二百九話 血は争えない
「くそ、離せ。離しやがれ!」
「大人しくしろ!」
兵に両脇と後ろを固められた代官が船から降りてきた。
何だかへっぴり腰でまともに歩けないのに、周りに向かって威張り散らしている。
「どうして私が捕まらないといけないのよ。これは横暴よ」
「くそ、離せ」
「離しやがれ」
更には代官の夫人と思われるこれまた太ったオバサンと、代官の息子と思われる成人した男性が運ばれてきた。
しかし、流石は親子だ。
兵に対して全く同じセリフを吐いている。
そして、代官と息子の髪の色はあの保護された少女と同じプラチナブロンドだ。
という事は、という事なのだろう。
「久しいな、ベストール男爵」
「よもやこんな形での出会いになるとはな」
「げっ! 軍務卿に内務卿!」
代官はベストール男爵なんだ。
軍務卿と内務卿が声をかけると、かなりびっくりしたのか目玉が飛び出そうになっていた。
代官が騒いだので二人がどんな立場にいるのかが分かってしまい、代官夫人と子どもたちの顔色が青くなっていく。
「ケーヒルさん。ベストール男爵という事は、あのベストール侯爵の親戚ですか?」
「そうなります」
僕は近くにいたケーヒルさんに話を聞いたけど、やはりというかそういう事だったんだ。
代官は僕とケーヒルさんの話を聞いて、何故か怒り始めた。
「そこのガキ! ケーヒル男爵様と呼べ!」
しーん。
この展開って前にもあった様な気がした。
確かジェイド様とソフィアさんの結婚式でもベストール侯爵から言われたな。
血筋というか、こういうのは親戚でも変わらないなあ。
「ベストール男爵、貴様は誰に向かって暴言を吐いている」
「アレクサンダー殿下であるぞ」
「殿下?」
ベストール男爵がびっくりした目で僕の事を見ていた。
そして僕は、アイテムボックスから王家の短剣を取り出した。
この流れも、この前と全く同じだ。
「アレクサンダー・テラ・ブンデスランドです。ベストール男爵」
「殿下? へ?」
「陛下の代理として、ポートコールにやってきました。税の書類も確認しましたし、駐屯地や防壁での騒乱も確認しました」
「あっ……」
今更になって僕の事を理解したのか、代官は顔が真っ青になって汗がダクダクと流れている。
僕は更に言葉を続けた。
「そして、保護された少女を虐待していた様ですね。嫡男が侍従に乱暴して産ませた様ですが。同じ様な事は、バザール領でも目撃しました」
「くっ、何故……」
今度は嫡男がびっくりしている。
鑑定の結果、少女の母親の名前が貴族っぽくなかったので、カマをかけてみたのだがどうやらあたった様だ。
僕はゲートを王城に繋ぐ。
既に宰相などが待ち構えていて、直ぐに兵と共にやってきた。
実はこっそりと少しだけゲートを事前に繋げており、僕と代官や嫡男の会話を王城で聞こえる様にしていたのだ。
「横領だけに飽き足らず、一家で様々な犯罪に手を染めていたとはな」
「くっ、くそ!」
「厳重な監視の元、徹底的に調べるのだ」
「「「はっ」」」
僕と代官や嫡男の話を聞いていた宰相もかなり怒っており、鬼の形相で代官や家族を睨みつけていた。
そして同じく怒っている兵によって、王城の拘置施設へ連行された。
僕はゲートを閉じるが、宰相はポートコールに残るという。
その理由は、あの少女の事もあるからだ。
「お兄ちゃん、リズとスラちゃんでは怪我を治せないの」
「分かった。直ぐに治療しよう」
僕とリズに加えて、スラちゃんとプリンとの合体魔法でようやく少女の体に負った怪我を治すことができた。
つまりは、それ程の治療をしないと治せない程の怪我を負っていた事になる。
「体中が傷だらけでした。四肢を再生しなければならないレベルでの治療が必要でした」
「こんな小さい子が何ということか」
「本当に許せませんね」
「子を持つ親として、ありえないです」
治療を受けた効果なのか、スースーと寝息をたてて寝ている少女。
僕もリズも勿論スラちゃんとプリンも、少女が受けていた被害に大人と同様に怒りを隠せなかった。
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