九百九十九話 実技試験開始

「なお、試験は身体能力強化のみ使用可能となります。剣技の試験終了後、魔法で試験を受けたい方は申し出て下さい。受験番号順にグループを作って試験を行います」


 先生の合図で、一斉に受験生が動き始めた。

 リズたちは一つの班にまとまっているけど、これは安全管理の意味もある。

 王女様でもあるエレノアの安全管理と、他の受験生がリズたちの実力を見てショックを受けないためです。

 無事にグループ分けができたところで、早速試験を開始します。


「えい、やあ、やあ!」


 ヒュン、ヒュン、ヒュン。


「そうそう、良い感じよ。もっと踏み込んで良いわよ」


 エレノアがレイナさんに木剣を振るっているけど、身体能力強化を使っているとはいえ中々良い感じだった。

 ちなみにエレノアが使っているのはレイピアタイプの木剣で、他にもダガータイプなど色々な木剣を準備しておいた。

 もちろん、僕たちの魔力を通して強化していない普通の木剣です。

 他の受験生も思い思いに剣を振るっていて、僕から見てもとても良い感じだった。

 一見問題なく実技試験が進んでいるかと思われたが、ここでカンニングをした面々がまたもややらかしてしまった。


 ブン、ガキン!


「うん、なんだこの音は? スラちゃん、調べてくれ」

「げっ」


 実技試験は自分の木剣を使っても良いのだけど、もちろん普通の木剣じゃないと駄目です。

 ぽっちゃり君がルーカスお兄様に振るった木剣から、金属音みたいなものが聞こえたのです。

 すぐさまスラちゃんが鑑定魔法を使ったけど、なんと木剣の中に金属の棒を入れて重さを足していました。

 つまり、自分の斬撃がより鋭く見えるように誤魔化したことになります。

 この事実に、ルーカスお兄様の怒りのメーターがゴゴゴって上がっていきました。

 個人的には、ルーカスお兄様とスラちゃんが普通に会話していたのにビックリしたけど。


「全員手持ちの木剣を出すように!」

「「「はっ、はい……」」」


 ルーカスお兄様の怒号に、何人かが観念して偽造した木剣を前に出した。

 スラちゃんが確認した結果、四人が偽造した木剣を使用していた。

 全員同じ一派で、僕たちを大したことないと言っていた面々です。

 というか、生徒会長でもあるけど王太子殿下でもあるルーカスお兄様に偽造した木剣を使うのってある意味凄い神経しているね。


「ふふ、ふふふ……」

「「「ひっ、ヒィィ……」


 あっ、ルーカスお兄様の怒りのメーターが振り切れちゃった。

 珍しい真っ黒の笑みを浮かべるルーカスお兄様を見て、木剣を偽造した四人は尻餅をついて後退りしていました。

 スラちゃんもちょっとビクッてしているけど、自分が招いた結果なのだからしっかりと受けてもらいましょう。

 すると、ルーカスお兄様は魔力で強化された木剣に持ち替えた。


「せっかく良い木剣を用意しているのだから、存分に振るうが良い。今更、別の木剣に替える必要もないだろう」


 ということで、ルーカスお兄様はあえて偽造した木剣を手に取らせて実技試験を再開した。

 でも、元々偽造した木剣に頼るような腕前なので、下手な踊りを踊っているみたいに酷すぎた。

 もう、ことの成り行きを見守っていた僕とスラちゃんも唖然とするものだった。

 ちなみに、カンニングをしたけど一応きちんとした木剣を持ってきた、あるいは木剣を借りた人にはアイビー様が相手をしていた。


「「「はあはあはあ」」」

「お前たち、三分どころか二分も体力が持たないのはどういうことだ!」


 なんというか、茶番劇を見ている気がしてならなかった。

 そもそも体力がないので、僅か三分の実技すら体力が持たなかった。

 あまりにも不甲斐ない結果にルーカスお兄様の怒りが収まらないけど、これは試験なので剣技から魔法に変更することにした。


 ぴょんぴょんぴょん。

 さっ、シュイーン。


「あのスライム目掛けて、思いっきり魔法を放つのだ。既に実感したと思うが、あのスライムは普通のスライムではない。存分に魔法を放って構わない」


 ルーカスお兄様が、少し離れたところで魔法障壁を構えるスラちゃんを剣で指した。

 スラちゃんも、どんな魔法が放たれるのかとっても楽しみにしていた。

 因みに、全員火魔法が使えるという。

 結果から言うと、四人中三人は威力はともかくとしてそこそこの大きさのファイヤーボールを放っていた。

 普通にこれくらいやれば良かったのにと、僕もルーカスお兄様も思わず呆れてしまった。

 しかし、一番最後の四人のボス的存在でもあるぽっちゃり君がある意味凄かった。


 シュイン、ヘロヘロヘロ、カコン。


「「えっ?」」


 ぽっちゃり君はピンポン玉くらいのファイヤーボールを放ったかと思ったら、何とスラちゃんの魔法障壁まで届かずに地面に落ちてしまったのです。

 これには、僕とルーカスお兄様だけでなくスラちゃんも言葉を失ってしまいました。

 なのでスラちゃんがスススってぽっちゃり君の前に近づいて魔法を受けたのだけど、魔法障壁に殆ど衝撃がなかった。

 念のためにぽっちゃり君の手を取って魔力を確認したけど、別に少ないってわけでもなかった。

 うん、ということですね。


「今や、貴族も自己研鑽を重ねて自分を高めなければ自分の望む仕事は得られない。貴族名だけで仕事を得られる時代ではなくなったのだ。このままでは、学園に入園することすら叶わないぞ」

「はあはあ、ぐっ……」


 ルーカスお兄様の厳しい言葉に、ぽっちゃり君は息を荒くしながらルーカスお兄様を見上げていました。

 いやね、ここでルーカスお兄様を睨むのは筋違いな気がするよ。

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