二百十四話 未来の王妃様?

「え? 街の診療所に圧力をかけていたんですか?」

「はい。賄賂を渡さなかったといって。そのために、街の医療が停滞しています」


 カールトンさんと共に駆け込んできた街の人から話を聞いたが、賄賂の為とはいえ診療所に圧力をかけるとは。

 ルーカスお兄様も、流石に怒りを隠せないでいる。


「僕とリズとスラちゃんで、街の人の治療にあたります」

「流石に人手が足らないだろう。エレノアも呼んでこよう。ルーシーには、屋敷の捜索を代わりにしてもらおう」


 ちょっと手が足りないので、王城に行って助っ人を頼む事に。

 陛下に話をしたら、護衛を増員する事で了解を得た。

 まあ、ルーカスお兄様とルーシーお姉様は屋敷の中だから安全だし大丈夫だろう。

 それとは別の要員も追加される事に。

 その子は、王妃様が連れてきた。


「ルーカス、この子も連れて行ってね」

「お母様? その子って、公爵家のアイビーだよね?」

「そうよ。ルーカスのお嫁さん候補ね」

「はっ?」

「「「えー!」」」


 王妃様が連れてきたのは、ルーカスお兄様よりもちょっと背の高い子で、少しオレンジの混ざった金髪をツインテールにしており、ちょっと勝ち気な瞳をしている。


「お久しぶりですわ。ルーカス様」

「アイビー、久しぶりだね。お母様が言っていた事は本当なの?」

「本当ですわ。私とルーカス様は、相思相愛なのですから」


 うーん、アイビー様はツンデレキャラかと思ったら、デレデレキャラっぽい。

 とにかくルーカスお兄様ラブの様だ。

 腰に手を当てて、ちょっと頬を赤く染めながらビシッとルーカスお兄様の事を指差している。

 ルーカスお兄様はアイビー様の態度に慣れているのか、苦笑しているぞ。

 そして、アイビー様に突撃する三人と一匹。


「「「わーい、アイビーお姉ちゃんだ!」」」

「ちょっと、なんですのー!」


 ルーシーお姉様とエレノアとリズにスラちゃんは、アイビー様を取り囲んで騒いでいる。

 まあ、戸惑いながらも抱き締めている辺り、アイビー様はとても良い人なんだろう。


「アイビーには、暫くの間王城で生活してもらうのよ。王妃候補としての勉強も兼ねて、王家の生活を経験してもらう事にしたの。今回は王国直轄地での事件だから、どの様に対処するか良い経験になるでしょうね」

「はい、有難う御座います義母様。ルーカス様を支えられる様に頑張ってきます」

「アイビー、その意気よ。頑張って来なさいね」


 という事で、アイビー様も一緒にポートコールへ。

 

「アイビー様は、回復魔法は使えますか?」

「簡単な回復魔法ならできますわ」

「じゃあ、リズとエレノアとスラちゃんと共に街の人の治療を頼めるかな?」

「お任せ下さい、ルーカス様。教会での奉仕作業でもやっておりますので、大丈夫ですわ」


 という事で、アイビー様は治療班にまわってもらう。

 その間に、スラちゃんがアイテムボックスから椅子と机を出していく。

 その様子を見たアイビー様が、かなりびっくりしている。


「な、なんですの! スライムが空間魔法を使っていますわ!」

「スラちゃんは凄いスライムだからね。治療もできるんだよ」

「ルーカス様、にわかには信じられませんわ」


 いきなり目の前でスライムが高等魔法を使うのだから、そりゃびっくりするよね。

 ルーカスお兄様も苦笑しながら説明してくれた。

 こう見ると、既に良いカップルの様に見えるけどなあ。


「アイビーはとっても良い子だよ。王妃候補になってからも、勉強を進んでやっているし、誰にでも優しいよ」

「私は、アイビーお姉ちゃんが本当のお姉ちゃんになるのは大賛成だよ」


 書類を片付けていたら、ルーカスお兄様とルーシーお姉様が話をしてくれた。

 ちょっと勝ち気だけど、努力家で誰にも優しい。

 ルーカスお兄様もルーシーお姉様も、そんなアイビー様の事を評価していた。

 

「リズとも直ぐに仲良くなりましたし、僕にも話しかけてくれました。僕もとても良い人だと思います」

「僕も、アイビーが君達の事を気に入って良かったと思う」


 何だかルーカスお兄様が別の表情を見せていた。

 いつもよりも柔らかい表情だ。


 二時間ほど作業をしていたら、治療班が屋敷の中に入ってきた。


「お兄ちゃん、全員終わったよ!」

「お疲れ、どうだった?」

「重症の人は少なかったから、魔力もそんなに使ってないよ」

「全然平気なの!」


 どうやら治療を受けないといけない人は少なかった様だ。

 リズもエレノアも元気いっぱいだ。

 それに対して、何故かアイビー様はちょっと大人しめだ。

 何かあったのかな?

 その疑問は、リズが教えてくれた。


「アイビーお姉ちゃんはね、漁師の人がちょっと怖かったんだよ」

「リズちゃん、黙っていてください!」

「ふがふがふが」

「「ああ……」」


 アイビー様が急いでリズの口を塞ぐが、既に手遅れだった。

 僕とルーカスお兄様は納得してしまった。

 この街の漁師は厳ついし体ムキムキだし、豪快な性格だもんなあ。

 リズやエレノアは冒険者で慣れていたけど、アイビー様は慣れていなさそうだもんなあ。

 僕達に理由がバレてしまって、アイビー様はちょっとバツの悪い顔をしていた。

 ともあれ、短時間で皆仲良くなった様だ。

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