三百三十四話 皇都への道のり二日目
皇都への道のり二日目。
うーん、空が曇っていて天気が微妙だ。
雨が降らなければ良いなと思いつつ、馬車は出発します。
「今日はウルフとかも昨日と同じくらいの数ですね」
「この位なら、王国でも街道を通っても遭遇する可能性があるわね」
「森があちらこちらにあるから、動物と遭遇するのは珍しくないからな」
今日も街道を進んでいると、たまにウルフとか鹿に似た動物に遭遇する。
でも、遭遇する頭数も少ないし弱いからあっという間に倒せてしまう。
リズも最初は現れた動物を倒すと意気込んでいたけど、余りにも動物が弱くて暇になったので馬車の中でうとうとしていた。
「確かに動物との遭遇はいつもより多いくらいですし、強い動物に遭遇している訳ではないですね」
「うーん、懐古派は何をしたいのでしょうか? この程度の動物では足止めにもなっていないし、聖騎士の乗っていた馬も僕達なら直ぐ治療できます」
サイファ枢機卿とも話をするけど何もかもが微妙なので、正直困惑している。
そんな事を馬車の中で話しながら、昼食を食べる為に小さな村に到着。
こういった田舎でご飯を食べるのは、僕達の旅の楽しみの一つでもあるんだよね。
「お肉美味しいね!」
単純な料理だったけど、僕達はモリモリと提供された料理を食べています。
僕らに料理を提供したおっちゃんも、僕らの食べっぷりにホッと胸を撫で下ろしていた。
お昼ご飯を食べ終わって少ししたタイミングで、村の小さな教会の司祭が僕達の所にやってきた。
「司祭殿、そんなに慌てて如何なされた?」
「実は双翼の天使様がここにおられると聞いたもので。高熱の子どもが教会に運ばれまして、何とか診て頂けないかと思いこちらに足を運びました」
「それは大変! お兄ちゃん、直ぐに治療しよう!」
「そうだね」
僕達は、司祭の先導で直ぐに教会に向かった。
教会の中に入ると、長椅子の上に寝かされている子どもがいて苦しそうに息をしている。
でも、見た感じ咳とかもないし、風邪って感じではなさそうだ。
先ずは子どもの側にいる母親に話を聞いてみよう。
「調子が悪くなる前に、何か普段と変わった様子はありますか?」
「そういえば、旅の人が子どもに飴っぽい物を配っていました」
母親からの言葉を聞いて子どもを鑑定すると、毒に侵されている事が分かった。
でも、手持ちの毒消しポーションや状態異常回復魔法で治るか分からないぞ。
「すみません、うちの子が!」
「子どもが調子を崩しました」
その間にも謎の旅人から貰った飴を舐めた子どもが、次々と教会に運ばれてきた。
状況は良くないなあ。
「アレク、これは毒だな。俺達が勝手に判断する前に、辺境伯領の研究者にみせよう」
「そうね、こういう時は専門家にみてもらいましょう」
ジンさんとティナおばあさまからの提案に僕も賛同して、辺境伯領の研究所にゲートを繋いだ。
直ぐに子ども達と親が持ってきた謎の飴を調べてもらう。
「下痢を起こしています。恐らく毒草ですね。たまたまこの手の毒に対する生薬を作っておりました。こちらを子どもに飲ませましょう」
本当にタイミングが良かったのか、たまたまここにいる子どもに必要な分の薬があった。
直ぐに薬が投与されると、子どもは落ち着きを取り戻した。
念の為にと、僕とリズの回復魔法もかけていく。
「この飴に使われてた毒草自体は特に珍しいものではないのですが、派手な赤い花をつけるので故意に食物に混入しない限り中毒になる事はありません」
「となると、その旅人が故意に毒入りの飴を作って子どもに配った事になりますね」
「幸いにして一般的に売られている生薬で解毒可能です。ただ、この毒には即効性があるので素早い服用が必要です」
複数の研究者が子どもの容体を診ているけど、どうやら峠を越えた様だ。
研究者の話を聞く限り、前世のヒガンバナみたいな植物なのかな?
皆一安心と心を撫で下ろしていると、今度はサイファ枢機卿から僕達に連絡が入った。
「皆様、今日宿泊予定の街から同じ様に不審な旅人から飴を貰った子どもに同じ様な症状が出たと連絡がありました」
「えっ!」
「不審な旅人は拘束された様ですが、どうも懐古派の関与が疑われる様です」
「直ぐに、この生薬を薬局から取り寄せる様に。普通の街なら置いてあります」
「直ぐに伝えます」
サイファ枢機卿がタブレットの様な魔導具を使って、研究者から指定された生薬を使う様に連絡していた。
研究者は、一旦研究所に戻って念の為に生薬を作るらしい。
僕達は村を後にして、急いで病人が発生した僕達が宿泊する予定の街に向かった。
馬も頑張ってくれたお陰で、夕方前には街に到着です。
とっても大きな街で、病院は教会附属の施設だというので急いで皆で向かいます。
病院の中は、子どもと子どもの親と思われる大人が沢山いたけど、容体が悪い人や慌てている人はいなかった。
「おお、枢機卿か。助かった、本当に助かったぞ。あの生薬の情報がなければ、子ども達は死んでいた」
「バイス司教、こちらもたまたまだ。王国での新事業で様々な薬の研究を進めていたからだ」
はげ頭の司教がサイファ枢機卿を見つけると、サイファ枢機卿の手を握って涙ながらにお礼を言っていた。
僕とリズとスラちゃんは、念の為にと子どもに治癒魔法をかけていく。
毒によって内臓にダメージが残る可能性もあるからね。
研究者も辺境伯領から呼び寄せたけど、研究者の見立てではもう大丈夫との事です。
「司教様、私はブンデスランド王国のティナと申します。子ども達の命が助かって、本当に良かったですわね」
「おお、噂に名高いあの華の騎士様ですね」
僕達が子ども達の治療をしている間、ティナおばあさまとジンさんがバイス司教の相手をしてくれる様だ。
ティナおばあさまの二つ名は、教皇国でも有名なんだね。
「そして、私の横にいるのがAランク冒険者のジンです。導く者とも言われている様ですね。今回も冷静に専門家を呼ぶ様にと、私達に提案していましたわ」
「何と、聖女様救出の指揮を取られたというあの導く者様がいらしたのですね。導く者様には今回の毒飴の件にも対応頂き、私達はなんと運の良い事なのでしょうか」
「し、司教様、落ち着いて下さい!」
そしてティナおばあさまがジンさんの事を今回の対応も含めてバイス司教に説明したら、バイス司教は感激して大泣きしながらジンさんの手を握っていた。
感激して握手してくる司教の姿にジンさんは戸惑っていたけど、ティナおばあさまの説明は間違っていないし、実際に研究者を呼んでくる様に言ったのもジンさんなんだよね。
「確かに、今回の件はジンの判断が的確だといえよう。我が国でも、毒への対策は進めるとしよう」
「前回の聖女様襲撃事件での経験があるからね」
「ジンって、もしかしてって時の勘が良いからね」
今日の陛下への報告でもレイナさんとカミラさんと話した結果でも、ジンさんならこのくらいは予測できるだろうという考えだった。
ジンさん自身は特に凄い事だと思っていないけど、周りの評価はそれだけ大きいのだろうね。
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