八百七話 喧嘩を売った愚か者の末路
気になったのは、この場にリズ達とティナおばあさまがいない事です。
ここは、事情を知ってそうな人に聞いてみましょう。
「ルシアさん、リズとかはどこにいますか?」
「えーっと、確か上の所長室にいるって言っていたよ」
ルシアさんは、何かを思い出すような素ぶりをして僕に答えました。
となると、まだ所長室にこもって何かをしている様だ。
多くの兵もいるので、一階はこのままちびっこ達とルシアさんに任して僕たちは所長室に向かいました。
ガチャ。
ゴソゴソ、ゴソゴソ。
「うわあ、これは凄い……」
所長室は、それはもの凄い事になっていました。
所長室の応接セットのテーブルの上には大量の証拠品が置かれていて、逐一スラちゃんが王城に転移して運んでいました。
それでも、次々と証拠品がリズ達によって発見されていきます。
というか、隠し部屋まで所長室の中に存在しているとは。
そして、肝心の所長は拘束された状態でティナおばあさまの監視下にありました。
というか、ティナおばあさまがレイピアを抜いている状態なんですけど。
「あら、アレク君じゃない。この様子だと、屋敷の方は片付いたみたいね」
「まだジンさんが屋敷に残っています。念の為にと、マジカルラット部隊が屋敷を捜索していますので」
「そうね、この様子だと協力者がいる可能性が高そうだわ」
ティナおばあさまは、ギロリと所長を睨みつけました。
所長はなんとか首を背けてティナおばあさまの視線を避けていたけど、その表情は真っ青で汗だくになっています。
とりあえず、何があったのかを聞いてみる事に。
「なんて事はないわよ。所長を見た時に、長年の勘で所長が何かおかしいと思ったのよ。リズちゃんもスラちゃんも、なんか違和感を感じていたみたいなのよ。それで、イヨちゃんがこっそりと所長に近づいて、ズボンにゴミがついていると言って所長がしゃがんだ時に胸ポケットにある魔導具を落としたのよ」
うん、イヨがナイスってのもあるけど所長が簡単なトラップに引っかかったのか。
それで胸から魔導具がポロリと落ちてきて、なんだこれはってなったのか。
しかし、やっぱりティナおばあさまの経験って凄かったんだね。
「そうしたら、本音もポロリとしちゃってね。私に向かって『なんでわかったんだよ、このババア』って言ったのよ。ふふふ、ちょっとお仕置きしちゃったわ。どうも、自分は無罪だと情報を流しておいて色々な証拠をこの所長室に隠していたらしいわ」
うわあ、所長はティナおばあさまに喧嘩を売っちゃったんだ。
それって、ある意味自殺行為としか思えないよ。
しかも、簡単には見つからない場所に証拠を隠していたらしいが、リズ達の前では無意味だった。
そういえば、一階もミカエルたちは職員の机を完全に無視して他の場所を探していたっけ。
一般職員が全く知らない場所に、色々な証拠品を隠していたんだ。
ここまで分かったところで、おもむろに先々代夫人が所長の前に出ました。
「ふむ、そなたは我が領を餌にして私腹を肥やしていたか。私の事も、表面は普通に対応していて心の中では面倒くさいババアと罵っていたのか」
「ふぐ、ふぐぐぐ」
「まあ、よい。そなたの事は国が罰する。まあ、相応の処分が待っていると覚悟した方が良さそうじゃのう」
おお、先々代夫人からドス黒いオーラが出ているよ。
所長も、汗がダラダラと止まらなくなっていた。
流石にこれ以上所長がこの場にいても全く無意味なので、スラちゃんによって王城に連行されていきました。
ティナおばあさまも、ようやく抜き身のレイピアをしまいました。
「はあ、疲れましたわね。まさか、あんな大馬鹿者がいたとは」
「全てをサギー伯爵家のせいにして逃げ切るつもりだったのでしょう。王城でも、捕まえた職員の再度の尋問をおこなっていますわ」
疲れた表情の先々代夫人とティナおばあさまが、ソファーに座って一休みしていました。
ひとまずこの出向機関の主犯を捕まえられたし、証拠の分析も順調です。
となると、裏で手を引いている貴族が誰かを探し当てないといけません。
でも、それは既に判明しているみたいです。
「またサギー男爵家って宛先の書類が出てきたよ。この部屋にあるのは、全部サギー男爵家だね」
「あっ、これもだよ。サギー男爵家って書いてある」
出るもの出るもの、全部にサギー男爵家と書かれてあるみたいです。
リズとエレノアの様子からすると、それ以外の貴族の名前は出てきていない様です。
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