散歩の四百一話 ホッと一息

 ガラガラガラ。


「はあ、あそこまで面倒くさい相手だとは思わなかった。闇討ちとかの方が、まだマシだった気がするよ」

「シュンさんの気持ちは良くわかります。あの方は、小心者なのに陰湿な性格ですから。私も一度王都でお会いしましたが、あまり良い印象は受けませんでした」


 只今僕は、馬車の中のこたつに入ってスーと共に休憩しています。

 肉体的によりも精神的に疲れたので、西の辺境伯領の市場で手に入れたみかんっぽい柑橘類の皮をむいて食べています。

 嗚呼、程よい酸味が体に染み渡ります。

 スーも同じく精神的に疲れてしまったのか、みかんっぽいものを食べながらゆっくりとしていました。

 因みに今は御者をアオがしていて、シロ達も改めてアオから御者のやり方を教えて貰っています。


「この先で、余計な事をしそうな貴族はいるかな?」

「うーん、道中は大丈夫かもしれませんが、意外と王都に着く前の方が怪しいかもしれません」


 スーがこの先の展望を教えてくれたけど、領主が良い人でも道中何が起こるかは分からない。

 動物や魔物も、不意に出てくる可能性はある。


「あっ、オオカミ発見!」

「えいえい!」

「やっつけたよ」


 馬車の御者席からシロ達の元気な声が聞こえてきたけど、あっという間にオオカミの群れを倒したみたいだ。

 うーん、シロ達の実力以上の動物や魔物ってそうそういないし、やっぱり対人関係が一番面倒くさいかもしれないな。


「しかし、こんなにも快適な馬車旅はそうそうないですね。馬車も揺れは少ないですし、こたつに入ってのんびりできます」

「確かに、とても快適ですね。一緒に行く軍は、旧型の馬車や馬で大変そうで申し訳ないですが」

「良いんじゃないでしょうか。私達も大変な思いをしていましたし、ご褒美みたいなものですよ」


 こうして、野営地に着くまで僕とスーは馬車の中でのんびりとしていました。

 野営地に着いたら、僕は夕食の手伝いをして、シロ達は沢山の馬の世話を始めました。


「気持ちいい?」

「ヒヒーン」

「とっても気持ちいいって」

「じゃあ、次のお馬さんをピカピカにしてくる」


 シロ達とアオは、次々と軍の馬を綺麗にしていきます。

 流石に蹄とかの細かいケアは兵が行っているけど、それでも馬はとても気持ちよさそうです。

 うちの馬もスーが道具や魔法を使って綺麗にしていて、こちらもとても気持ちよさそうにしています。

 僕も、後方支援部隊と共に作った料理を仕上げます。

 今日は、焼き肉と野菜炒めです。


「しかし、野営でここまで豪勢な料理を食べられるとは」

「いやいや、普通に肉を焼いて野菜を炒めただけですよ」

「それが、何故か美味いんだよ。流石凄腕の料理人だけあるな」


 何故かトーリーさんと隣で夕食を食べていますが、乾パンに干し肉だけの食事は僕も勘弁です。

 うちには小さいフランとホルンもいるし、栄養には気をつけています。


「既に子爵領も抜けているし、数日は特に貴族関係でのトラブルはないだろう。そもそもこの街道は、辺境伯領と王都を結ぶ大動脈だ。各領主には常に整備するように通達が出ているし、動物や魔物も遭遇するのはすくないだろう」

「逆を言うと、子爵領でオオカミが何回か出てきたのは、キチンとした対応ができていない証拠になりますね」

「ああ、まさにその通りだ。日中の件と合わせて、王城に報告している。奴には、何かしらの処分が科せられるだろう」


 トーリー様が言わなくても、街道の整備は貴族の義務なんだろう。

 良く考えると、今までの旅でも殆ど動物や魔物に遭遇はしなかった。

 変なプライドでキチンとした領地経営ができないのであれば、当主交代もあり得るだろうな。

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