散歩の二百二十四話 予選二日目の相手は魔法使い

 昨日と同じく、僕とスーとついてきた侍従は辺境伯家の席につきます。

 既にフィーナさんとフィーナさんのお兄さんは席についていて、辺境伯夫人様もステージ上でマイクを持ってスタンバイしています。

 そして、この場にいないはずの人が席に座っていました。


「辺境伯様、何でここに? 明日からの観戦ではありませんでしたか?」

「この一試合だけ見て帰るぞ。昨日も変装して試合を見にきたんだが、見るなら堂々といた方が安全だと思ってな」


 辺境伯様、昨日も変装して来ていたんですか。

 護衛の方、辺境伯様に振り回されてお疲れ様です。


「それに、この武道大会は資質のある者を発掘する意味合いもある。今日の第一試合は、まだ未熟だが魔法使いが出るというのでな」

「そうなんですね。魔法使いは貴重ですから、必要に応じてスカウトしても良いですね」


 如何にも辺境伯らしいセリフを言ってきました。

 辺境伯家で長く活躍してくれるのなら、大会賞金なんて安いものって考えなのかもしれません。

 試合を見てみないと判断できないので、直接見に来たのか。

 でも、フィーナさんのお兄さんでも充分な気もするぞ。


「では、予選二日目を開始する。赤コーナー、昨日の圧勝が記憶に新しい、奇跡の魔法使いアオー!」

「頑張れー!」

「ふりふりして可愛い!」


 アオはおっちゃんにも女性にも大人気です。

 アオも、律儀に観客に向けて触手をふりふりしていました。

 でも、昨日は圧勝というか相手が勝手に自爆しただけな気もするよ。


「青コーナー、辛くも昨日は勝ち抜いたが果たして今日はどうか、小さな魔法使い、シルビア!」

「ちっちゃくて可愛い」

「今日も頑張れよ」


 アオの対戦相手は、フランとホルンと同じくらいの背の高さの少女だった。

 本当に十二歳以上かと思ったが、間違いないという。


「彼女は小人族だ。だから身長が低いのだ。ああ見えて、シュンよりも年上だぞ」

「え、そうなんですね!」

「昨日はシーフタイプの相手に苦戦しておったが、カウンター気味に魔法が決まって辛くも勝ち上がったのだよ」


 フィーナさんのお兄さんの話を聞いて、初めて小人族という存在を知ったよ。

 というか、何で辺境伯様はそんなに試合について詳しく知っているんですか?

 絶対に昨日変装した時に見ていたんでしょう。

 そんな事を思っていたら、ステージで何やら動きが。


「今回、両者共に魔法戦を選択したので、ステージ周辺に簡易魔法障壁を展開する魔導具を起動させます」

「「「おおー!」」」

 

 ブオーンっと何かが起動する音が聞こえて、ステージの周りを薄い魔法障壁が包んだ。

 何だか凄いハイテクだぞ。


「まだまだ実験段階だが、簡易的な魔法障壁を出すことができる。持続時間の関係で、試合が終わると常に魔力を補充しないとならないがな」

「でも、凄い装置ですよ。兵の装備は勿論の事ですけど、防災とかにも使えます」

「普段も研究してはいるが、こういう時だと思いっきり使用する事ができる。兵も領外からの人に対応する事で、いざという時の対応力を身につけさせる事ができるのだよ」


 うん、やっぱり辺境伯様は色々な事を考えている。

 誰が優勝しようとも、辺境伯家に利のある様にしているんだ。


「先ずは目の前の試合に注目しようとしよう。実はアオにはできるだけ相手に粘らせる様にと言ってある」

「あの魔法使いの実力を知る為ですね。流石に昨日の試合の様な事はないかと思いますけど」

「あの試合は、辺境伯家の歴史を見てもワースト一位に入るくらいだ。あんなものは試合とは呼べんよ」


 辺境伯様の言う通り、今は試合を見る事に注目しよう。

 あのシルビアという人も、一生懸命に戦うはずだ。

 因みに、シルビアさんは緑色の癖のあるショートカットで、耳が少し長めです。

 パーカーの様な上着を着て、短めのスカートを履いています。

 手には如何にも魔法使いって感じの大きな杖を持っていて、杖の方が大きいんじゃないかなって感じです。

 そして、両者が握手していよいよ試合の開始です。

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