八百八十八話 謎の婚姻届
「じゃあ、お兄ちゃん行ってくるね!」
「気をつけてね」
今日も僕たちは、いつも通り王城でお仕事をしています。
王城の問題のある部署へは、主にリズとジンさんたちが向かってトラブルを起こした時だけ僕がフォローすることになっています。
なので、今日は普通に書類整理を進めていきます。
カリカリ、ペラペラ。
「宰相、書類ができました」
「アレク君よ、ナッシュとスタンリーからの書類もあるのだよ。もう少しゆっくりでも問題ないよ」
宰相の机の上に書類を置くと、何故か宰相が苦笑していました。
最近はナッシュさんとスタンリーさんが沢山の書類を裁いてくれるので、僕が確認する書類量はそんなに多くありません。
こんな感じで書類の確認を進めていく中、急に宰相執務室の扉が開きました。
ガチャ。
「宰相、アレク君、とんでもない書類が届きました」
だいぶ困惑した感じの内務卿が、宰相に一枚の書類を渡しました。
僕も宰相の横から書類を見るけど、内容を見て思わず固まってしまいました。
「えーっと『ホーエンハイム辺境伯令嬢エマ並びにオリビアのサギー伯爵家との婚約に異議を唱え、我がベンド伯爵嫡男ギデオンの婚姻を申請する』こんな事ってあるんですか?」
「複雑な貴族関係だと、異議を申し出て閣僚に判断を委ねる事はないことはない。だが、既に両家で決まった婚姻だ。そこに、第三者が聞いていないと口を出したのだろう」
僕の疑問に、宰相も呆れながら答えてくれました。
内務卿も同じく呆れているけど、このベンド伯爵って一体誰なんだろうか?
その辺も確認する為、宰相経由で辺境伯様とサギー伯爵家に連絡を取りました。
「うーん、娘に話を聞いたが、学園時代にこのギデオンという者は知らないと言っております」
「孫も同様じゃ。全く聞いたことのない男だと言っておる」
僕がゲートで辺境伯様とサギー伯爵家の先々代夫人を呼び寄せたけど、二人ともこのギデオンという人物を知らなかった。
内務卿も情報を集めているけど、そもそもベンド伯爵って一体誰だろうって話になった。
すると、シーラさんがみんなにお茶を配りながら話しかけてきました。
「宰相、そういえば同級生にベンド伯爵っていなかったかしら? 王都近くに領地を持っているはずだよ」
「あっ、思い出した。物凄く影の薄い男子だったな。でも、そう考えると、こんな手紙を出す人物とは思えないぞ」
何と、ベンド伯爵は宰相とシーラさんの同級生だった。
でも、二人曰くそのベンド伯爵が手紙を出すとは考えにくいそうです。
何にせよ、ベンド伯爵がこの手紙を出した意思を確認しないと。
ということで、この人たちを呼び寄せました。
「何だかきな臭い話だな。裏がある気がするぞ」
休憩のタイミングで、ジンさん達にも話に加わって貰いました。
ジンさんとスラちゃんは、この婚姻関係の書類には何かあると睨んでいました。
因みに、ジンさん達が学園に行っている時にも、このギデオンという人物はいなかったそうです。
「エマお姉ちゃんとオリビアお姉ちゃんの結婚が決まっているのに、とっても酷い話だよね!」
「本当だよ! 結婚式、とっても楽しみにしているのに」
リズとエレノアもぷんぷんなんだけど、とにかくベンド伯爵領に行って真相を確かめることになりました。
地図でだいたいの場所を確認したスラちゃんが、飛行魔法を使って現地に急行しました。
一時間もあればベンド伯爵領に着くそうなので、辺境伯様と先々代夫人はそのまま宰相執務室に残ります。
内務卿はもう少し情報を集めようと、自分の執務室に戻りました。
「では、私も席に……うおっ!」
自席を見た宰相が叫んだので何かあったのかなと振り返ったら、宰相の机の上に沢山の書類が積まれていました。
やっぱり、ナッシュさんとスタンリーさんは優秀ですね。
「ははは、仕事があっていいじゃないか。一時間なんてあっという間に過ぎるよ」
「とほほ……」
シーラさんが大笑いしながら宰相の背中を叩いていたけど、前にも見たことのある光景ですね。
因みにリズたちも情報をまとめる作業があるので、僕もお手伝いすることにしました。
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