七百四十六話 今日は通知が良く来る日

 とても楽しい休日を過ごした後は、頑張ってお仕事をする日々に戻ります。

 特別調査チームは、朝から王都の冒険者ギルドに行って冒険者から色々な話を聞いています。


「今日は、執務室がとても平和だな」

「リズ達がいると、いつも賑やかですからね」


 いつもの騒がしさが半減以上の執務室で、僕たちは書類整理を進めます。

 といっても特に変わった事はなく、あのツンツン頭と嫡男の件も引き続き聴取中で変化ありません。

 他部署の業務も問題なく回っているので、本当に平和そのものです。

 更に、今日は会議もなく一日書類整理しかありません。

 ゆったりとした一日になりそうですね。

 そんな事を思っていたら、僕の通信用魔導具が鳴りました。


 ピピピピ、ピピピピ。


「あれ? カミラさんからの通信だ。何々? 『冒険者ギルドでの聞き込みは無事に終わったけど、リズちゃんが臨時の薬草採取講座の講師をする事になったので、帰りはお昼前になります』」

「ははは、リズちゃんらしいな。お昼前なら問題ないだろう」

「リズは薬草採取名人を目指しているから、講師をやるのも良い経験ですね」


 他の職員もリズらしいって、ちょっと笑っていました。

 僕はカミラさんに、「了解」と返信をしました。

 さてと、僕は書類整理の続きをしないと。


 かきかき、ペラペラ。

 かきかき、ペラペラ。


「宰相、これもお願いします」

「相変わらず、アレク君は書類整理が早いね」

「ほらほら、宰相は手が止まっていますよ」

「はいはい」

「返事は一回!」

「はい!」

「「「くすくす」」」


 宰相の秘書であるシーラさんが宰相に指導するといういつもの光景に、執務室の場が和んでいます。

 僕も、早めに書類整理をしているのもありますね。

 ある程度書類整理が落ち着いたところで、またもや僕の通信用魔導具に連絡が入りました。


 ピピピピ、ピピピピ。


「誰だろう? あっ、今度は外務卿からだ。えっと、帝国との会談の日程はこれで良いかと。ローリーさん、この日は確か空いていますよね?」

「拝見します。はい、問題ございません。では、アレク殿下の日程を押さえておきます」

「僕も、外務卿に問題ないって返信しておきます」


 今度は、帝国の皇帝陛下と会う日程の調整です。

 二週間後は何も予定がないので、早速スケジュールを押さえます。

 皇家も子どもが多くなってきたし、双子ちゃんやアンドリューちゃんにお土産を持っていこう。


 ピピピピ、ピピピピ。


「今日は、僕の通信用魔導具がよく鳴るなあ。えっと、今度は軍務卿からだ。嫡男が聴取担当を殴って再逮捕されたって、またやったんですか……」

「かえるの子はかえるという訳か。何とも嘆かわしいな」

「取り敢えず、宰相にも伝えましたと返信しておきます」


 うん、もうあのツンツン頭の嫡男は更生不可能だろう。

 宰相の言う通り、まさにルーカスお兄様にティーカップを投げつけたツンツン頭の子どもって訳ですね。


 ピピピピ、ピピピピ。


「またまた僕の通信用魔導具だ。次は農務卿です。王都近郊にある直轄地の農地視察の日程だって。これは一週間後だね」

「この日なら問題ございません。ただ、来週の午後は全て視察になります」


 ローリーさんの言葉を聞いて、宰相が軽くガッツポーズをしていました。

 でも、シーラさんが大丈夫ですと頷いているので、きっと問題ないでしょう。


 ピピピピ、ピピピピ。


「えっ、まただよ。今日は魔導具がよく鳴るね。今度は陛下からだ。午後から会議をするみたいだ。午後も予定はないし、一時間だけだから問題ないね」


 週明けってのもあってか、今日はスケジュール確認の問い合わせが沢山だ。

 僕の細かいスケジュールはローリーさんが管理してくれているし、もちろん僕も通信用魔導具のスケジュールに入力していきます。

 こうして、思ったよりも忙しい午前中が過ぎていきました。


 シュッ。


「ただいま!」

「みんなお帰り。リズ、ちゃんと講師できた?」

「バッチリだよ! 薬草もいっぱい採れたよ!」


 昼食前のタイミングで、王都冒険者ギルドに行っていた特別調査チームの面々がスラちゃんの転移魔法で戻ってきました。

 リズはきっちり講師もこなして、とてもご機嫌ですね。

 いつもならこのまま王族専用の食堂にみんなで移動するのだが、とある人から声がかかった。


「あっ、お父様。お母様が一向に連絡がつかないと。カミラの通信用魔導具に、お母様から連絡が入りました」

「えっ、何も通知はなかった……あっ!」


 娘であるレイナさんからの話を聞いた宰相が、魔法袋から通信用魔導具を取り出して固まってしまいました。

 しかも宰相は、かなりヤバいっという表情をしています。


「音声と振動のスイッチを切っていた……」


 宰相は真っ青な顔をして、小さな声でポツリと呟いていました。

 これは完全にやっちゃった系ですね。

 固まってしまった宰相の手から、シーラさんが通信用魔導具をヒョイッと奪い取りました。

 そして、物凄いスピードでスケジュール帳と通信用魔導具を操作しました。


「はい、各方面からのスケジュール調整は終わったよ。細かいところはスケジュール画面を見な」

「すっ、すまん……」

「それから、嫁さんの所に直接行って謝ってきな。あたしもついて行ってやるから」

「はい……」


 ということで、僕は宰相とシーラさんを宰相の屋敷に送って行きました。

 屋敷に入ると直ぐに宰相の奥さんが出てきましたが、既に笑顔の奥に怒りのオーラがにじみ出ていました。

 そして、シーラさんが全てを素直に話したので、益々奥さんの怒りのオーラが燃え上がりました。

 会議があるので昼食後に迎えに行くと言って、僕は王城に戻りました。

 昼食後に宰相とシーラさんを迎えに行ったら、どんよりとした宰相がシーラさんは宰相ではなく奥さんの味方だったとポツリと漏らしていました。

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