散歩の十一話 宿に到着

 僕とシロとアオは、ギルドを出てすぐ近くにあるというコマドリ亭を探している。

 探しているのだが、それよりも目立つ光景が。


「あんな安宿なんかに泊まれるか!」

「私達に相応しいエレガントな宿を探しましょう」

「すみません、すみません」


 如何にも傲慢そうな剣士に派手な服を着た女性の魔法使い、お店の人にペコペコと謝る背の小さな女性。

 うん、恐らく素材をボロボロにしたパーティだな。

 確かに貴族っぽい派手な服装だな。

 早速出会ってしまったけど、確かに絡みたくないな。

 シロもシロの頭の上に乗っているアオも、思わず呆然としてみているよ。

 一行はそんな周りの事を気にせずに、ズカズカと歩いて街の中心部に消えていった。


「あの一行には関わってはいけないね」

「だね。特にあの男の人と派手な女の人は、嫌な感じがしたよ」


 アオもシロの話に同調している。

 とにかく関わってはいけない人物だ。

 荒くれ者に慣れていそうな街の人も、あの一行には警戒している。


「とはいえ、僕達はあの宿に泊まるのだけどね」

「シロは、お兄ちゃんと一緒なら全く問題ないよ」


 という事で、僕達はそのコマドリ亭に向かっていく。

 うーん、確かに安いって感じだけど、全然良い宿だと思うのだけどな。


「こんにちわ!」

「おう、いらっしゃい嬢ちゃん」


 如何にも冒険者上がりっぽい店主が迎えてくれた。

 でも、全く感じも悪くないな。


「すみません、宿を取りたいのですが、部屋は空いていますか?」

「おう、嬢ちゃんと一緒なら一部屋にベッドが二つある部屋が良いだろう」

「では、二週間でいくらですか?」

「夕食付きで七万ゴールドだ。夕食抜きだと、一泊千ゴールド引きになるぞ」

「では、夕食付きでお願いします」

「毎度あり。今、娘に部屋を案内させるぞ」


 前払いでお金を払っておく。

 さっきのオオカミの取引金額が三十万ゴールドだったので資金には余裕があるが、ここは二週間としておこう。


「そうだ、風呂はないが裏庭で水浴びはできるぞ」

「お気遣い有難うございます」


 僕達は生活魔法があるので直ぐに綺麗にする事ができるが、普通の人は魔法自体が使えないからな。

 しかし、この寒い時期の水浴びは寒そうだぞ。


「そういえば、さっき騒ぎがありましたが大丈夫でしたか?」

「あのくらいは大丈夫だ。うちはギルドと提携しているが、たまに金持ちで冒険者になりたての勘違い野郎があの様な騒ぎを起こすぞ」

「うーん、僕にとってはとても良心的な宿だと思うのですが」

「高い宿はサービスが充実しているが、そのサービスになれてしまうと中々他の宿にはいけない。その内に現実を知ってもっと安宿に泊まる事になるぞ」


 店主はガハハと笑い飛ばす。色々と経験済みなのか、かなり余裕がある。

 と、そこに僕より年上っぽい女性が現れた。

 この人が店主の娘さんかな?

 店主は人間だけど、この人はウサギ獣人ぽくて大きな耳があって胸が大きい。

 シロとアオの視線が女性の胸に釘付けになっていた。


「お父さん、部屋の準備できたよ」

「おお、そうか。案内してくれ」


 娘さんの先導で、僕達は部屋に向かっていく。

 他の冒険者は依頼を受けに良いっているのか、宿はシーンとなっていた。

 案内されたのは、二階の角部屋だ。

 

「この部屋だよ」

「うわあ、綺麗だね!」

「ははは、ありがとう。鍵はお兄ちゃんに渡しておくよ」

「はーい」


 日当たりが良いので、外の寒さも感じられない。

 シロとアオは、早速ベッドにダイブしている。

 ベッドは二段ベッドで、部屋には小さな机と椅子もあった。


「トイレは共用で、一階にあるよ。夕食は六時からだ」

「皆さん朝食はどうしていますか?」

「市場で買って食べる事が多いですよ。市場も近くにあって朝早くからやっているので、冒険者も多く買いにいきますよ」


 娘さんから鍵を預かって、少し注意事項を言われた。


「出かける時は必ず鍵をかける事。部屋の中にいる時も鍵を必ずかけて下さい」

「盗難防止ですね」

「その通りです。しっかりしたお兄ちゃんがいると良いですね」

「うん!」

「何かありましたら、一階のフロントに声をかけて下さいね」

「はーい」


 シロが元気よく手をあげて、お姉さんに返事をしている。

 それを見たお姉さんは、部屋を出て戻っていった。

 さて、夕食まで時間があるけど、何をしようかな。

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