八百七十三話 やっぱりデスポーションだった……

「この、女性の作ったポーションを飲んでもらうぞ」

「美人が作るポーションか。はは、冥土の土産になるな」


 ジンさんが死刑囚に言うけど、絶対に冥土に行っちゃうような気がするよ。

 スラちゃんとプリンも、ふるふるとやめた方が良いとアピールしています。

 とはいえ、ポーション作りがスタートです。

 先ずは、薬草の汚れを落とすためにボウルに移して水で良く洗います。


 シュイーン、ふわっ。

 ジャー。


「はっ? スライムが魔法を使った?」


 あっ、そうか。

 僕たちはスラちゃんとプリンが魔法を使うのが当たり前だと思っているけど、何も知らない人にとってはビックリするんだ。

 念動で薬草をボウルに移して、水魔法で綺麗な水を出したので、死刑囚は目が点になっていた。

 そして、レイナさんとカミラさんも水魔法で水を出して薬草を洗っているのですが、早くも雲行きが怪しくなってきた。


 ぐっちゃぐちゃ。


「おい、何で薬草を洗うだけなのにボウルからそんなに水をこぼしているんだよ」

「えっ? よく洗うからだよ」

「風魔法を使って、水流を発生させようかしら?」

「出来もしないのに、そんなことをするんじゃない!」


 うーん、いきなりジンさんの絶叫が響き渡っていますね。

 やろうとしているのは魔法使いとしてかなり高度なことなんだけど、とにかく雑です。

 不安もありつつ、なんとか薬草を洗い終えます。

 次は薬草から有効成分が溶けやすくなるようにと、すり鉢とすりこぎである程度すり潰します。


 シュイン、ふわー。

 ゴリゴリゴリ。


 これまたスラちゃんが念動で薬草をボウルからすり鉢に移して、プリンと交代しながら器用に触手ですりこぎを持ってゴリゴリとしています。

 うん、作業も順調で安心して見ていられますね。

 レイナさんとカミラさんの方はというと、いきなり薬草をすり潰すところではなくなってしまった。



 ゴリゴリゴリ。

 ボキッ、バッキャーン!


「「あっ……」」

「おい! なんですり鉢が割れて、すりこぎが折れるんだよ!」


 またもやジンさんの絶叫が響き渡りました。

 どう見ても、二人は力を入れすぎですね。

 急いで予備のすり鉢とすりこぎを用意して中身を移しているけど、死刑囚も明らかに様子がおかしいと思っていますね。

 なので、意識してスラちゃんとプリンの方を見ています。

 続いては、薬草を鍋に移して魔石を入れながら煮ていきます。

 この際、薬草から成分が十分に抽出するように、弱火でじっくりコトコトと煮込むのがポイントです。


 シュイーン、ふわっ、ぽすっ。

 ぐつぐつぐつ。


 これまたスラちゃんが念動ですり鉢からすり潰した薬草を水を入れている鍋に入れます。

 プリンも魔石を小さな小袋に入れて鍋に投入し、魔導コンロで煮ていきます。

 時々鍋の中身をかき混ぜたり、すり鉢とすりこぎに残った薬草を吸収したりと、後片付けも行っています。

 ここまでくれば、ほぼ完成は間違いないですね。

 そして、レイナさんとカミラさんの暴走は更にヒートアップしていきました。


 ボコボコボコ。


「おい、なんで水が沸騰しているんだよ……」

「えっ? よく煮出せるように?」

「こうした方が、良いかなって思って」


 スタートから水が沸騰していて、ジンさんは思わず頭を抱えています。

 レイナさんとカミラさんは、自分がこうしたらいいと思っていますね。

 しかし、まだまだレイナさんとカミラさんの暴走は止まりません。


 どろーり。

 バッキャーン、パラパラ。


 念入りに薬草をすり潰したのか、もはや泥みたいなものを鍋に投入しています。

 更に、魔石を握力で砕いて鍋に投入しています。

 もはやジンさんも何も言わなくなり、隣で作業をしていたスラちゃんとプリンもかなりビックリして見ていました。


「ガクガクブルブル」


 そして、レイナさんが魔石を握力で砕いたところから、死刑囚が震え始めました。

 うん、気持ちは良く分かります。

 とんでもないものが目の前で作られているのを実感しています。

 一方で、スラちゃんとプリンの方は早くも火を止めて別の鍋に布巾で濾しながら移しています。

 綺麗な緑色で、ポーションの出来も良いですね。

 後は、冷まして瓶詰めして、コルク栓をすれば完成です。

 二匹の作ったポーションは、十分製品として販売できそうですね。

 では、レイナさんとカミラはというと……


 ドロドロ。


「うーん、中々裏ごしが出来ないわね」

「とろみが付いているわね」


 明らかにポーションとは思えないドロついた何かが出来ていて、裏ごしをするのに苦労していました。

 こげ茶色のドロドロの何かが出来ていて、どう見てもデスポーションの完成です。

 そして、何だか変な臭いまで漂っています。

 色々な臭いが混ざっていて、何とも言えません。

 スラちゃんとプリンも、後処理はしたくないとふるふると震えていました。

 そして、ジンさんが改めて死刑囚に聞きます。


「おい、このポーション飲みたいか? 死ぬぞ?」

「お、おう。男に二言はない!」


 死刑囚は、変なテンションになっています。

 流石に原液を飲むとやばいので、何倍にも薄めてちょこっとだけ舐めてもらうことに。


 ペロッ。

 バタン、ガクガクブルブル。


「や、やばい、白目むいて痙攣しているぞ! スラちゃんの作ったポーションを飲ませろ!」


 死刑囚が椅子から倒れ落ちて大変なことになったので、スラちゃんが飛んできてポーションを飲ませました。

 すると、瞬く間に死刑囚は意識を取り戻しました。


「はっ、な、何が起きたんだ? 死んだかーちゃんに会ったぞ?」

「うん、知らなくて良いことだ……」

「そ、そうか……」


 訳が分からない死刑囚に対して、ジンさんとスラちゃんが首を横に振っていました。

 そして、死刑囚は臨死体験をした事により、かなり素直になったそうです。

 特別面会室から死刑囚牢に戻る際、今まであったことを素直に話したそうです。

 一方、デスポーション製作者のレイナさんとカミラさんはというと……


「今回は失敗したけど、ピエロの時にはもっと良いポーションを作るわ」

「そうね。どんな効果が出るか楽しみだわ」


 何故か、本命のピエロに向けて闘志を燃やしていた。

 ここにいる全員が、駄目だこりゃと思いました。

 ちなみに、デスポーションはスラちゃんとプリンが作ったポーションで中和した上で焼却処分されました。

 この世に残して良いものではないですね。

 そして、スラちゃんとプリンが作ったポーションは、実は鑑定したら効果抜群の上級ポーションと分かりました。

 二匹の丁寧な仕事の結果ですね。

 もちろん教皇猊下と国王陛下にも報告をし、かなり熟考した上でピエロへの尋問のゴーサインが出ました。

 とはいえ、尋問はもう少し先になるそうです。

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