第16話 動き出す運命
◇◇◇
屋敷に帰る馬車の中でも、ロイスのことが気にかかる。
(あいつ、そんなに悪い奴じゃないと思ってたんだけど、よっぽどの悪事を働いたのかしら。いや、あいつ個人というよりはシリウス家が何か……近衛騎士団が直接動くということはなにか王族に関わるようなこと……)
珍しくジーク以外のことを考えているとなにやら馬車の外が騒がしい。窓から外を見てみると、至る所で指示を出しながら走り回っている騎士の姿が目に入った。
馬車を止めて中を確認したり話を聞いたりしているようで、私の乗った馬車も止められてしまう。
「失礼。こちらは貴族学園の生徒さんですか?」
「ええ。学園から一時帰宅を許されました。アルサイダー男爵家のソフィア・アルサイダーです」
なるべく丁寧に名乗ると、二人組の騎士様が顔を見合わせて頷き合う。今日は一時帰宅の生徒が多いので何カ所かで検問をしているようだ。
「ご令嬢お一人ですね。現在王都には凶悪な犯罪者が潜伏していると考えられています。か弱いご令嬢にはさぞかしご不安でしょう。我々も全力で探していますが、いまだ捕縛に至っていません。帰宅後は戸締まりをしっかりなさってなるべく家から出ないようにして下さい」
騎士様の親切な言葉にこくりと頷く。
「民の安全を守る騎士様方の崇高なお役目、感謝いたします。どうか一日も早く犯人が捕まりますように」
王都中に厳戒態勢が敷かれているというのは本当らしい。
(すごい騒ぎね。クーデターでも起こってるみたい……まさかね)
◇◇◇
屋敷に帰ると珍しく父が出迎えにやってこなかった。いつもならどんなに忙しくても迎えに来そうなものだけど。
「珍しい。お父様がいないのね。今日は商会のお仕事が忙しいのかしら」
出迎えてくれたメイドのアリサと執事のバルトに訊ねると二人とも気まずそうに顔を見合わせている。
「どうしたの?」
「実は、旦那様はここ最近お姿が見えなくて……」
「またなの?全くお父様にも困ったものね」
父には軽い放浪癖があり、ふらりと出掛けては一、二週間帰ってこないこともざらにある。ただ、その間に新しい商売のネタなんかも拾ってくるので家族も従業員もある程度容認しているのだ。
「で?いつから?」
「実は一カ月以上お帰りになっていなくて……今凶悪犯が逃走中って騒がれているでしょう?さすがに心配になって皆で手分けして探しに行こうかと考えてるんです」
アリサが心配そうに眉をひそめる。
「一カ月以上……確かにちょっと長いわね……」
流石にいくら自由人な父でも月単位で勝手にいなくなることは無かったように思う。
「お嬢様が学園に行かれてから以前よりもふらりと居なくなることが多かったのは確かなのですが」
「そうなの?」
「ええ。『ソフィアがいないと寂しい~!』って嘆いておいででしたよ」
アリサとバルトが揃ってうんうんと頷いている。
「だったら貴族なんかにならなきゃよかったのに」
溜め息を吐くと苦笑いが返ってきた。まぁ、今更言っても仕方のないことだけどね。使用人の皆も商家の使用人から下っ端とは言え貴族家の使用人になったことで戸惑うことも多いだろうに良くやってくれている。本当に感謝しかない。
「いいわ。ジークを探しに行くついでにお父様のことも探してみるから。流石に国外には出てないでしょ。取りあえず王都の情報屋を訪ねてみるわ」
「お嬢様!今外に出られるのは危険です!」
アリサが声を上げるがこれだけは譲れない。
「情報屋だけ訪ねたらすぐに帰ってくるから平気よ」
「では他のものに行かせますから……」
「情報屋の居場所は秘密なの。用心深い性格だから私以外だと会えないでしょうね」
「危険では……」
「十分気をつけるからお願いっ!」
両手を合わせると渋々了承してくれる。
「そのかわり私もついて行きますからね!」
「え?アリサが?」
「何かあったらこの身に代えてもお嬢様をお守りします」
「いや、アリサに何かあったらバルトに恨まれるから……」
「これだけは譲れません!」
バルトとアリサは仲のよい夫婦で、夫婦そろってアルサイダー家で働いてくれている。穏やかで優しいバルトとしっかり者で怒るとちょっぴり怖いアリサはお似合いの夫婦だ。
「アリサも言い出したら聞きませんからね。私は屋敷を空ける訳にはいかないのでご一緒できませんが、くれぐれも危ないところに行かないように気をつけてください」
「はーい」
「絶対ですよ!?」
「は、はーい」
いつになく疑り深いバルトを尻目にどうやってアリサを撒くか考える。アリサが一緒だとアイツ多分会ってくれないんだよなぁ。
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