八百四話 出向機関の所長との面会
僕達を乗せた馬車は、街中をゆっくりと進みながら最初の目的地の国の出向機関に到着しました。
既に僕達が行くと防壁の門から連絡が行っていたのか、玄関で職員が待っていました。
「皆さま、お待ちしております。どうぞこちらに」
僕達は出迎えてくれた職員の後をついて行き、出向機関の所長室の前に着きました。
コンコン。
「所長、役人の方がお見えになりました」
「入ってくれ」
部屋の中から年配の男性の声が聞こえてきて、僕達は所長室に入ります。
部屋の中には、忙しそうに書類にサインをしている執事みたいなキリリとした所長の姿がありました。
そして、所長は部屋に入ってきた僕達の姿を見て目を見開くほどビックリしていました。
「あ、アレクサンダー副宰相、それにクロスロード副宰相! こ、この様なところに来て頂くなんて……」
「えっ、副宰相?」
どうも職員は僕達の役職名を知らなかったみたいで、職員と僕達の間を何度も見返していました。
所長は職員にお茶を出したら、人払いをさせました。
「突然の訪問になり、申し訳ありません。本日は、昨年末の日付でこちらの出向機関の職員より提出された農地開発の補助金について伺いました」
「拝見します」
僕はアイテムボックスから捕まった職員が提出した書類のコピーを取り出して、改まった表情の所長に手渡した。
所長は受け取った書類を見るなり、段々と険しい表情に変わっていった。
「アレクサンダー副宰相、クロスロード副宰相、お尋ね申す。この書類を作成した職員は、現在捕まっておりますな?」
「ええ、その通りです。サギー伯爵家との贈収賄の疑いをかけられております」
「なるほど、奴はやっぱりクロだったのか。元部下がご迷惑をおかけし、大変申し訳ない」
どうも所長は、捕まった職員を前から怪しいと睨んでいたみたいだ。
所長が演技をしている可能性もあったけど、鑑定結果は特に問題なかった。
とにかく、所長から話を聞くことになりました。
「農地開発の計画があるのは間違いありません。ただ、実際には計画の半分の農地が対象になります。耕作放棄地の再開発になるので、予算も三分の一で済むでしょう」
「実際に現場に行った訳ではないのですが、私達も金額が大きいと思っております。この程度なら、サギー伯爵家単独でも開発可能ではないでしょうか?」
「アレクサンダー副宰相の仰る通りです。しかし、サギー伯爵家はお金を出したがらないでしょう」
所長の言い方だと、間違いなくサギー伯爵家で何か事情がありそうです。
その事情を、所長が教えてくれました。
「サギー伯爵家は、最近先代が亡くなって代替わりしたばかりになります。まだ若い領主なのですが、実力はあります。しかし、領内の実権は先々代の奥様が握っております」
「その先々代夫人が、実質三代に渡って、サギー伯爵領を支配している事になるんですね」
「まさに、その通りになります。ある意味安定的な領内運営にみえますが、実際は汚職と腐敗にまみれております。私にも、長年圧力をかけてきました」
何となく事件の黒幕が見えてきたけど、ちょっと面倒くさそうな相手って思ってきた。
贈収賄では反発する可能性も高そうだし、相手がぐうの音も出ないレベルでの罪状を抑えた方が良いみたいだ。
「ジンさん、ここからは二手に分けた方が良いですね。こっちに残って職員のチェックを行う組と、サギー伯爵家に行って話を聞く組です」
「いや、三つに分けよう。先行して、レイナ達に開発予定地の調査をしてもらおう。先々代夫人は、俺とアレクで会おう」
ということで、僕とジンさんとノエルさんでサギー伯爵家に行き、レイナさん達と調査官で現地調査を行う。
そして、リズ達で出向機関の調査を行う事にするのだが、ここは助っ人も呼んだ方が良いだろう。
「所長、職員の調査をさせて貰うぞ。あと、追加人員を呼んでくる」
「職員に逮捕者が出ておりますので、もちろんでございます。しかし、追加人員とはどなたになりますか?」
出向機関は、裏ではなく堂々と調査をする事にしました。
逆に、ポッキー達にはサギー伯爵家に行って貰います。
そして、ジンさんのいう追加人員も王城のオッケーが出たので、スラちゃんが呼んできました。
「ふむ、あのババアが絡んでおったか。奴は、権力欲が昔からあったからのう」
「アレク君、出向機関は任せて頂戴。キッチリとやっておくわ」
先々代夫人の事をババアと呼ぶのは、先代宰相のニース侯爵です。
先々代夫人とは、昔からの知り合いだそうです。
そして、リズ達にはティナおばあさまがついてくれる事になりました。
これなら、何かあっても大丈夫ですね。
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