千百三十五話 みんなで観光船を楽しみます

 観光船は三階建ての大きな作りで、全長は三十メートルを優に超える大きさだった。

 魔導具型の推進力を使っていて、設備にもこだわった最新式の船みたいです。


「皆様がケイマン男爵領の湖をアピールしてくれたお陰をもちまして、観光客も大きく伸びました。宿泊施設も新たに建設が始まりましたし、これからも更に施設整備を進めます」


 ヘイリーさんが僕たちを先導しながら感謝を言ってくれたけど、元々この観光船は数年前から建造を進めていたそうです。

 ケイマン男爵領には造船業者もたくさんあるので、きっとみんなが集まっての大がかりな仕事だったんでしょうね。

 莫大な建造費が掛かったのは間違いないのだろうけど、投資するだけの効果は出ているそうで毎回乗船チケットは完売だそうです。

 そして、僕たちは三階の展望デッキの近くの部屋に入りました。

 出港する際に観光船が揺れるので、船内に入ったら全員必ずどこかの部屋に入ることになっています。


「「「すごーい! きれー!」」」


 部屋にいても、窓際に行けば湖の雄大な景色を一望できます。

 ちびっ子たちは、窓からの景色に大興奮しています。

 そんなちびっ子たちの隣で、リズたちも窓から見える景色に見とれていました。

 そんな時、船内にアナウンスが響きました。


「間もなく出港となります。出港時は揺れますので、お近くの席にお座りになるか手すり等におつかまりください」

「「「はーい!」」」


 船内アナウンスにちびっ子たちが元気よく返事をしていて、レシステンシアさんやサキさんたちも思わずクスクスとしていました。

 そして、ゆっくりと観光船が進み始めると、またもやちびっ子たちが歓声を上げていました。


「皆様、お待たせいたしました。本日は、観光船にお乗り頂きありがとうございます。港に戻るまで、暫し湖上の観光をお楽しみ下さいませ。間もなく安定航行に入りますので、今暫く船内に留まって頂くようお願いいたします」


 再び船内アナウンスがあり、程なくしてデッキに出ても良いというアナウンスがされました。

 すると、ちびっ子たちは何かを発見して、揃って展望デッキの方に向かって行きました。

 僕たちも急いで後を追いかけると、なんと展望デッキにドラちゃんがちょこんといたのです。

 きっと、観光船が出港して暫くしたら港から飛んできたのですね。

 ちなみに、多分こうなるだろうと思って、念の為にドラちゃん分の乗船チケットを購入済みです。


「ドラちゃんも、お船に乗ったんだね」

「グルル」


 ドラちゃんは飛竜にしてはそんなに体が大きくなく、ミカエル一人を乗せるのが精一杯な大きさです。

 なので、展望デッキにちょこんといても重さ的にも問題はなさそうです。

 そして、たまたま乗り合わせていた他の子どもたちもドラちゃんの側に来て、一緒に湖の景色を眺めていました。

 僕たちもデッキから景色を眺めているけど、湖には島もあって本当に色々な姿を見せていますね。

 このタイミングで、移動販売もやってきました。


「冷たい飲み物はいか……」

「グルッ!」


 ドラちゃん、移動販売のお姉さんに向かっていの一番に手を上げてアピールしないの。

 しかも、首から下げたマジックバッグから器用にお金を取り出して、集まっている子どもたちの分も購入していました。

 ミカエルたちは自分でジュースを買うと、移動販売のお姉さんにお金を渡していました。


「なんというか、ほのぼのとする光景ですわね……」

「そ、そうですね。ドラちゃんは、猫ちゃんみたいな飛竜ですから」


 ドラちゃんと子どもたちが景色を観ながらまったりとしている光景に、レシステンシアさんとサキさんもニコニコしていました。

 ちなみに、サキさんが猫ちゃんみたいと言ったら、エリちゃんの側にいたネコちゃんが「自分のこと?」って振り返りました。


「あー、久々にまったりするなあ……」

「そうねー、ずっと忙しかったもんね……」


 ジンさんとレイナさんたちも、デッキに寄りかかりながらボケーっと湖を眺めていました。

 ジンさんたちも仕事でとても忙しくて、新型の小型魔導船のテストも兼ねて各地の冒険者ギルドを飛び回っていました。

 更に元冒険者が犯罪者になり下がる事件もあったし、まだまだやる事はたくさんありそうです。

 とはいえ、犯罪者に成り下がった冒険者は一獲千金を狙って自爆したので、自業自得なところもありそうです。


「えー、アイスはいか……」

「グルッ!」


 また移動販売のお姉さんがやってきて、ドラちゃんがすかさずアピールしていました。

 移動販売のお姉さんも、二回目になると普通にドラちゃんに接客していました。

 僕も、リズたちの分のアイスを買ってみんなに配ります。

 なんだかみんなまったりとしていて、時間の進みがのんびりですね。

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