第26話 ヒーローは遅れてやってくる
◇◇◇
「うっ、あっ……」
「私から全て奪う気ね……許さない……許さないわ……」
地面に頭を打ち付け痛みで動けなくなったところに、胸に馬乗りになって首を絞めてくる。一切の躊躇もなく容赦のない力。本気だ。
なんとか腕を伸ばして首に絡む指を外そうとするが、上手く力が入らない。女の細腕なのに凄い力だ。顔は醜く歪み、目には狂気が宿っている。息が、できない……酸欠になった頭に重く霞がかかる。
――――ああ、これはさすがに死ぬかも知れない。ごめん、ごめんね、キャロルちゃん。子ども達……助けてあげられなかった……最後にジークに逢いたかったなぁ……
悔しくて涙が滲む。死を覚悟したそのとき
「私の天使に手を出すとは……死にたいようですね」
―――物凄い低音の。だけどずっと聞きたかった声が聞こえた。
「ぎゃっ!!!!」
次の瞬間、馬乗りになっていた女が突然視界から消える。あまりに一瞬の出来事で何が起こったのか理解できない。喉に一気に空気が入ってきて思わずむせてしまう。
「ソフィア様……」
「ジーク……」
差し伸べる手が震えている。精一杯腕を伸ばすと、すぐに指先が捕らえられた。私と同じくらい冷たくなった指先。そっと頬に当てると安心して涙がこぼれた。ああ、ジークだ。来てくれたんだ。
ジークの細く美しい指先が首筋をなぞる。
「ああ、酷い。赤くなってる……待っていて。今すぐあの女を処分して来ますから。ついでにそこに転がってる大罪人もね」
凍り付くような冷たい声。
「ぐっ!離せ!貴様ら、俺を誰だと思ってる!」
大勢の騎士たちに取り押さえられた男を、虫けらを見るような目で見ている。
「黙らせろ。不快だ。顔も見たくない。拘束して連れていけ」
ずっと見たかった優しい琥珀色の瞳は、今は怒りに満ち満ちていた。こんなに怒ったジークは見たことがない。
「ジーク……」
荒い息を繰り返しながらなんとか声を絞り出す。
「はい。ソフィア様」
名前を呼ぶと、琥珀色の瞳が優しく溶けた。ああ、本当にジークだ。
「ジーク!ジークぅ……!!!」
「よしよし、怖かったですね。もう大丈夫ですよ」
また子どものように頭を撫でられる。
「ばかっ!ジークのばかっ!」
「申し訳ありません……」
次の瞬間、思い切り抱き締められた。
「もう、逢えないかと、思った……」
ジークの胸に抱かれると涙がポロポロと溢れてくる。
「ずっとソフィア様のおそばにいますよ」
「絶対、絶対だからね?もうどこにも行かないでっ!」
「はい」
子どもみたいに泣き出した私を優しく抱き締めるジーク。ああ、ジークだ。私のジークが帰ってきたんだ。嬉しくて嬉しくて、もう一度ジークを強く抱き締めた。
とそこに、
「あー、えー、感動の再会のところ申し訳無いんだけど。コイツらどうする?」
私達を誘拐した男たちと貴族らしき数人が屋敷内に突入した大勢の騎士たちによって次々と連行されてくる。そして、その中心で指揮を執っているのは……
「……は?え?ロイス?あんた、何でこんなところに……」
なぜか近衛騎士に捕まったはずのロイスがそこにいた。
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