第10話 王室に巣くう悪意
◇◇◇
「暗殺計画には部屋の護衛をしていた衛兵達も関わっていました。もはや誰も、信用出来ませんでした」
「なんてことだ……お前がたったひとりで苦しんでいたというのに。そうとも知らず手をこまねいていたとは。私はなんて愚かだったのだ……」
「私を、探して下さっていたのですか」
「信頼できる手のものに、内密に捜索を依頼しておった……これ以上私から何も奪ってくれるなと、お前の無事だけを毎日祈っておった……」
「父上……」
「もう、どこへもいくな。いいな」
「はい。これからは父上のお側におります」
父は満足そうに頷くと厳しい表情で衛兵を呼んだ。
「王太子殺害未遂の実行犯だ。ガライアスを今すぐ捕らえよ」
「父上……」
「どうした」
あまりにも残酷な事実を告げなくてはならない。本当はずっと、隠しておきたかった。誰よりも父のために。父はこの真実に耐えられるだろうか。
「恐らく……王妃暗殺の首謀者でもあります。そして、実行犯は……シリウス伯爵夫人、バーバラです」
「なっ!まさか、そんな。ジョセフィーヌは病で少しずつ弱っていって……」
「そうした毒を、盛られていたのです。毎日毎日少しずつ。最も信頼していた……妹の手によって」
シリウス伯爵夫人バーバラ。妾腹の娘であるバーバラを母は大切な妹として側に置き、筆頭侍女として取りたて可愛がっていたというのに。
「なんてことだ……ガライアス、バーバラ……どうして、なぜだっ」
父の悲しみが痛いほど伝わってくる。幼い私を絶望させたその事実が今度は父の心を蝕んでしまうだろう。それでも……
◇◇◇
「残念……苦しんで死んでいく様子をみたいと思っていたのに……」
男たちの声に混じって甲高い女の声が響く。
(この声……バーバラ叔母様!?まさか……)
「美しかったジョセフィーヌお姉さまも最期は醜くやせ衰えて死んでいったわ。私、あの子を頼むって何度も何度もお願いされたのよ。宝石のように美しい瞳に涙を一杯浮かべて。私に毒を盛られているとも知らずにね」
クスクスと楽しそうな笑い声が耳にこだまする。
(……そんな……母上……)
「可哀想なジョセフィーヌお姉様!今頃愛する息子と離ればなれになってさぞ寂しがってると思うわ。だからねえ、早く連れて行ってあげましょう。お姉様のところに……」
甘く囁くようなその声に足が震えた。
(怖い、怖い、怖い!)
物音一つでも立てたらきっとすぐに見つかってしまう。そう思った私はひたすら息を潜めて誰もいなくなるのを待ち続けた。
◇◇◇
人の気配が消えてしばらくたった後、秘密の部屋から続くトンネルをとぼとぼと歩き始めた。どこに続いているのかは知らなかったが、部屋に戻る気にはとてもなれなかった。
このままではいつかきっと殺されてしまう。もう誰も信用できない。叔父上も叔母上もあれほど良くしてくれたのは全て偽りだった。
気がつけば走り出していた。とにかくこの場所から逃げたかった。果てしなく続く暗闇を走って走って。
―――――辿り着いた先に天使を見つけたのだ。
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