれてもちゃんと断るつもりだった」


「お嬢様……」


「だってそうでしょう。身分の低い私のせいでジークがみんなから白い目で見られるのは嫌だもの」


「ジークハルト殿下はそんなもの気にしませんよ」


「うん。ジークはそのままの私でいいって言ってくれた。国王陛下の後押しで他の貴族の人たちも認めてくれて。それにね、私、ジークに愛してるって言われて、誰に何を言われてもいいからこの手を取りたいって思ったの。今の私がふさわしくないっていうなら、誰にも文句を言われないような素敵な女性になろうって」


「ご立派です!お嬢様!きっとお嬢様なら素敵な王妃になれますよ」


「王妃……って言われるととたんに気が重くなるけど」


「ふふ、仕方ありませんね。ジークハルト殿下は王になるお方ですから。ジークハルト殿下の隣に立つには王妃となるほかありません」


「それなのよね~、ちゃんと私に務まるのかなあ」


「努力あるのみですよっ!」


「がんばります……」

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