五百七十三話 お義母様って呼んで貰いたい

「うふふ、良い物を見せて頂いたわ」

「その、勘弁して下さい……」


 全員の着替えが終わると、僕達は応接室に移動しました。

 ランディさんの着替えを覗いた商務卿夫人は、何故か満面の笑みで恥ずかしがっているランディさんをからかっていていました。

 うん、人生経験の差が如実に出ていますね。

 しかも、商務卿夫人はちゃっかりとレイカちゃんを抱っこしていて、とってもご満悦な表情です。


「さて、簡単に当日のスケジュールを確認しましょう。と言っても、あんまり確認する事はないけどね」

「お母様、さらりと流しましたわね……」


 うん、そして凄いスルー能力です。

 商務卿夫人がいきなり話題を変えたので、思わずクラヴィーアさんも呆れ顔になりました。


「当日は、旦那様が二人のエスコート役ね。ふふ、どうせ号泣して何も言えないだろうけどね」

「あー、お父様は絶対号泣するだろうね。私の時も本当に酷かったもん。ジンに何か言っていたけど、ジンも何を言っているか全然分からなかったって言っていたよ」

「あはは……」


 うん、レイナさんの結婚式の事を思わず思い出してしまったよ。

 あの時の商務卿は、新婦入場の時から既に号泣だったもんなあ。

 レイナさんも、思い出しては苦笑していたよ。


「まあ、その後は普通の結婚式の流れね。教会から屋敷までは、住民への顔見せも含めてパレードをするわ」

「アレクサさんの時に使用したオープンタイプの馬車を使うんですよね。辺境伯様も、喜んで貸し出すって言っていました」

「こういう事はある意味儀式なのよ。領主が嫁を貰って、領民を安心させる事も必要なの」


 商務卿夫人の話を、全員が真剣に聞いていました。

 ランディさんが綺麗な花嫁さんを貰えば、きっと領民も喜ぶもんね。


「その後は、お色直しをして披露宴ね。参加者も限られるし、そんなに気負わなくても良いわ」

「はい、その、アレクサさんの時の結婚式みたいに、各国の要人が集まるのもちょっとどうかと思います」

「まあ、規模で言えば男爵家の結婚式ですからね。ジンは子爵とは言え、功績が物凄くありますから」


 ふと、マロード男爵領での結婚式では凄い来賓が来たのを思い出したけど、あれは完全に美味しい料理と温泉が目当てだったもんなあ。

 何事もなければ、披露宴もこれでお終いです。


「学園の同級生も沢山来てくれるそうなので、とっても有り難いです」

「そういう繋がりは大事にして置く事よ。いざという時に、とても役に立つわ」


 今回は、ランディさんの同級生とクラヴィーアさんの同級生がやってきます。

 きっと、仲間同士でワイワイやるんですね。


「そうそう、ランディとルルーに確認があります」


 おっと、急に商務卿夫人が姿勢を正して話し始めました。

 ランディさんとルルーさんも、何事かと思っています。


「いつになったら、私の事をお義母さんって呼んでくれるのかしら。こんなに可愛い息子と娘が出来るのだから、私はとっても待ち遠しくてね。今からでも、全然問題ないわ」

「あの、その……」

「えーっと……」

「「お母様……」」


 うん、何かと思ったら呼び方の問題でしたか。

 ランディさんとルルーさんはちょっと困った表情になっているし、実の娘であるレイナさんとクラヴィーアさんは商務卿夫人をジト目で見ています。

 きっと、結婚式が終わったら、呼び方も変わりますね。

 因みに、商務卿夫人に抱っこされていたレイカちゃんは、お菓子を食べたりジュースを飲んだりと、終始ご機嫌でしたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る