第25話 絶体絶命のピンチ!

 

 ◇◇◇


 子ども達を連れてそのまま階段を上り、ひとまずキャロルちゃんの待つ屋根裏部屋へ。


「キャロルちゃん、私だよ」


 そっと声をかけるとすぐにドアが開いた。


「お姉さま!よくぞご無事で!……その子ども達は……」


「この子達も誘拐されてたの。可哀想に随分酷い扱いを受けてたみたい……」


「まぁ……こんな小さな子ども達になんてことをっ!あなたたち、よく頑張りましたわね。さぁ、いらっしゃい。こちらのベッドに横になるといいわ」


 屋根裏部屋は使用人部屋として使われていたようで、大人用のベッドが3つ並んでいる。3つのベッドをくっつけると、なんとか子ども達全員が横になれた。


 置いてあった毛布でくるんで撫でていると、最初は興奮していた子ども達も少し眠くなったようだ。すぐにあちこちで可愛い寝息を立て始めた。


「何か変わったことはあった?」


「ずっと外を見てましたが、まだ誰か来る気配はありませんわ。ただ、あの建物に小さな灯りが見えますの」


 温室だろうか。庭の片隅に小さな灯りが点っているのが分かる。誰かいるのは確かだろう。


「分かったわ。屋敷の中には居なかったから、多分あそこにさっきの男がいると思う。私、今から行ってみるね」


「お姉さま!危険です!あの男は剣を持ってました。もし見つかったら……」


「大丈夫。見つからないように外から中を確認するだけよ。いざとなったら奥の手を使うから」


「奥の手……一体どんな……」


 キャロルちゃんがゴクリと唾を飲み込む。


「私がいない間、子ども達をお願いできる?」


「分かりましたわ。お姉さま、くれぐれも無理はなさらないで下さいませ」


 救援はまだこない。でも、敵の人数はそう多くないことが救いだ。温室に何人いるか分からないが、建物の規模から見てそれほど多くはないだろう。


 植え込みに隠れるように身を低くしながら温室へと向かう。


「話が違うわっ!」


「黙れ」


 温室の前で言い争っている男女の声に息を飲む。あの男だ。


「私を王妃にしてくれるって言ったじゃない!だから私はずっとあなたに協力してきたのに!」


「くく、そんなこと本気で信じてたのか?お目出たいな……」


「なんですって……」


「お前のような庶子が王妃になれるとでも?身の程を知るがいい」


「そ、そんな。あんなに、あんなに尽くしてきたのに。お姉さまを手に掛けたのだって!あなたのためだったのに!」


「嘘をつくな。憎かったのだろう?お前と違い賢く、美しく、両親の愛情を一身に受けていたジョセフィーヌのことが。ジョセフィーヌさえいなくなれば公爵家の財産を好きにできるとでも思ったんだろう?愚かなことだ。実際には全てジークハルトに遺されるんだからな」


「くっ……あのとき、ジークハルトさえ殺せておけばっ」


「お前も俺も同じだ。お互い利用価値があったから利用しただけ。だが、もうお前に利用価値は無いようだな」


「なっ!何を!?」


「身分のある女も金になる女も手に入れた。もはや面倒なだけのお前の相手も疲れたしな……」


「いやっ!いやよっ!」


 次の瞬間飛び出していた。


「待ちなさいっ!」


「お前は……」


 剣を持つ男を睨みつける。今、絶対にこの女を殺そうとしていた。


「あんた、最低ね……」


 女を後ろに庇いながら逃げるように促すが、腰が抜けてしまったようだ。


「大人しくしておけと言ったのに……どうやって縄を切った?」


「あんたに教える必要はないわ」


「ほう、せっかく生かしてやろうと思ったのに殺されたいらしいな?」


「やれるもんならやってみなさいよっ!」


 一歩も退かずに睨み付ける。怯えたら負けだ。


「随分気の強い女だな……面白い。その態度、どこまで続けられるか試してみようか」


 一発でいい。眠り針を撃ち込むことができればこの男だって動けないはず。勝負は一瞬……


 次の瞬間思い切り髪を掴まれ後ろに引き倒される。


「なっ……」


「冗談じゃないわ?この女ね。この女のせいで私を殺そうとしたのね……」


 嫉妬に狂った恐ろしい顔をした女が私を覗き込んでいた……

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