二百十七話 もう一人の未来の王妃様候補

「ポートコールの街はひと段落したな。調査は引き続き継続するが、市民生活が安定する事が第一だ」


 休息日を挟んで休養した後、いつも王城に行く日になった。

 僕とルーカスお兄様は陛下と閣僚と共に会議に参加中。

 ポートコールの市民生活は平穏を取り戻し、ジンさん達の奮闘もあって魔物溢れの心配もなくなったそうだ。

 その報告を聞いて、僕もルーカスお兄様もほっと胸を撫で下ろした。


「保護された少女も、だいぶ元気を取り戻したそうだ。心のケアは必要だが、ひと段落だろう」

「心のケアは、長い時間かかりますから」


 ミリアもとにかくケアが必要だが、母親代わりの人もいるのが大きい。

 当分は安静にして静養するそうだ。


「それよりも、賄賂を貰っていたのが全部局に及んでいたので、そちらの方が頭が痛い」

「全ての直轄地の財政も再点検がひつようですね」

「順に始めているが、人手が足らん。場合によっては、また二人を直轄地の調査に駆り出さないといけないかもな」


 役人が不正を見過ごす様にしていたので、他の直轄地もどうなっているか頭が痛い問題だ。

 簡単な計算くらいなら僕とルーカスお兄様でも問題ないので、恐らくまた呼ばれる気がしてならない。


「あと、ルーカスとアイビーだが、王城で行うアレクとリズとエレノアの五歳の祝いの時に、正式に婚約者として発表する。ポートコールの件は、アイビーにとっても良い経験になった様だな」

「はい、アイビーにとっても国をどの様にしていけば良いか、肌で感じたと言っていました」

「うむ、感じた事を考えるのはとても大切だ。これからも、様々な事を体験させないとならないな」


 ルーカスお兄様とアイビー様の婚約が決まって良かったと思う反面、他にもルーカスお兄様の嫁にと狙っている人は多そうだ。

 何だか一悶着ありそうで怖いなあ。


 因みに、直近に迫ったエレノアとリズの誕生日パーティは特に制限もなく行われる事になった。

 王妃様とアリア様とティナおばあさまが、二人の衣装を張り切って選んでいたよな。


 直轄地の財務調査を強化する事で会議は終了。

 僕とルーカスお兄様は、王室専用の食堂に向かっていった。


「「「「プシュー……」」」」

「「やっぱりこうなったか」」


 そこには屍となっている四人の姿があった。

 勿論、初参加のアイビー様も頭から煙が出ていた。

 僕とルーカスお兄様は、あちゃーって顔をしていた。


「それでもアイビーは頑張っていたと思うよ」

「そうだね。もう少し難しい問題でも大丈夫だね」

「えっ……」


 そして、更に追い討ちをかける様に今日の家庭教師のレイナさんとカミラさんが難しい問題にすると言っていた。

 それを聞いたアイビー様は絶望した表情をしながら、ムクッと起き上がり再びテーブルにふしていった。

 残念、レイナさんとカミラさんがこう言ったら次は絶対に難しい問題になるので、アイビー様は諦めて貰うしかない。


「それにしても、アイビーはとっても良い魔物を従魔にしたわね」

「これで、あのうるさい伯爵も黙らせる事ができるわ」

「ふふふ、ドレスが完成した時が楽しみだわ」

 

 そして、良からぬ事を企んでいる王妃様とアリア様とティナおばあさま。

 とても悪い表情をしています。

 アイビー様の従魔であるアマリリスが出すスパイダーシルクを使って婚約お披露目用のドレスを作るそうで、勿論従魔であるアマリリスも主人の為にと張り切っているそうだ。

 因みに、現存するスパイダーシルクを使った服は国宝扱いだそうなので、もっと凄いものが出来上がるだろう。


「あの伯爵って事は、何かあるんですね」

「ええ、自分の娘を熱心にルーカスの嫁にと推してくるのがいるのよ」

「アレク君と同い年よ。娘は大人しくて良い子なんだけど、いかんせん両親がね……」

「商売で成功した、お金に目がない貴族なのよ。あまり評判が良くないの」

「絶対に裏で何かありそうですね」


 うーん、その娘さんには悪いけど未来の王妃様なんだし、両親の質も問われるよな。

 どっちにせよ会う事になるのだし、僕も警戒をしないとならない。


「あ、そういえばアイビー様って公爵家って聞きましたけど、僕の知っている人ですか?」

「あー、アレクくんとリズちゃんは知らないかも」

「前軍務卿よ。閣僚は数年おきに変わるけど、先代の方なのよ」

「今も軍部の重鎮よ。アイビーはその人の孫娘なのよ」

「確かに会った事はないですね。でも、なんとなく人柄はわかりそうです」


 僕は直ぐに会えるかなと何となく思っていたら、本当に直ぐに会う事になるのだった。

 

「食事をお持ちいたしました」

「「「「わーい」」」」

「「「……」」」


 と、ここで侍従が昼食を持ってきて、くたばっていた四人があっという間に復活した。

 その様子を見た王妃様とアリア様とティナおばあさまは、まだまだ子どもだなと少しだけガックっとしていた。

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