二百二十一話 サンディの冒険者登録
「普段から色々勉強されているんですね」
「そうだね。知識に限らず、礼儀作法に魔法や剣技も習っているよ」
「リズは、たまにお裁縫もやるんだよ!」
サンディがうちに来て一週間。
サンディがロンカーク伯爵の家にいるときは、ひたすら礼儀作法の勉強しかやっていなかったという。
あの偽物のロンカーク伯爵は、サンディを本当にただの道具にしか見ていなくて、知識については必要最低限の教育しかしてこなかった。
それでもサンディが賢いのは、地頭が良いのだろう。
教える事を次々と吸収していくのだ。
因みにロンカーク伯爵家の捜索は当分かかるらしく、沙汰が出るまで一か月以上はかかるという。
ベストール男爵の件も絡んでいるし、更に疑いのある貴族も多いそうだ。
「サンディは水と風魔法に適性があるね。武器はティナ様と同じくレイピアがいいかな」
「この子も天才だね。直ぐに覚えていくよ」
いつもの朝の訓練の時にレイナさんとカミラさんにサンディに魔法と武器の適性を見てもらったけど、魔法も武器の扱いも直ぐに覚えていくという。
流石にリズみたいに大人サイズの武器は渡せられないので、子どもの練習用のレイピアを渡す様にしている。
今日は皆で薬草採取に行くのだけど、サンディも一緒に行く事になった。
サンディは冒険者の服を持っていなかったので、リズのお下がりを着てもらう事になった。
「おや、また新しい嬢ちゃんがいるぞ」
「また、えらいべっぴんさんだな」
「アレクくんがリズちゃんと一緒に新しい女の子と手を繋いでいる」
「もしかして、アレクくんの三人目の子? 私達は誰も相手がいないのに、五歳にして三人目ですか!」
「ハーレムの主がいる。羨ましい……」
ギルドに着くと、なぜか僕達を見てギルド内がざわめいている。
主にサンディの事を褒めているという意見と、僕の事をハーレムの主という意見だ。
因みにハーレムの主と言っているのは、主に独身の女性陣だ。
僕がサンディの手を握っているけど、どちらかというとサンディが僕の手を握ってきているのだ。
誰も信用していないけど。
「ジン、あの子は誰だ?」
「誰なの、あの綺麗な子は?」
「アレクくんの三人目なの?」
「えっと、ロンカーク伯爵家の当主でサンディだ。何でもアレクが身を張って暴漢からサンディの事を守って、それで一目惚れしたらしい」
「おお、自ら体を張るとはアレクもやるなあ!」
「羨ましい、そんなの目の前で見れば一発で恋に落ちるよ」
「まさに白馬に乗った王子様がお姫様を助けたのか。羨ましすぎる……」
ジンさんに冒険家達が群がっているけど、ジンさんは僕がサンディを助けた時の場面をそのまま伝えてしまった。
女性陣を中心として、更に騒がしくなっているぞ。
中には崩れ落ちている女性もいる。
そんな状況を尻目に、僕達はサンディの冒険家登録を行っていく。
うーん、気のせいかジンさんの結婚式でパートナーをゲットできなかった窓口のお姉さんからも、痛い視線を感じているぞ。
「で、なんでこんなに大人数がついてくるのよ」
「いやね、私達はサンディちゃんとお友達になりたいだけよ」
「そうそう、お話したいだけなのよ」
「はあ、余計なことをしたらアレクくんが怒るからね」
「大丈夫、大丈夫」
「そこはちゃんと見極めるから」
そして森に行こうとしたら、冒険家の女性陣がぞろぞろとついてきた。
どう考えても野次馬をするつもりだ。
さすがにカミラさんとレイナさんも呆れていた。
「サンディちゃん。サンディちゃんは何歳なの?」
「あ、はい。先月五歳になりました」
「じゃあ、ほぼリズちゃんと同じなんだね」
「そうですね。リズ様と同じです」
野次馬達は、早速サンディに話しかけた。
手を繋いでいる僕も、少し耳をすましている。
「サンディちゃんは、今はどこに住んでいるの?」
「はい、アレク様の屋敷に住まわして貰っています」
「へえ、もう同棲ですか。という事は、一緒のベッドで寝ていたりして」
「……うぅ」
「え、顔が真っ赤になったよ。アレクくん、流石に一緒に寝るのは早いんじゃない?」
「何もしていないし、いつの間にかベッドに潜り込んでくるんです。それにリズも一緒に寝ていますから」
「既に両手に美少女をはべらして寝ているなんて……」
「流石はハーレムキングだ」
「誰がハーレムキングですか!」
五歳児が寝ているだけでしょうが。
女性陣が抱くような妄想なんてありません。
「サンディちゃん、アレクくんに助けて貰った時、どう思った?」
「まるでお伽噺の中にいるような、そんな感じでした」
「ちっちゃくても、アレクくんはナイトなのね」
「はあ、お姉さん羨ましいわ」
そして、更に色々な事を聞き出している。
うん、これ以上は僕からツッコまない様にしよう。
そして、無事に森に着いたので薬草採取を開始する。
「薬草の採り方なら、リズにお任せだよ!」
「はい、お願いします」
「よし、あたしらも薬草を採るか」
こうして始まったリズによる薬草採取講座。
野次馬する為に着いてきた女性陣は、リズとサンディから色々な話を聞こうとしたのだろう。
「あ、お姉ちゃん薬草の採り方が違う!」
「えっ、そうなの?」
「その採り方だと、薬草がダメになっちゃうの!」
野次馬女性陣に対して、突如として始まったスパルタ教室。
話を聞く予定だった野次馬女性陣は、予定が狂ってしまってあたふたしている。
その隙に、サンディはレイナさんとカミラさんの所に逃げていった。
「ははは、今日一日うるさかったから、奴らには良い薬だろう」
「実際に教えているのはちゃんとした事なので、女性陣も為になるでしょう」
「あー、また違う!」
「えー?」
「「ははは」」
その様子を見守っていたジンさんと僕も、ちょっと苦笑しながら皆の護衛を続けた。
「うう、散々な目にあった……」
「そりゃ、お前らの自業自得だろう。正しい薬草採取を教えてもらって、お金もいっぱい手に入ったのだろう?」
「そりゃそうなんだけどね」
お昼になって、皆でギルドに戻るが、リズからスパルタ講座を受けた女性陣は、かなり疲れた様子でギルド内の食堂のテーブルに突っ伏していた。
リズのスパルタ講座の効果はあった様で、普段の薬草採取よりも沢山のお金を貰ったという。
その女性陣にサンディがととととと近づいてきた。
「今日はいっぱいお話ししてくれて有難うございます。また、お話しして下さい」
ぺこっと頭を下げてお礼を言うサンディ。
呆気にとられる女性陣。
そして、サンディは僕達の方にまたとととと戻っていった。
「ははは、こりゃ一本取られたな」
「違いねえ。純粋なサンディには、お前らの邪な気持ちは通じなかったか」
「お前らが結婚できない理由だな」
「「「うぅ……」」」
男性陣にからかわれた女性陣は、再びがっくしと机の上に突っ伏した。
サンディにとっては、いっぱいお話しができて楽しかったのだろう。
サンディは、ニコニコしながらギルドの食堂の食事を食べていた。
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