九百七十六話 カノープス男爵領を調査その一

 結局昼食までの間に財務監査が終わらなかったので、昼食をご馳走になってしまった。

 王城か屋敷で食べるといっても、カノープス男爵夫人から是非にと言われてしまった。


「「「おいしー!」」」

「ふふ、ありがとうね。たくさん食べて良いのよ」


 何故かミカエルたちまでやってきて、昼食を食べていた。

 出てくるものを考えると、そんなに食糧には困っていないみたいだ。

 因みに、ルカちゃんとエドちゃんは午後のお勉強があるので不参加です。

 実際に町の様子を確認しようということになり、午後は冒険者ギルドと教会に向かうことになった。

 というのも、財務調査官が追加となり早急に僕とジンさんがやることがなくなってしまったのだ。

 勉強の一環だとカーセント公爵がサギー伯爵に色々と教えていたけど、僕はって聞いたら大丈夫だと言われちゃいました。

 でも、ウキウキしているミカエルたちに言わないといけません。


「今日はあくまでもお仕事だから、ちゃんと気がついたことをメモしましょうね」

「「「はーい」」」


 既に手にはメモ帳とペンを持ってやる気満々だし、リズたちも側にいるから大丈夫ですね。

 ということで、護衛の兵も付きながら町の様子を確認します。


「『この町はどうですか?』とか、『気になることはありますか?』などを聞くんだよ」

「お話も聞くのも、お勉強だよ」

「「「頑張る!」」」


 道中リズとエレノアがミカエルたちに色々と教えていたけど、特別調査チームで色々と情報を集めるのにも慣れているもんね。

 せっかくなので、ブライトさんたちも同行して色々と意見を集めてもらいます。

 人の話を聞くのも、大切な勉強の一つです。


「あっ!」


 タッタッタッ。


「こんにちはー! お話聞かせて下さい!」


 あっ、ミカエルが道中会う人にも声をかけていた。

 まあ悪いことじゃないし、ジンさんたちも側にいるから大丈夫ですね。

 それに、小さい子の方が話を聞きやすいんだよね。

 こうして、のんびりと歩きながら冒険者ギルドに到着しました。

 うん、看板を見過ごすとただの商店にしか見えないね。


「「「おおー!」」」


 それでも建物の中に入ると数人の冒険者がいて、カウンターもあった。

 受付嬢はおばちゃんですね。

 そして、いきなり子どもが現れたので冒険者もなんだこりゃって表情をしていました。


 タッタッタッ。


「「「こんにちは! お話聞かせて!」」」

「あっ、ああ……」


 そして、ちびっ子に囲まれてあたふたしているけど、話を聞く分なら問題なさそうです。

 その間に、僕たちは受付のおばちゃんに話を聞きます。

 すると、ジンさんが冒険者カードをおばちゃんに見せました。


 スッ。


「Aランク冒険者のジンだ。この町の依頼について、ちょっと話を聞きたい」

「「「え、Aランク冒険者!?」」」


 おお、冒険者ギルド内が一気にざわめき出した。

 おばちゃんも、固まりながらジンさんの冒険者カードを確認していた。

 そして、視線が目の前にいるジンさんと手元の冒険者カードを何回も行き来していた。


「こ、こりゃたまげたわ。まさか、こんな田舎にAランク冒険者がくるとは……」


 おばちゃんは、驚きの表情のままジンさんに冒険者カードを返却した。

 この場にAランク冒険者があと四人いることは黙っておこう。

 すると、おばちゃんは何かに気がついたみたいだ。


「もしかして、お館様の屋敷に兵が入ったのと関係しているかしら?」

「関係なくはないぞ。でも、俺たちがやっているのはただのこの村の実態調査だ」

「そういうことかい。だから、ちびっ子も色々と話を聞いているのだね」


 ということで、おばちゃんの配慮でこの小さな冒険者ギルドの責任者に会わせてくれることになった。

 奥の部屋かなと思ったら、なんとカウンターの隣の買い取りブースに責任者がいた。


「あんたー、お客さんだよ」

「おう、声がよく聞こえたぞ」


 なんと、解体担当がこの冒険者ギルドの責任者だった。

 というか、ここは夫婦で経営している冒険者ギルドなんだね。

 でっかい解体包丁とエプロンを身に着けたスキンヘッドのおじさんが、僕たちの前に姿を現した。


「あの馬鹿領主は、ようやく捕まったみたいだな。代々馬鹿なものしかいなかったぞ」


 おお、解体包丁を片付けながらいきなり領主批判をしているよ。

 というか、この場にいる人がうんうんと頷いているよ。


「工事普請のお願いを出しても、金がねえといつも言ってやがる。そんなくせして、ブサイクな愛人に熱を上げていやがる。最低最悪な領主だ」


 というか、カノープス男爵への批判が止まらなくなった。

 それだけ今までの鬱憤が溜まっていたんだね。

 なにか有益な情報が出てくるかもしれないので、そのまま話を続けさせた。


「土地改良工事のお願いって、ずっと出ていたんですか?」

「もう何百年も前からだ。他の領地は開発が進んでいるのに、うちはずっと田舎のままだ。だから、地元住民もどんどんと他の領地に行っちまうぞ」


 つまりは、普通に開発を続けていればいいのに、それを怠ったという。

 本人は政務を妻に丸投げして贅沢三昧と、本当に駄目な領主ですね。

 まあ、バスタオル一枚巻かれた状態で連行されてきたのを見るだけで、どんな人物かよく分かるなあ。

 そして、リズたちがこの話をメモしていた。

 カーセント公爵に見せたら、絶対に激怒しそうです。


「だから、俺らの仕事も害獣駆除と荷運びしかねーよ。本当なら他の町のような依頼もあるはずだが、それもかなわねー。ため息しか出ねーよ」


 冒険者としての仕事もなんにもないから、冒険者も集まらない。

 ここにいる冒険者も、荷運びの護衛を終えたところらしいです。

 防壁もなにもない町だから、害獣駆除もたくさんやらないといけないのに人手も足りないんだ。

 本当に何もないところなんだね。

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