百三十二話 王都冒険者ギルドへの見学
王城に行ったある日のこと。
陛下に会うと春先まで特に公務の予定がないと、有り難いお言葉を頂いた。
「ベストール侯爵一派が一気に衰退したから、やつらのせいで止まっていた政策をやるのに忙しいのだ。アレクならできると思うが、手伝ってみないか?」
「その前に、まだ僕は四歳児ですよ」
「ははは、分かっておる。下の優秀な者に、幾つかの政策を任せる予定だ」
と、この前陛下にお会いした時に色々と言われていた。
僕を内政に使うと冗談の様に言っていたが、陛下が僕を見る目は本気だったぞ。
とはいえ、現場見学とかは合間をみてやっています。
今日は王都の冒険者ギルドの施設を見学する事に。
何気に王都の冒険者ギルドには初めて行く事になります。
普段僕とリズがどんな冒険者活動をしているかを話しているので、ルーカスお兄様もルーシーお姉様もエレノアも何となく冒険者のイメージがついている。
でも実際に冒険者ギルドを見るのは、聞くよりももっとイメージをしやすいはずだ。
今日は僕とリズとエレノアに、ルーカスお兄様とルーシーお姉様。
護衛にはいつものジェリルさんとランカーさん。
「おじいちゃんは、絶対に私達の事を都合良く使っているよ」
そして、またしても宰相からの指名でカミラさん達が説明担当として同行する事に。
祖父である宰相に良いように使われているカミラさんが、ちょっと不憫だった。
「準備できた!」
「何で僕まで冒険者の格好に……」
「いや、アレク君にリズちゃんまで冒険者スタイルにならなくても良いんだけど」
当初冒険者スタイルはカミラさん達だけの予定だったのだが、冒険者ギルドに行くのなら自分もとリズが冒険者スタイルに着替えている。
そして、僕もリズに巻き込まれて、冒険者スタイルに着替える事に。
「「「いいなあ……」」」
ルーカスお兄様にルーシーお姉様に加えてエレノアも、何故か羨ましそうに僕達の服を見ていた。
しかしながらルーカスお兄様達の冒険者用の服は用意されていないので、今着ている子ども用の騎士服で我慢してもらおう。
そしてスラちゃんはリズのフードの中に、プリンは僕のフードの中に入ってスタンバイ済みだ。
とりあえず準備が出来たので、馬車に乗って王都の冒険者ギルドに移動開始。
王城から少し離れた所にあるので、馬車で三十分かかって到着した。
「辺境伯領の冒険者ギルドよりも大きいですね」
「ここは王国のギルド本部の機能もあるのよ。単純な冒険者ギルドだと、ホーエンハイム辺境伯領の冒険者ギルドが一番大きいわ」
「へー、そうなんだ」
初めて見る冒険者ギルドの大きさに、ルーカスお兄様にルーシーお姉様とエレノアは驚いていたが、僕とリズはいつも辺境伯領の冒険者ギルドに行っているから気にならない。
カミラさんの説明だと、王都の冒険者ギルドには王国の冒険者ギルド本部があるらしいが、どんな感じなのだろう。
と、そんな事を考えていたら、いつもと同じと言わんばかりにリズが先頭に立って冒険者ギルドの中に入っていった。
慌てて、皆でリズの後を追いかけていった。
「うーん、人少ないね」
「そりゃもうお昼近いからね」
ギルドに入ると、冒険者の姿はまばらで受付にいる人も全ての席には座っていなかった。
宿も併設されているけど、食堂はないみたい。
でも、ギルドの近くには沢山の食堂があったな。
「冒険者は、朝早く自分にあった依頼を探して活動するのよ。だから、お昼は冒険者が少ないし掲示されている依頼も少ないわ」
「そうなんですね。何だか冒険者ギルドといえば、朝から冒険者がお酒飲んで騒いでいるイメージがありました」
「地方によっては、その様なギルドもあります。王都のギルドは食堂が周囲にありますので、比較的静かですね」
ルーカスお兄様の疑問はもっともだけど、辺境伯領の冒険者ギルドも賑やかだけど騒いでいる人は少ないかも。
ルーシーお姉様もエレノアも、不思議そうにギルドの中を見回していた。
「さあ、中は後でギルドの職員から説明があるわ。先ずはギルドマスターにご挨拶しましょう」
「「「「「はい」」」」」
カミラさんが先導して、ギルドの個室に入った。
すると、いかにも魔法使いって感じの女性が中に座っていた。
王都のギルドマスターは女性って事にびっくりしていた。
しかも黒色の長髪で長身でスタイルが良い上に、際どいドレスにローブを着ている。
僕達がソファーに座ると、カミラさんがギルドマスターを紹介してくれた。
「こちらにいるのがサンディさん。王都のギルドマスターよ。王都のギルドを統括するグランドマスターは別にいるけど、今日は所用で不在なの」
「初めまして、王都のギルドマスターのサンディよ。ようこそ王都の冒険者ギルドへ。皆様を歓迎しますわ」
サンディさんは立ち上がって、僕達一人一人に握手してくれた。
早速という事で、お勉強タイムが始まった。
カミラさんが、僕に冒険者について質問してきた。
「アレク君、冒険者の仕事ってなあに?」
「素材の採取と魔物の討伐、後は指名を受けての調査や探索とかでしょうか?」
「うん、大体あっているわ。流石はアレク君だね」
僕の回答内容に、カミラさんに褒められながら頭を撫でられた。
サンディさんは、ふむふむと頷いていた。
「元々冒険者は、未開拓の地を調査したり魔物を討伐したりしていたの。国を発展させるためには領地を広げないといけないからね。また、魔物から取れる素材は貴重だったのよ。だから、冒険者といえば危険だけど成功すれば大金が得られる職業だったの」
サンディさんの説明に、皆ふむふむと頷いていた。
ルーカスお兄様は、キチンとメモを取っていた。
僕達の様子を微笑ましい様に見た後、サンディさんは話を続けた。
「だけど一攫千金を狙って多くの人が冒険者を目指した結果、色々と問題も起きたのよ。冒険者同士のいざこざも発生したし、資源の乱獲も起こった。なので、冒険者を管理する組織を作る事になったの。それが冒険者ギルドよ」
そりゃ一攫千金を狙えるのなら、多くの人が押し寄せそうな気がするよ。
特に貧しい人なんかは、多く押し寄せただろう。
「今でも、国や各領地の兵では守りきれない領地もあるの。しかも人口は増えているので、領地は拡大しているわ。更に貴重な薬の原料などは、危険な場所にある物もある。だから、定期的な魔物の討伐や資源の採取など、冒険者への依頼の需要は絶えないわ」
「リズがやっている薬草採取もそうなの?」
「ええ、そうよ。病人や怪我人の治療に必要なのよ。常にリズ殿下が治療する訳にもいかないでしょう?」
確かに辺境伯領の冒険者ギルドには、次々と新規の冒険者を目指す人が訪れていた。
しかも男女関係なく多くの人が来ている。
初心者でも頑張れば一定のお金は手に入るし、今でも一攫千金を目指す人は多そうだ。
「また、ギルドと国や領地によっては、災害協定を結んでいる所があります。そういう所にあるギルドは施設がいい反面、何かあった際は協力を求められます」
「先日の辺境伯領のゴブリン騒ぎの時も、ギルドマスターと辺境伯様が色々と話をしてました」
「特に辺境伯領では国防に携わるので、いざという時に向けて定期的に話し合いもされています」
この間のゴブリン騒ぎだけでなく、天災とかでもギルドと共に協力する事があるらしい。
この辺で今日の説明は終了となった。
「本当に真面目に聞いてくれて有難うね。また、説明する機会があると思いますのでその際は宜しくお願いします」
「「「「「有難う御座いました」」」」」
ジュースを貰ってから、僕達はサンディさんがいた部屋から出た。
「次はギルドの依頼を見てみましょう。依頼を見ると、その土地でどの様な事が求められているか分かりますよ」
続いてカミラさんに案内されたのは、ギルドの依頼が貼ってある掲示板。
皆でどんな依頼が貼ってあるか見てみた。
「素材採取と護衛依頼が多いですね」
「魔物討伐は少ないですね」
僕とルーカスお兄様の見解は間違っていなかった。
カミラさんはうんうんと頷いていた。
「王都は多くの人が住んでいるから、薬草も含めて常に素材が不足しているの。また、王都と各都市は街道で結ばれているから、商人が護衛を依頼するのよ。それに対して、王都は兵も多いから訓練を兼ねて定期的に魔物を討伐しているの。だから、魔物討伐の依頼が少ないのよ」
「「「へえー」」」
カミラさんの説明にリズとエレノアとルーシーお姉様はびっくりしていたけど、リズには前に辺境伯領で教えてあげた気がするぞ。
もうそろそろお昼の時間になるので、今日はこれで終わりらしい。
「今日はここまでで終わりね」
「依頼は受けないの?」
「今日はやらないよ」
「えー」
カミラさんから依頼を受けないと聞いてリズが不満の声をあげたけど、カミラさんは今日はって言った様な。
「明後日アレク君とリズちゃんが薬草採取に出るので、そこで皆で冒険者体験をしましょう」
「「「「わーい」」」」
思わぬ提案に、皆は両手をあげて喜んでいた。
勿論、警備もつくと思うけど、辺境伯領での薬草採取は安全に気をつければ簡単にできる。
「カミラさんもついてくるのですか?」
「私達だけでなくジンも護衛につくわ。勿論、近衛騎士で冒険者ギルドに登録のあるものも護衛につきます」
「それなら安全ですね」
リズ達は、早速薬草採取についてあれこれ話していた。
どんな薬草採取体験になるか、とても楽しみだ。
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