六百九十話 王家の朝の風景(修羅場)

 朝食を皆で食べて、辺境伯様を迎えに行ってから王城に行きます。


「はえー、一瞬で王城に着いちゃいました……」

「僕もジョディーの気持ちは良くわかるよ。昨日、何があったのかと思っちゃったもん」


 ゲートを使って一瞬で王城に着いちゃったので、ジョディーちゃんは思わずぽかーんってなっていました。

 マテオ君も苦笑しながら、ジョディーちゃんの反応は仕方ないって感じで見ていた。


「アレク君、おはよう。とんでもない馬鹿が出たんだってね」

「ティナおばあさま、おはようございます。まあ、僕よりもジンさんの方が怒っていましたよ」

「久々に、躾のなっていない貴族令嬢を見ましたよ。朝っぱらから香水をプンプンさせていて、臭いったらありゃしなかったですよ」


 既にドレスに着替え終えていたティナおばあさまが、僕達の事を出迎えてくれました。

 ジンさんの言葉に、リズを含む女性陣が激しく同意していました。

 と、ここでジョディーちゃんがマテオ君の服をちょんちょんとしていました。


「ね、ねえ、マテオ様。この高貴な方は、どなたですか?」

「全国王陛下の妹君の、ティナ殿下です。リズ殿下の実のお祖母様で、とっても強くて優しい人だよ」

「は、はわわわわ……。す、凄い人が目の前にいるよ……」


 ジョディーちゃんは今まで王族にあった事がないらしく、僕とリズが自己紹介した時もかなりビックリしていたっけ。

 ジンさん達の自己紹介でも驚いていたけどね。


「て、ティナ殿下、は、初めてお目にかかります。レビン男爵家のジョディーと申します。そ、その、マテオ様と婚約しております」

「まあまあ、これはご丁寧にどうも。私はティナよ。そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

「は、はい!」


 ガチガチに緊張しながらも、ジョディーちゃんはキチンと挨拶できていた。

 そんな頑張っているジョディーちゃんの事を、ティナおばあさまは優しく話しかけていました。


「まだ時間があるから、いつもの食堂に行ったらどうかしら?」

「そうですね。僕達も朝食を食べたばっかりなので、食堂で休んでます」


 まだ朝早いので、謁見の準備はできていないそうです。

 僕達はティナおばあさまの勧めもあって、皆で食堂に行きました。


 がちゃ。


「「うわーん、ぼくのいちごたべたー!」」

「うん? 残したのではないか? もぐもぐ」

「「うわーん!」」


 僕達が食堂に入った瞬間、修羅場が発生してしまいました。

 ルカちゃんとエドちゃんが楽しみに残していたいちごを、陛下がむしゃむしゃと食べてしまっていたのです。

 当然ルカちゃんとエドちゃんは、大好きないちごを目の前で食べられて大泣きしちゃいました。


「「うわーん、じー!」」

「陛下、二人を泣かせた責任を取って下さいよ?」

「なに? ジンまで余が悪いというのか?」


 しがみついてきたルカちゃんとエドちゃんをあやしながら、ジンさんはジト目で陛下に注意をしていた。

 でも、当の本人は未だに何が悪いのか理解していないみたいですね。


 ガシッ。


「あなた、ちょっとお話しましょうか? ふふ、ご心配なく、謁見までには終わらせますわよ」

「マテオと、もしかして婚約者かしら? ちょっとバタバタしているけど、ゆっくりとしていってね」

「おい、ちょっと、あー!」


 ずるずる、バタン。


 あーあ、予想通りというか陛下は王妃様とアリア様に引きずられながら廊下に連れ出されました。

 王妃様がキチンと謁見までに話をつけるというので、きっと時間は大丈夫ですね。

 陛下が大丈夫かどうかは分からないけど。


「えっと、あの引きずられた人がこの国で一番偉い人で、引きずっていたのが王妃様とアリア様です。身内に対しては良く見せる光景なので、特に気にしないで下さい」

「は、はあ……。まだ、頭が追いついていません。でも、王妃様とアリア様の方が陛下よりも力が上に見えました……」

「あはは……」


 僕の説明を聞いたジョディーちゃんは、思わず正論を口にしていました。

 とはいえ、マテオ君もジョディーちゃんも、このドタバタな光景に慣れて貰うしかないよね。


「マテオ、身内の恥を晒してすまんな」

「いえいえ、ルーカス殿下も大変ですね」

「父上も人前ではしっかりとするのだが、身内の前ではポンコツなんだ」


 ルーカスお兄様もマテオ君に色々と話をしていたけど、陛下は身内の前だと本当にポンコツだよね。

 そして案の定、陛下は謁見前まで帰ってきませんでした。

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