散歩の二百十七話 武道大会の予選開始

「はい、焼きそばお待ちどうさま」

「熱いから気をつけてね」

「シュン様、スライム焼きも二つです」

「アオに頼んで下さい」


 屋台はまさかの事態に陥っていた。

 何と、パンを頼んでいたパン屋さんで、厨房の不具合が発生したという。

 何とかパンの生産が始まったのだが、焼けたパンが届くのはもう少ししてからだという。

 しょうがないので、焼きそば単品とスライム焼きを売り出す事にしたのだ。

 焼きそばは皿に出して提供するスタイルだから、そんなにも個数は出ないかなと思っていた。

 予想は簡単に裏切られた。

 焼きそばを焼いても焼いても、一向に客が切れない。

 更にはスライムが料理をしているとあって、スライム焼きも大好評。

 お陰で、僕とアオはフル回転です。

 治療班ではないシロとフランも、接客で忙しく動いています。


「追加の侍従がきました」

「洗い物が溜まっているから、お願いします」

「「はい」」


 あまりの忙しさに、スーに頼んで屋敷に追加人員を頼んだ程だった。

 スーも、この混雑で怪我人や迷子が多くて大忙しだそうです。


「あーあー、テストテスト。皆様、間もなく武道大会予選が始まります」

「「「うおー!」」」


 と、ここで係の人が拡声器みたいな魔導具を使って、会場となるステージでアナウンスを始めた。

 よく見ると、今日会場に来る辺境伯家の皆様も集まっていた。

 料理が忙しくて、皆が会場についたのに全く気が付かなかったぞ。

 幸いにして屋台は足場が少し高いので、観客が居てもステージが辛うじて見えます。

 観客も予選が始まると知ると、大盛りあがりでアナウンスに答えていた。


「では、初めに辺境伯家後継者のブロード様より挨拶を頂戴します」


 あ、何気にフィーナさんのお兄さんの名前を初めて知ったぞ。

 ずっとフィーナさんのお兄さんって感じだったもんなあ。


「皆の者、今年も無事に武道大会が行われる事に感謝する。息子が産まれた記念も兼ねて、今年の武道大会は盛大に行われる。皆も、存分に楽しんでくれ」

「「「うおー!」」」


 フィーナさんのお兄さんの言葉に、観客も更にヒートアップしながら声援を送っています。

 本当に凄い歓声だな。


「それでは、早速予選に移ります。今日明日の予選を勝ち抜いた十六名が、明後日からの本戦に進みます」


 ばっ。


 係の人がアナウンスすると、ステージの両サイドに赤と青の旗が立てられました。

 確かにこれなら、誰がどちら側か直ぐに分かるぞ。

 そして赤コーナーと青コーナーに選手が立つと、何故か辺境伯夫人様がマイクの様な魔道具を手にしました。

 因みに、フィーナさんとフィーナさんのお兄さんは昨日設置した辺境伯用の席に座っていて、ステージの端とはいえ辺境伯夫人様が立っているのは物凄く違和感がある。

 それなのに、観客からは更に大きな歓声があがりました。

 

「それではこれから予選を開始する。赤コーナー、格闘家バルッシュー! 青コーナー、剣士ゼッド!」

「「「来たー!」」」

「ええええ!」


 何と、辺境伯夫人様がリングアナを始めたのだ。

 しかも、前世のボクシングとかで聞いた様な口調だぞ。

 観客のボルテージは最高潮に達したけど、僕は度肝を抜かれてしまった。

 確かに辺境伯夫人様はノリノリでリングアナをしているけどね。

 これがフィーナさんが言っていた、辺境伯夫人様の武道大会中の仕事なのか。


「それでは、予選を開始する。始め!」


 審判の合図で、予選が開始されました。

 さて、僕は目の前の屋台の客との戦いを再開しますか。

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