七百九十五話 臨時の初心者向け講習

 トコトコトコ。


 僕がジンさんとギルドマスターと講習の件で話をしていたら、冒険者登録を終えたちびっこ達が嬉しそうにやってきました。


「「「できたよー」」」

「おお、立派なカードができたな。じゃあ、これから大事なお話をするから部屋に移動するぞ」

「「「はーい」」」


 ちびっこ達は、僕たちに意気揚々と出来上がったカードを見せてくれた。

 そして、ジンさんが上手く褒めつつちびっこ達をいつも講義を行う部屋に誘導していきます。


「ほら、お前らも行くぞ。講習の強制参加は、冒険者ギルド内で騒ぎを起こした事に対するペナルティだ。逃げたら、冒険者登録を剥奪される事も覚悟しろ」

「「「「はい……」」」」

「「「「すみません……」」」」


 騒ぎを起こした二組の新人冒険者達も、トボトボと僕たちの後をついてきました。

 この二組以外にも数人新人冒険者が冒険者ギルド内にいて、ついでに講習を受けることになりました。


「はあ、仕方ないねえ。奴らにはガツンと言ってやらないといけないよ」

「ですわね。私達は、講習が終わるまで食堂で待ちましょうか」

「そうですわね。軽く何かを頼んでつまんでいましょう」


 いつものおばちゃんと王妃様とアリア様が、護衛を引き連れて慣れた足取りで食堂に向かって行きました。

 王妃様とアリア様は、こう見えてジャンクフードが大好物なんだよなあ。

 因みに、ルーカスお兄様達やミカエル達にティナおばあさまは、講習が行われる部屋に移動して見学する事になりました。


「じゃあ、リズが簡単に薬草採取のやり方を教えちゃうよ!」

「ああ、そうしてくれ。ただ、今日は時間をかけられないから手短にな」


 新人冒険者向け講習の一環で、自称薬草採取名人のリズによる講習が追加されました。

 この後は薬草採取を行うので、タイミング的にもバッチリでしょう。


「えーっと、ルカはここ!」

「エドはこっちだよ!」


 ちびっこ達は、わくわくしながら一番前の席に座ります。

 その後ろに、他の冒険者も座って行きました。

 うーん、結果的に二十人を超える新人冒険者が部屋に集まったぞ。

 威張り散らす様な自信過剰な冒険者はいないので、その点はホッと一安心です。

 準備が整ったところで、さっそく講習を始めます。


「それでは、講習を始める。俺はAランク冒険者のジンだ。Dランク冒険者のアレクとリズと共に、新人冒険者向け講習を行う。全員、登録時に配布された冊子を机の上に置くように」


 ジンさんが話し始めると、部屋にいる新人冒険者が真面目な表情でジンさんの方を向きました。

 話を聞かない人がいなくて、僕も一安心です。


「冒険者といえども、沢山ある中の一つの職業だ。自分の力量を正しく見極め、自分にあった仕事をしないとならない。自分の力を無視して突っ走ると、自分だけでなく周りにも大きな被害を及ぼす。冒険者は自己責任の世界だと言われているが、多くの人が関わっているのを忘れないように」

「冒険者でもどんな仕事でも、当たり前の事を忘れないで下さい。周りに迷惑をかけない、犯罪を犯さない、何かあったら直ぐに冒険者ギルドや先輩冒険者に報告する。人として基本で当たり前の事ですが、この当たり前ができなくて冒険者を辞める人もいます」


 ジンさんと僕が話しているのは、至極当然の話です。

 でも、さっきの二組の様に周りを顧みない行動をする人ってそれなりにいるんだよね。

 流石にさっき問題を起こした二人のリーダーは、ジンさんと僕の話を聞いてしゅんとしちゃいました。


「まず、この冊子をよく読む事だ。冒険者活動に必要な基本情報は、冊子に全て載っている。例として依頼の受け方、完了時の報告の仕方、ランク制度、罰則制度などだ。俺も、こうして未だに冊子を持っているぞ」

「依頼を受ける時は、どんな準備をすれば良いのかをキチンと調べて下さい。受付のお姉さんに聞くのも、とても良い方法です。また、身なりや礼儀作法をキチンとして下さい。依頼人という相手が入ることを、常に頭の中に入れて下さい」


 僕とジンさんは当たり前の事を話しているけど、冒険者だけでなく他のお仕事でも基本的な事です。

 その後も幾つか当たり前の事を話して、まず僕とジンさんの話は終了です。

 続いて、リズ達にバトンタッチします。

 リズは、いつも手元に持っている講習用の薬草のサンプルを新人冒険者に配布します。


「Dランク冒険者のリズです。薬草採取名人を目指しています。薬草採取のやり方を簡単に説明します」


 リズ、エレノア、サンディ、イヨ、メアリが、部屋の前に立ちました。

 既に何回も薬草採取のやり方を教えているので、この五人は慣れた物です。


「薬草は、森の少し中に入ったところに生えています。薬草は、葉っぱの後ろに毛が生えていて、少し匂いがします。一つ見つけると、周りにも薬草が生えている事が多いです」

「薬草は、生命力がとっても強いんだよ。だから、少し間隔を開ければまた葉っぱが生えてきます。でも、全部の葉っぱを採っちゃうと葉っぱが生えにくいので、必ず少し葉っぱを残してね」

「薬草採取を行う時は、専用のカゴと紐を購入して下さい。冒険者ギルドの購買にも売っています。葉っぱは、紐で十枚一つにして纏めます。力を入れて紐で縛ると葉っぱが破けちゃうので、注意して下さい」

「森の中だから、当然動物や魔物が出る。薬草を採っている時は視線が下がるので、とても危ない。慣れていない内は、集団で動く事を勧める」

「薬草採取と言えど、大切なお仕事です。薬草採取をキチンとできないと、他の仕事も失敗しますよ」


 リズ達の説明もとても良い感じなので、新人冒険者も真剣に話を聞いています。

 ティナおばあさまもレイナさん達も、リズの説明を聞いてうんうんと頷いています。

 これで、簡略版だけど新人冒険者の講習の座学が終了です。

 今度は、実技を行います。

 全員部屋から出て、訓練場に向かいました。

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