散歩の九十四話 まさかの事態が発生

 奴隷商の見学も終わったので、僕達は辺境伯様の屋敷に向かう事に。

 玄関先で、先代奥様についていた侍従が奴隷商の会長に土産を渡していた。


「今日はありがとうございました。お陰で良い情報を得る事が出来ました。皆さんで食べて下さい」

「わざわざ申し訳ありません。ありがたく頂戴致します」


 奴隷は普段甘いお菓子を食べる機会がないだろうから、先代奥様の差し入れはきっと嬉しいだろうな。

 丁度先代奥様の迎えの馬車と護衛の騎士が商会前に到着し、皆で先代奥様を見送ろうとした時だった。


「わー、ごめんなさいごめんなさい」

「うるさい! 俺の言う事を聞かない奴はこうだ!」


 バシン!


「きゃー、ごめんなさいごめんなさい」

「くそ、いつまで経っても使えないやつだ!」


 僕達が訪れた商会から斜め向かいに、目新しい商会があった。

 その商会から小さな女の子が通りまで吹っ飛ばされていて、更に追いかけてきた男に殴る蹴るの暴行を受けていた。

 小さな女の子は、うずくまって頭を抱えながらずっとごめんなさいを繰り返していた。

 突然の出来事に僕達は固まってしまったが、すぐさま動いていた人が。


「コラー! 止めなさい!」

「ああ? 何だこのチビは!」


 男と小さな女の子の間に、シロが割り込んで両手を広げている。

 アオは小さな女の子の側に移動して、すかさず回復魔法をかけていた。

 うーん、どう見ても男はならず者って感じだよな。


「この奴隷はうちの商品だ。こっちが何をしたって関係ないだろうが!」

「小さい女の子をいじめちゃダメなんだよ!」


 男は唾を飛ばしながら叫んでいるけど、シロは怯む様子はない。

 そんなシロの事を、小さな女の子が不安そうな表情で見上げていた。


「ふう、こんなバカな事をしている者がいるとは。何とも情けない事だ」


 と、ここで馬車から降りて来る人物が。

 おや、この人は先代奥様の迎えにきたのか。


「おじいちゃん!」


 そう、馬車から現れたのは先代の辺境伯様。

 目の前で行われた蛮行に、怒り心頭って感じだ。


「何だと、このクソ爺!」


 そして、更に邪魔が入ったと思った男は、あろうことか先代様に暴言を吐いていた。

 目の前の男が暴言を吐いたので、先代様を護衛する様に騎士が周りを囲んでいる。

 通りを歩いていた人や他の店の店員も騒動を見守っていたのだが、流石に男の妄言にびっくりした様だ。


「おい。あの男、先代辺境伯様に暴言を吐いたぞ」

「ああ。しかも、先代様が一番嫌う弱い者虐めを目の前で行うとは」

「下手すると、あの男の首が吹っ飛ぶぞ」


 周りの人が騒めきながら、物騒な事を話している。

 そして、今更になって男は喧嘩を売った相手の正体に気がついた様だ。


「へ? 先代の辺境伯様? マジ?」


 さっきまでの威勢はどこに行ったのやら。

 男は尻餅をついて座り込んでしまった。

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