九百七十四話 仕事を放棄していたもの

 すると、スラちゃんが僕のところにやってきてこんなことを言ってきた。


「あの、服で隠れているところに痣が複数あったみたいです。赤ちゃんにも叩かれた痕が……」

「ふう、虐待をしているという話は聞いていたが、そんな隠蔽工作までしていたとは。どうせ、普段の政務もそなたに丸投げしていたのだそうな」


 カノープス男爵夫人は、うつむいたままこくりと頷きました。

 きっとこの男爵領に嫁いでから、大変なことばっかりだったのかもしれない。

 涙がポロポロと膝の上に落っこちて赤ちゃんにかかりそうなので、ジンさんが赤ちゃんを受け取った。


「あー」

「生後半年くらいかな。うーん、少し軽いな」

「あぶー」


 流石は普段お父さんをしているジンさんです、直ぐに色々なことを見抜いていました。

 スラちゃんが赤ちゃんのおしめを替えて、ヤギの乳を温めて哺乳瓶に入れて飲ませていました。

 もしかしたら、カノープス男爵夫人のお乳の出が良くなかったのかもしれませんね。


 バン!


「カーセント公爵閣下、二人を連れてきました」

「ご苦労」


 夫人と赤ちゃんの様子を見て怒り心頭なカーセント公爵の前に、裸にバスタオルを巻いた状態でぐるぐる巻きにされている中年男女が連れられてきました。

 うん、何というかとっても醜い姿です。

 中年男性はバーコードヘアの肥満体で、悪い人ってみんな太っているなあって思っちゃいました。

 中年女性も緑髪のどこにでもいそうな人で、こちらはこの状況を見て顔を真っ青にしていました。


「カノープス男爵、副宰相のカーセント公爵だ。財務監査の当日に、屋敷を投げ出して不倫相手と情事に浸っているとはな。見上げた根性としか言いようがないな」

「ぐっ……」


 もはやなすすべ無しというレベルでカノープス男爵を見下しているけど、当のカノープス男爵は歯ぎしりをしながらカーセント公爵を見上げていた。

 僕とジンさん、それにサギー伯爵はカーセント公爵の迫力に押されてしまい、スラちゃんとプリンとともにカノープス男爵夫人と赤ちゃんの側にいた。

 結果的に、この判断が正解だった。


「くそ、俺は貴族の中の歴史ある貴族だ。誰の指図も受けないぞ!」

「はあ、そんな妄想たかがしれている。我が家も王国創立以来の貴族家だが、慢心を持たず常に危機感を持って行動していた。そもそも、今回の件はその王国からの財務監査だ。何人も、従わないという選択肢は存在しない」

「ぐっ……」


 カーセント公爵は、カノープス男爵をもはや相手にするのも馬鹿馬鹿しいと思っているのだろう。

 確かにこの場にいてももはや意味はないし、カノープス男爵にふさわしいところに行って貰いましょう。

 ということで、僕は王城の兵の詰め所にゲートを繋ぎました。

 すると、既に連絡を受けていたのか、軍務卿とこの方が待っていました。


「ふむ、財務監査の時間なのにこんな姿でいるとは。随分と繁殖行為が好きなようだな」

「へ、陛下!?」

「聞きたいことがたくさんあるが、まずはこの不埒ものを兵にぶち込め」

「「「はっ」」」


 そうです、陛下も兵の詰め所で待っていました。

 陛下も、あまり見た事のないレベルで激怒していますね。

 ちなみに、一緒にいた中年女性は、カノープス男爵領の兵の詰め所に連行されるそうです。

 そして陛下がこちらにやってくると、カノープス男爵夫人はもう顔面蒼白です。

 土下座しそうな感じになったけど、陛下が手で制しました。


「現時点では、そなたは何も問題はない。もちろん、その子もな。そなたがこの領地の実質的な管理者だというのは分かっておる。素直に監査に協力し、子どもの面倒をみるように」

「は、はい……」


 カノープス男爵夫人は、赤ちゃんの安全が確保できたのかかなりホッとしていた。

 そして、陛下は王城に戻って行った。

 というのも、捕まったカノープス男爵の取り調べに王妃様も参加したいと言っているらしい。

 そりゃ、色々と思う所もあるだろうね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る