六百八十二話 ストレス発散タイム

 僕達は一気に街の防壁まで戻ってきて、クエスト男爵領の兵の所に合流しました。

 兵もゴブリンの後片付けを終わらせて、僕達を出迎えてくれました。


「おお、まさか無事だったとは」

「てっきり、死んでしまったかと思いましたぞ」

「今回は流石にやばいと思ったけどな。悪運は強い方なんで」


 ジンさんと兵が無事を祝って話をするけど、あのレベルの魔物溢れだと普通の冒険者は瞬殺されちゃうよね。

 おっと、肝心な事を聞かないと。


「あの、森の動物や魔物があまり狩られていなかったんですけど、何かあったんですか?」

「「「あっ……」」」


 おや?

 僕が兵に質問したら、兵の顔色がとても渋くなったよ。

 何だか、キョロキョロとしだしちゃった。


「実は……」

「「「えっ!」」」


 兵から聞いた話に、僕達はとってもビックリしちゃいました。

 まさか、あの人が事件に関わっていたなんて。


「すまんが、屋敷まで案内してくれ。これは、先に行った連中にも話をしないとならないな」

「あっ、はい、ご案内します」


 ともかく現状をどうにかしないといけないので、僕達は兵の案内で屋敷に向かって走り出した。

 はあ、とっても面倒な事になりそうだぞ。


「だから言ったでしょう。このレベルの魔物溢れでは、領地の軍だけでは対抗できないと」

「はあ、何言ってやがる。こんな異常な魔物溢れじゃなければ、うちの領地の軍だけで対応できただろうが!」

「あの、その、お兄ちゃん、落ち着いて……」


 顔がそっくりな二人の青年男性が、顔を突き合わせて睨み合っていた。

 茶髪を少し長めにしていて文官っぽいのが長男で、スポーツ刈りで筋肉ムキムキなのが次男で間違いないだろう。

 気になるのが、睨み合う二人の間でオロオロしている僕と同じ位の男の子がいます。

 小さい男の子はちょっと髪が長めだから、ぱっと見は女の子にも見えるね。

 ここは、既に兄弟喧嘩の傍観者となっていて呆れ返っているルーカスお兄様とティナおばあさまに事情を聞いてみよう。


「あの小さな子は、正妻の子どもで三男だ。ちょっと気弱らしいが、頭は良いみたいだよ。因みに、兄弟の母親は既に亡くなっている」

「全く、私達への挨拶もそこそこで醜い兄弟喧嘩を始めたわ。まあ、お陰で二人の内面を知る事ができたし良い判断材料になったわ」


 ルーカスお兄様もティナおばあさまも、もう呆れ返っていました。

 とはいえ、この大騒ぎをどうにかしないといけないね。


「ジンさん、レイナさん、カミラさん。さっさと終わらせちゃいましょう。とんだ茶番劇ですね」

「ああ、そうだな。俺もちょっと頭にきているぞ」

「取り敢えず、馬鹿二人を黙らせた方が良いわね」

「そうね。キツイお仕置きをしてあげないと」


 あーあ、醜い兄弟喧嘩を見たジンさん達の怒りの炎がマックスまで燃え上がったよ。

 特に、女性陣は抑えきれない程に怒り心頭です。


「内務卿、多分一瞬で後継者が決まりますね」

「ああ、私もさっき報告を聞いた。私も一発入れてやらないとな」


 散々色々な事に巻き込まれて、内務卿もとっても怒っています。

 とはいえ、内務卿も情報を把握しているとなると、既に決着したのも当然ですね。

 という事で、皆様お待ちかねのストレス発散タイムです。


 トントン。


「「「おい」」」

「何? 今は忙しい……ひい!」

「外野は黙って……うお!」

「わあ!」


 兄弟喧嘩をしている二人の肩を、怒りマックスの人達が叩きました。

 余りの怒気に、長男次男だけでなく兄弟喧嘩を止めようとしていた三男までビックリして尻もちをついてしまった。

 という事で、皆様どうぞ。


「「「お前ら、いい加減にしろ!」」」


 バキッ、ボキッ、ドカン!


「「ぐはぁ!」」


 ひゅーん、どさ。


「おお、綺麗に吹っ飛んだよ」

「えっとね、君はこちらなの」

「大丈夫だよ。何もしませんわ」

「うんうん、そうそう」

「えっ、えっ?」


 怒れる者共の強烈な制裁に、醜い兄弟喧嘩をしていた二人は華麗に宙を舞いました。

 その隙に、理由が分からずポカーンとしていた三男をリズ達が保護しました。


「はあ、醜いったらありゃしないですわ。アマリリスやっておしまい」


 シュッ、グルグル。


「がっ、ぐう、動けん!」

「何だこの糸は? 早く解きやがれ!」


 そして、呆れた様子のアイビー様がアマリリスに頼んで、華麗に吹っ飛んだ長男次男を糸でぐるぐる巻きにしていました。

 でも、この状況になってまだギャーギャー騒ぐって、ある意味この二人は凄いよね。

 最後にという事で、二人には黙って貰いましょう。


「プリン、宜しくね」


 プリンはやれやれって感じのリアクションをしていて、ぴょんぴょんと簀巻き状態の二人に近づきました。


 ちょん。


 バリバリバリ!


「「ぐぎゃー!」」


 プリンは二人に直接触れながら、強烈な電撃を放ちました。

 暫くすると、プスプスと煙を立てながら二人はようやく黙りました。

 うん、二人の髪の毛が電撃の影響でパンチパーマになったのは見なかった事にしておこう。

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