散歩の七十九話 まさかの再会
「はい、今日の依頼は完了です。四日後からについても、その日の作業が終わったら報告をお願いします」
「はい、分かりました」
花見会場から帰って手続きをするが一応毎日報告が必要らしく、その度に依頼料は払われるという。
今日分の依頼料を受け取って帰ろうとする時に、例のエルフの受付のお姉さんから声がかかった。
「あ、シュンさん。ギルドマスターがお会いしたいと申しております」
「こっちは気にしないでいいよ。行ってきな」
「はい、分かりました。すみません、宜しくお願いします」
「はい、ではご案内しますので」
そういえば、今日ギルドマスターが帰ってくるって言っていたっけ。
剣士のお姉さんに宿へ遅れる旨をお願いして、僕はとある個室に案内された。
どんな人がギルドマスターかと思う間もなく、ドアがノックされてギルドマスターが入ってきた。
あれ?
最近見た記憶のある人だぞ。
「え、ギルドマスターってもしかして……」
「おう、俺だ」
「久しぶりね」
「「「えー!」」」
僕のみならずシロもアオもスーも驚いてしまった。
ドアを開けて現れたのは、犬獣人とうさぎ獣人。
そう、子爵領から東の辺境伯領の領境の街まで一緒だった冒険者の夫婦だった。
冒険者ランクとはかけ離れている剣技を持っていたけど、ギルドマスターなら納得する。
「ははは、騙した形になったな」
「ふふふ、どうしても別れたあの街で仕事があったのよ」
どうも一緒に馬車に乗った時から、僕達の事を知っていた様だ。
という事で、改めて自己紹介をする事に。
「俺の名はバイザードだ。一応この街のギルドマスターをしている」
「改めて、リリアナよ。私はギルドマスター補佐ね」
「因みに、受付嬢も兼ねているがあのエルフがサブマスターだ」
「そうだったんですね。びっくりしました。改めて宜しくお願いします」
「「お願いします」」
「うむ」
という事で話し合いが始まったのだが、先にギルドマスターから話があった。
「先に黃マスターとしてお礼を言わなければならない。教会のバカを撃退した事だ。感謝する」
「私からもお礼を。受付の皆を守ってくれて有難うね」
「いえ、僕の依頼にも関係していますので。それにしても、聖職者とは思えないですね。ここだけの話ですが、悪者の気配がしました」
「その考えは俺も同じだ。奴らからは嫌な匂いがしている」
どうもギルドマスターも、あの教会の関係者は怪しいと思っているようだ。
一段と目つきが険しくなった。
「そして、私達がいない時に限って教会の関係者が現れるのは、きっと仕組まれた事だわ」
「俺らが不在だという情報は、うちのギルドの職員とごく一部の領主様の関係者しか知らない。冒険者には教えない内容だからな」
「となると、可能性は四つですね。一つ目はギルド職員が漏らす。二つ目は、領主様の関係者が漏らす。三つ目はギルド内に盗聴器が仕組まれている可能性。四つ目は、領主様の屋敷に盗聴器が仕組まれている可能性。複合の組み合わせも考えられます」
「うむ、良い線だ。俺も同じ事を考えた。ギルド内については盗聴器はなかったから、選択肢は一つ減る」
流石はギルドマスターだ。
既にギルド内の捜索を済ませてあるとは。
となると、選択肢は限られてくる。
すると、奥さんから更に追加情報がもたらされた。
「ギルドから領主様の屋敷に私達の出張を報告するのは、決まった人員ではないのよ。なので、ギルドから領主様の屋敷に至る所までは情報漏洩はないわ」
「うーん。となると、個別に教会を訪れて誰かに話す事も考慮しないといけないのか。それだと、捜査範囲も大きくなりますね」
確認できた範囲では問題なかったので、少しずつ潰していくしかないのかな。
「しかし、シュン達は面白いな。あの南の辺境伯領のギルドマスターがお前らの事を面白い人材だと手紙によこしたが、想像以上に面白いなあ」
「えーっと、その手紙に何が書いてあったかとても不安でならないのですけど……」
あの南の辺境伯領のギルドマスターがおかしい事は書くはずないけど、目の前の東の辺境伯領のギルドマスターが笑いながら話をしているのが、とても不安でならないぞ。
と、ここで目の前で笑っている人が更に爆弾をぶち込んできた。
「どうせあのギルドマスターの事だから、辺境伯様宛の手紙を持っているのだろう。情報漏洩の疑惑の事で軽く話したら、早速お前らと会いたいってなった。って事で、これから直ぐに領主様の屋敷に行くぞ」
「えっ!」
「こういうのは早く決着をつけた方が良いわ。私も一緒に行きますわよ」
という事で、あっという間に領主様との面会が決まった。
というか、勝手にセッティングされていた。
僕だけでなく、流石のスーも驚いていたぞ。
「シュンお兄ちゃん、今度はどんなお料理が出てくるかな?」
そして、シロにアオよ。
期待している所悪いが、辺境伯様の屋敷に行くイコール食事が出てくる訳じゃないぞ。
ちゃんとお仕事に行くのだから。
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