八百九十話 事件の真相
暫くすると色々なことが分かったと連絡が入ったので、僕は宰相たちを迎えに行きました。
ここでもシーラさんが宰相、辺境伯様、先々代夫人、ジンさんを紹介します。
そして本題の前に、宰相はノーラさんに話しかけました。
「そういえば、以前ベンド伯爵が小さな娘を連れて屋敷に来たことがあったな。あの時の娘が、こんなにもおおきくなったとは感慨深い」
「私も、そのことを鮮明に覚えております。その、お庭でレイナ様が剣を振るいながら楽しそうにしていたこともです」
「はは、レイナは昔からお転婆だったからな。今はジンに嫁いでいるが、相変わらずだ」
何だか、ジンさんだけでなく辺境伯様も苦笑しているのは気のせいじゃないと思います。
レイナさんは、娘のレイカちゃんに負けず劣らず元気だもんね。
そして、更に亡くなったギデオンさんの話に移りました。
「昔からギデオンは病弱で、自分に似ているとベンド伯爵は嘆いていたよ。でも、まさかこんなにも早く亡くなるとは……」
「ただ、兄は学園の時から死期を悟っておりました。そして、亡くなる時も苦しまずにいきました」
「そっか、それはせめてもの救いだ。ベンド伯爵は、そなたが小さい時に妻を亡くしていて、きっと心落ちしているだろう」
何だか、複雑な環境なんだ。
ノーラさんはお母さんとお兄さんを亡くしてお父さんが病気で寝込んでいるのに、こうして気丈に対応しているんだ。
すると、話を聞いていたリズが手を上げました。
「リズ、ベンド伯爵の治療をするよ!」
「エレノアも治療するの!」
「えっ、でも……」
エレノアだけでなくスラちゃんも手を上げているけど、ノーラさんは言葉を続けられないでいた。
それは、きっとベンド伯爵の病状が良くないことを意味するのだろう。
それでも、リズとエレノアは引き下がらなかった。
「駄目かもしれないけど、リズは病気の人がいたら助けたいよ!」
「エレノアもなの。苦しんでいる人は見過ごせないよ!」
「リズ様、エレノア殿下……分かりました、侍従に案内させますので、どうか宜しくお願いいたします」
リズはどんな人にも積極的に治療をするから、ベンド伯爵だけでなくノーラさんも助けたいって思っているはずです。
ノーラさんも二人の気持ちを汲み取って、立ち上がって頭を下げました。
そして、侍従が二人と一匹をベンド伯爵のところに案内したところで、本題に入ります。
「結論からいうと、この婚姻申請書にベンド伯爵は無関係だ。犯人は、ベンド伯爵の王都屋敷の隣りのデンバー子爵だ」
「デンバー子爵、ですか?」
「アレク君には、以前上司を殴った自分の意見を押し通した担当者といえば分かるだろう」
えー!
まさかこの事件の真犯人が、あの大問題を引き起こした担当者だったとは。
これは、僕も完全に予想外です。
僕とノーラさん以外、全員呆れた表情をしていました。
「現在、奴の屋敷に軍が向かっている。簡単に済む話ではないからな。更に、ベンド伯爵家に対する名誉毀損にもなるから、今後、何回かノーラにも話を聞かないとならない」
「宰相閣下、恐れ入ります。そういえば、兄の同級生にベンド伯爵家のものがいたと聞いたことがあります。とてもしつこくて、何回も絡まれたと言っておりました」
「うむ、その話も内務卿と軍に伝えよう。恐らく、デンバー子爵は何かの理由で今回の書類偽造を行ったのだろう」
僕の予想では、デンバー子爵が捕まった逆恨みを晴らすために今回の事件を行った可能性が高いと思います。
そして、ベンド伯爵家は完全に巻き込まれただけですね。
でも、その代わりにベンド伯爵の治療をリズたちが行うこともできたし、ノーラさんも安心したでしょう。
コンコン。
「失礼します。お嬢様、旦那様が意識を取り戻しました」
「えっ、お父様が!」
ノーラさんは、お父さんが意識を取り戻したと聞いてかなりビックリしていました。
すると、ここで宰相とシーラさんがノーラさんに優しく話しました。
「話はこれで終わりだ。そなたは、一刻も早くベンド伯爵の下に向かうがよい」
「私たちは、少し時間を置いてから挨拶に伺うわ」
「何から何まで、本当にありがとうございます。それでは、失礼いたします」
ノーラさんは、頭を下げてから足早に応接室を出て行きました。
ちょっと涙目だったけど、それは仕方ないよね。
僕たちは、紅茶のおかわりを貰いながら少し時間を潰していました。
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