第92話 ホルゾイ
えー、どうしてこうなったんだ……? 最近、この展開多すぎない?
あの後、ホメロンの想い人? であるエリシアに会ったところ彼女と共に彼も廃村に来ることになったんだ。
詳しくはいずれ……。
現在、民宿の2階にいる。なので、少しばかり現状を忘れることにしよう。
「ここでいいかな? エリックさん」
「うん、魔道具の取付もできるの?」
「任せとけって! 置いてこことここを繋ぐだけだからさ」
「ほほお。これだけで動作するのかあ」
「兄ちゃん、いちおー、念のためだけど、起動しなきゃならないぞ」
「そ、そんなの当たり前じゃないか」
「ほんとかなあ」
少年と青年の中間くらいの歳である大工見習いキッドは「へへん」と鼻をさすった得意気な態度から一転、疑り深くこちらを覗き込んでくる。
いやだなあもう。冷蔵の魔道具を動かしたのは俺だぞ。冒険者たるもの魔道具とは切っても切れない関係にあったのだ。
……実を言うと忘れそうだった。
「よっし、終わり。残りも同じ感じでいいかな?」
「うん、頼む」
「後はやっとくよ! 兄ちゃんは忙しいだろうから」
「分かった頼むね。後でマリーか俺が見に来るかも……でも、来なきゃ来ないでそのまま撤収で大丈夫だよ」
「ほおい、任せといて」
ニヒヒと歯を出す彼は少年のようだ。まだあどけなさの残る青年であるが、いずれ成熟した大人になることだろう。
ジョエルが彼と近い歳であることから、彼とお友達になりたそうだった。
もうそろそろ天才錬金術師の家もひと段落つくのかな? 外観がようやく完成した程度なので、まだまだかかるかもしれない。
それなら尚更ジョエルと彼にお友達になって欲しいところ。彼としても弟のようなジョエルと接することで、普段大人たちの中で揉まれているから良い息抜きになるんじゃないかなって。
あと一回か二回はうちに来てくれると思うから、次回に声をかけてみようかなあ。
いや、先にジョエルに良いか悪いか聞いてみなきゃ。彼は極端な人見知りだからね。
などとほのぼのした気分も階下に行くと一人演劇をしている長髪の男の姿でげんなりする。
「エリックさん、良いお店ですね。入り口扉を開けるとちょうど音が漏れ聞こえてくる広さと構造です」
「見ただけで分かるの?」
「いえ、歩き、手を振り、感じ、そして理解するのです」
「あ、はあい」
バサバサまつ毛をこれでもかと動かし、背後に薔薇の花束の幻影を抱く長髪の男こと旅の楽師ホメロンである。
どうしてこうなったの原因の一人が彼であることは言うまでもない。
正直なところ、お客さんが沢山いる頃にハープを奏でてくれると喜んでもらえると思う。俺だって彼のハープや歌を聞きたい。
もうずっと歌かハープを奏でてくれてりゃいいのに。
そうそう、来たからには夜に生演奏してもらう約束にはなっている。普段はこのようなげんなりする彼だけど、生演奏は違うからな。
「小さな家だけど、二軒準備が出来ているよ。ポラリスという職人が営む店があるのだけど、彼の店の隣に建ててる」
「な、何と! エリックさんはかの『赤の魔術師』にも匹敵する大魔法使い殿だったのですか!」
「え……」
「私はあなたと会ってから翌日に街を立ちました、あの日からまだ三日しか経過してません。それなのにもう家が。これはきっと大魔術で家がクリエイトされたに違いありません!」
興奮し過ぎだろ! 顔、顔が近い。
無言で一歩、いや、三歩後ずさりいやいやと首を振る。
「俺じゃなくてお友達がやってくれたんだよ」
「あなたの友人が! まさか赤の魔術師殿、いや、家をとなると『緑の賢者』殿やも」
「想像に任せるよ。そうだ、ボルゾイの様子はどう?」
「美しき太陽の海原とはお互い干渉せず、数日間でしたら問題ありません」
何その名称……ホメロンのペットである三つ目の犬ことボルゾイはカブトムシの厩舎で休んでもらっていた。揉めるようなら軒下かなあとも考えていたけど、問題なさそうだな。
テイマーのペットは普通の人が飼うペットとは異なる。
テイマーとペットはある程度意思疎通をすることができて、仲良くとか不干渉でとか伝えると言うことを聞いてくれるんだ。
俺はテイマーではないけど、すみよんからジャイアントビートルを譲渡された。
なのでジャイアントビートルは俺の言うことをある程度理解してくれる。本職じゃない俺でもこれなのだから、本職ともなるともっと細かな指示もお願いできるんじゃないだろうか。
ジャイアントビートルとホルゾイが敬遠の仲だったとしても、ホメロンのために言うことを聞いてくれている、というわけだな。うん。
「あ、ホメロンさん、ホルゾイちゃんにも餌を与えてもいいですか?」
「もちろんです! 何から何までありがとうございます」
ヤギたちの世話を終えたマリーが民宿に戻るなり、笑顔を浮かべホメロンに尋ねる。
彼は背後をキラキラさせるエフェクトが見えるのでは、というような動きで彼女に感謝を伝えた。
マリーはホルゾイのことは気にいったらしく、彼をブラッシングしていたりしていたんだよね。餌を与えて彼の食べる様子を見て喜んでいたし。
でも、マリー……ご機嫌なところ悪いが、言わなきゃならないことがあるのだ。
「いえ! ホルゾイちゃん、とても可愛くて癒されます」
「あ、マリー。ホルゾイは今……」
「お散歩中ですか? 一人でお散歩しちゃって大丈夫でしょうか、わたしで良ければ」
「いや、そうじゃなく。今ホルゾイは厩舎で休んでる」
「……厩舎……」
「もちろん、ジャイアントビートルが鎮座している。なので、餌はホルゾイを散歩させる前とかにしてもらっていいかな」
ぶんぶんと勢いよく首を縦に振るマリーであった。
しかし、ここで丸く収まらないのが人の善意である。
「マリーさん、美しき太陽の海原もご一緒させていただけませんか?」
「あ、いや、ホメロンさん、ジャイアントビートルはこの後俺と狩に出かけるかもだから」
「なるほど。それは散歩どころではありませんね。残念です」
「これから一緒に散歩する機会はあるから、その時にでも」
な、なんとかフォローできたぞ。
悪気があって言っているのではないので、誤魔化すのが俺にできる精一杯だった。
※88話が抜けているんじゃないかと今更気が付いたので、、少しお待ちを。
やはり抜けてました。明日88話を投稿します!!
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