六百八十一話 故意に設置されていた集魔香

 パッカパッカパッカ。


 僕達は馬とポニーに乗って、全速力で森に向かいます。

 探索魔法なんて使わなくても直ぐに分かるほど、土煙が起きている所があります。

 念の為に探索魔法を使っても、そこに沢山の反応があるのが分かります。


「あっ、見えてきたよ! ブッチー、ゴー!」

「ヒヒーン!」


 そして森が見え始めた所で、リズ達が一気にポニーのスピードを上げた。

 その先には、大量の動物や魔物と戦うジンさん達の姿があった。

 しかし、大蛇、ウルフ、熊に加えてゴブリンとかも混じっている。

 全く統一性がないぞ。


「とー!」

「ヒヒーン」


 ドカドカドカ!


「「「キシャー!」」」


 またもや魔法障壁を張ったポニーが、動物や魔物の群れに突っ込んで行きます。

 僕は、ジンさんの所に合流して話を聞く事に。


「すみません、遅れました」

「いや、大丈夫だ。くそ、誰かが集魔香を大量に焚きやがったぞ」


 ジンさんの言う通り、嫌な血の匂いに混ざって微かにお香みたいな匂いがしていた。

 既にジンさん達とスラちゃんが大量の敵を倒しているけど、それでもまだまだ森から動物や魔物が現れてくる。

 取り敢えず、僕達も動物と魔物を減らす為に戦闘を始めます。


 シュイーン。


「プリン、行くよ。えーい!」


 バリバリバリ!


「「「ギャー!」」」


 僕はプリンと合体魔法の広範囲エリアスタンを放って、一気に動物や魔物の動きを弱くします。


「てい、やあー」

「えい、えい」


 ザシュ、バキン、ボキン!


 ファルシオンを片手に縦横無尽に動くリズに、ガントレットを手にはめて相手を殴り飛ばすイヨの姿があった。


 バキーン。


「サンディ、ナイスよ」

「暫くそのまま防御に専念してね」


 そして、サンディが魔法障壁を広範囲に展開して防御に専念する事で、カミラさん、ルリアンさん、ナンシーさんが攻撃に専念出来るようになった。


「くそー、よくもやったなあ! たっぷりとお礼をしてやるぞ」


 シュイン、シュイン、シュイーン!


「そりゃー!」


 ズドーーーン。


 そして、ジンさんが聖剣に魔力を溜めて一閃します。

 襲いかかってきていたウルフや熊とかが、とんでもない衝撃波で一気に吹っ飛びました。


「あっ、スラちゃんが何かを見つけたってよ!」

「木の上でやりやがったか。これは絶対に故意だな」

「広範囲に集魔香の匂いが届く様にしていたのね」


 そして僕達が戦闘に加わった事でスラちゃんが自由に動ける様になり、木の上に置かれていた集魔香をカチコチに凍結してからアイテムボックスに収納していた。

 全部で四つ回収したけど全部木の上にあった事を考えると、どう考えても故意に魔物溢れを引き起こしたとしか思えなかった。

 そしてスラちゃんが集魔香を回収して暫くすると、ようやく魔物溢れが落ち着いてきた。


「はあはあはあはあ、本当に馬鹿な事をする奴がいたもんだな。土煙が見えた時は、まさかと思ったぞ」

「ふうふうふう、そうね、こんな事をした馬鹿の顔を殴り飛ばさないと気がすまないわ」


 ジンさん達は、地面に座り込んでようやく一息つけた。

 クエスト男爵家の調査に来たら、いきなり大規模な魔物溢れに巻き込まれたんだからね。

 因みに、スラちゃんとプリンも一気に倒した動物や魔物の血抜きはできないので、まとめてアイテムボックスにしまいます。

 その間に、ジンさん達は水を飲んだりして体力を回復させていました。


「はあ、やっと一息ついたぞ。今回ばかりは流石にヤバいと思ったぞ」

「敵としてはレベルが低いですけど、とにかく数が膨大でしたね」

「物量で押されたのもあったな。てか、この森は数カ月誰も立ち入った形跡がないな」


 という事は、意図的に魔物溢れを起こす下準備を行っていた人がいるんだ。

 と言っても、一人しか思い浮かばないけど。


「さて、お馬鹿さんの顔を拝みに行きましょうか」

「流石に今回の件は頭にきたわ」


 そして、ムクリと立ち上がった女性陣の背後に般若みたいな怒気がまとわれていました。

 実は、僕もちょっと頭にきているんだよね。


「じゃあ、屋敷に行って主犯とお話しましょうね」

「「「「おー!」」」」


 ズドドドド。


「あの、まだ馬に乗れますよ」

「俺は馬に乗っていくわ。流石に走る元気はないぞ」


 カミラさんを先頭にして、女性陣が走り出しました。

 うん、身体能力強化を全開にして凄いスピードで走っているよ。

 それだけ頭にきているんだね。

 爆走する女性陣の後を、苦笑しながら僕達はついて行きました。

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