六百八十四話 真の犯人
そして、ルーカスお兄様が別の方向に向き直った。
シュパッ、ドサッ。
「ぐっ、な、何をするか」
そこには、逃げ出そうとしてアマリリスの糸に足を拘束されて転んだ執事の姿があった。
直ぐに、近衛騎士が執事を拘束します。
「全ての元凶、それが執事です。闇組織の幹部と言った方が良いでしょう。屋敷にいる他の闇組織の関係者も、既にスラちゃんが拘束しています」
「ぐっ……」
見た目は青髪のただの若い執事だけど、僕の鑑定でも闇組織の関係者と出てきた。
「実は、僕の従魔のマジカルラットとアイビーの従魔のアルケニーに、屋敷の情報を集めて貰った。その結果、長男次男を巧みにコントロールしていただけでなく、クエスト男爵の殺害に三男の殺害未遂の疑惑も浮上した。三男は、まさにこの後毒殺しようとしていたらしいね。全て証拠は押さえたよ」
「「なっ!」」
「えっ?」
「ぐっ、くそ……」
ルーカスお兄様によって執事の悪事がバラされて、長男次男は驚愕の表情をしており、三男は何がなんだか分からないでいた。
執事はというと、目論見がバラされてしまい苦虫を噛み潰したような表情だった。
「執事にとっては、長男次男どちらが跡目争いに勝っても旨味がくるようにしていた。そして、三男が後継者になる選択肢を消そうとした。因みに、街が滅んでもその後に闇組織の拠点にしようとしていたんだ」
「つまりは、何があっても闇組織に都合の良い結果にしようとしていた訳か。普通なら集魔香なんて手に入らないし、相手の考えも直ぐに把握できるというわけか。筋書きとしては、中々のものだな」
ルーカスお兄様の話に、ジンさんが補足していた。
確かに闇組織が描いたストーリーとしては中々のものだったし、実際にあと一歩の所まできていた。
僕達がやってきて、全部ひっくり返しちゃったけどね。
「アレク、王城にゲートを繋いでくれ。もう、僕はこの無法者の顔を見たくない」
「僕も同感です。欲に駆られたとはいえ、こんな酷い事になったとは」
ルーカスお兄様が吐き捨てた言葉に、僕も頷きました。
結局自己の欲に溺れていて、兄弟喧嘩を収めようとした三男みたいな心にはなれなかったのだ。
ブオン。
「ぐっ、くそ! 離しやがれ!」
「「……」」
今更ながらに罪を自覚して項垂れながら無言で連行される長男次男とは違い、執事は尚も激しく抵抗していた。
全員が兵によって連行されていき、引き渡しが終わった所で僕はゲートを閉じた。
屋敷内では、引き続きスラちゃんによって拘束された人の連行が続いていて、その人達はクエスト男爵領内の留置所に行くそうです。
「ふう、何とか一段落しましたね」
「ああ、そうだね。でも、今回の件は色々と考えさせられる事件だったよ」
僕はルーカスお兄様とちょっと雑談して、そして三男の所に向かいました。
すると、三男はルーカスお兄様に深々と頭を下げました。
「ルーカス殿下、この度はクエスト男爵家の者が大変な迷惑をかけて申し訳ありません。ここに謝罪します」
「うん、謝罪を受け取ろう。屋敷内の情報を集めたら、君が何とかしようとして動いていたのを知ったよ。幼いのに頭が良いのもあったから、執事は君を殺そうとしたんだね」
「でも、結局は上手くいきませんでした。僕は、ぐす、昔の優しい、うっぐ、お兄様に戻って貰いたいと、うぅ……」
ルーカスお兄様は、涙が止まらない三男の肩を抱いていました。
優しかった兄が変わっていくのを、何とか止めたかったんだろうね。
そんな二人の事を、今度はティナおばあさまがぎゅっと抱きしめていました。
「二人とも、よく頑張ったわ。特にルーカスは見違える程立派だったわ。とても辛い体験だけど、間違いなく今後の人生で今回の体験が生きてくるわ。人は痛みを知って、優しさを覚えるのよ」
「「はい」」
色々と悲しい事も大変な事もあったけど、ここにいる全員にとっても大きな経験となったのは間違いないです。
僕はそう思いました。
「でも、マジで死ぬかと思ったから、流石にあんな経験は勘弁だ」
「「「ははは!」」」
そして、ジンさんが呟いた愚痴に、皆が笑っていました。
こうして、クエスト男爵領で起きた事件は解決となりました。
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