二百七十九話 怪しい物

 ちゅんちゅん。

 ちゅんちゅん。


「暑い……」


 僕は布団の中の温かさを通り越して、少し暑いくらいの温度で目が覚めた。

 季節は冬でその上山がちなサーゲロイド辺境伯領なので、朝はとても寒い。

 なのだが、僕が寝ていたベッドでは何故か四人が僕にくっついて寝ていた。

 リズとサンディは元々一緒に寝ていたのだが、別のベッドに寝ていたはずのランカーさんとノエルさんまでくっ付いていたのだ。

 これでは冬とはいえ暑いはずだよ。

 しかも両サイドからぎゅっと抱きつかれているので、全く身動きが取れない。

 僕は諦めて、周りが起きるまで二度寝をする事にした。


「山道に入ったね」

「国境までは低いですが峠を越えていくのですよ」


 準備も整った僕達は、早速馬車で国境の街まで向かいます。

 辺境伯領の兵士も護衛についてくれていて、馬に乗って並走しています。

 峠を越えるといいつつ馬車で半日もあれば着くらしいので、この辺りの人にとってはなんて事はないという。

 街道も整備されているので、馬車の通行にも全く支障がない。

 順調に進んでいき、予定通りにお昼前には辺境の街に到着です。


「ここは小規模な盆地なんですね」

「峠から見える街の風景は、とても素晴らしいですよ」


 盆地の中程に川が流れていて、その川が国境線だそうです。

 とはいえ一つの盆地なので、交流がとても盛んらしいです。

 盆地を超えた先が本格的な教皇国の領地だということです。

 盆地に広がる街並みは中々良い景色で、観光地としても人気があるという。

 そんな街中を僕達は馬車でゆっくりと向かいます。

 

「先ずは代官所に向かうとしよう」


 サーゲロイド辺境伯の提案により、先ずはこの街の代官所で情報を集める事に。

 共和国に行った時も、国境の街で情報を集めたよね。


「今のところ、特に変わった動きはありません。ただ、それは住民レベルでの話であり、政治的な動きは流石に教皇国側に聞かないと分かりません」


 代官所に着いて早速話を聞いているが、特に住民レベルでは何も変わりはないのか。

 共和国の時も上が変わっただけで、住民は普通に暮らしていたよね。


「ふむ、次期教皇選挙関連はどうなっておる?」

「表面上は次期教皇選挙に向けて動いていますが、気になる動きが。懐古派と名乗る過激な派閥がある様です」

「もしかして、懐古派は教典を厳密に守り従わない者は異教徒扱いですか?」

「流石は殿下、左様で御座います」


 何処にも宗教の勢力争いはあるのか。

 しかし過激な派閥がいるとなると、警戒レベルを上げた方が良さそうだ。


「ただ、そういう奴らがいると分かっただけでも良い情報だ」

「そうじゃのう。過激派がいると分かれば、警備も増強し街の巡回を増やして不審物の洗い出しをすれば良い」

「軍もサーゲロイド辺境伯領に駐屯する部隊を増やしましょう」

「冒険者にも依頼のついでに変わった事がないか見てもらう事はできますね」

「流石はアレク殿下じゃ。街の目もフル活用しよう」


 僕と軍務卿と外務卿とサーゲロイド辺境伯で、取り急ぎの対策を話す。

 警戒していると思わせれば、相手も動きにくいはずだ。

 と、ここでリズがスラちゃんと共に何かを見つけてきた。


「お兄ちゃん、これなあに?」

「何だろう? 小さな魔導具だ。サーゲロイド辺境伯様、何かご存じですか?」

「いや、何も知らないぞ」


 小さな黒い魔導具。

 オセロのコマみたいだけど、その正体は近衛騎士が知っていた。


「これ、諜報部隊が使っている盗聴の魔導具とそっくりです」

「軍はここに盗聴は仕掛けていないぞ」

「辺境伯としても、こんな事はしないぞ」

「では、誰が仕掛けたのでしょうか?」


 ランカーさんの一言で一気にきな臭い事になってきた。

 まあ、思いつく先は限られるよね。


「辺境伯様、リズとサンディに不審な物がないか探させても良いですか?」

「私からもお願いしたい。今まで各地で不審物を見つけている実績がある」

「うむ、許可しよう。後で我が屋敷も見てもらおう」


 という事で、ここからは作業分担をする事に。

 僕と軍務卿と外務卿とサーゲロイド辺境伯とプリンは、辺境伯領の兵を護衛にして教皇国側の国境に向かう。

 リズとサンディとスラちゃんは、近衛騎士と共に代官所の不審物の捜索にあたる。

 サーゲロイド辺境伯も屋敷に不審物がないか探す事を指示していたが、僕達が帰ったら念の為に一緒に探す事にした。

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