四百九十話 まさかの執務官候補

 侍従のお姉さんの出産も近くなったある日の事、僕達は王城で勉強をしていました。


「うーん、やっぱり法律関連は難しいです」

「アレク君、まだ八歳になっていないのに法律を勉強している方が凄いのよ」


 今日は簡単な法律を勉強していますが、前世とルールが違うからとっても難しいです。

 王妃様が僕を見て呆れているけど、僕としては勉強のやり甲斐があります。


「しかし、アレク殿下は本当に優秀でいらっしゃる。アカデミーでも、ここまでの秀才は見たことはありません」

「でも、僕は本だけの知識なので、流石に実践になると駄目ですよ」


 教師も僕の事を褒めてくれるけど、まだ実践する場がないもんね。

 ルーカスお兄様はそろそろ簡単な仕事を任されるというし、僕はそのレベルまでは追いついていないし。

 という事で、僕は引き続き勉強を続けます。


「最近は貴族法も変わってきております。偏った知識により犯罪が起きておりました」

「そうですね。僕も貴族の暴走は色々経験しました」


 特に貴族主義の連中のせいで、いっぱい事件が起きたもんね。

 悲しい事件もあったけど、未然に防げる様になればいいね。


「そして、この度警備組織を再編して執務官という役職を新たに設けました」

「各組織のエキスパートが集まって、難事件を担当するんですよね」

「その通りで御座います。アレク殿下も、法律の知識が増えましたら間違いなく執務官に推挙されますぞ」


 軍では機動性に欠けるので、ある意味独立した組織を作ることになりました。

 勿論、闇ギルド対応も含んでいます。

 現在の執務官は、軍務卿直轄組織として動いているそうです。


「確かに、アレク君は実績はあるけどまだ知識が足らないのよね」

「法律関係は犯罪を取り締まるのに必須ですので、僕はまだまだ勉強不足ですよ」

「そうね。あ、良い候補者がいたわ」


 おや?

 王妃様が何か良いアイディアがあると、手をポンと叩いていた。

 そして、勉強している部屋から出て行ってしまった。

 良い候補者って、一体誰だろう?

 すると、王妃様はアリア様やティナおばあ様にリズ達も連れてきた。

 王妃様は、リズの頭の上に乗っているスラちゃんに声をかけた。


「スラちゃん、法律の勉強ってできるかな?」

「できるって言っているよ」

「そう、それは良かったわ」


 あの、王妃様?

 執務官候補生って、まさかのまさかですか?


「流石にアレク君は王族だし、まだまだ小さいからね。執務官候補生として、スラちゃんを推薦しようかしら」

「「「おおー」」」


 やっぱり、執務官候補生にスラちゃんを推そうとしていた。

 リズ達は喜んでいるけど、スラちゃんはびっくりして触手で自分の事をさしていた。


「王妃様、確かにスラちゃんは何でもできますけど、流石に無理がありますよ」

「あら、スラちゃんにしか出来ない事をやって貰えば良いのよ。潜入とかはお手の物だしね」


 いやいや、確かにスラちゃんは今まで幾つもの事件を解決してきたけど、いきなり執務官は厳しいんじゃないかな?

 それに、根本的な問題があります。


「スラちゃんはまだ中距離ワープしかできないので、自分だけでは辺境伯領から王都に行けませんよ」


 僕が移動手段の事を言うと、スラちゃんはふむと考えた素振りをしたら突然消えてしまった。

 そして、リズの頭の上に再び現れたと思ったら、触手で帽子をクルクルと回していた。


「あっ。これって、屋鋪にあったリズの帽子じゃないかな?」

「スラちゃんが、長距離ワープも出来る様になったんだって」

「えー、そうなの?」


 まさか、スラちゃんが長距離ワープまで使える様になったとは。

 うーん、移動手段の件が一瞬で解決してしまったぞ。


「アレク君がスラちゃんの事を心配するのは良く分かるけど、後はスラちゃんの意志で決めてあげましょうね」

「はい、分かりました」


 僕は、スラちゃんが危ない目に合うんじゃないかなと心配していた。

 でも、スラちゃんは任せろと言っている様に思うよ。

 スラちゃんの執務官候補生の件は、一旦王妃様預かりとなりました。

 どっちにしても、スラちゃんもまだ法律の知識がないからね。

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