第2話  あやしい採用通知


「いったいどうなっているんだ」


勇気は採用通知を眺めながら、不思議に思いました。


最近仕事の応募をしたことなど、なかったからです。


勇気は都内に住む26歳。アパートで一人暮らしをしていました。


二年ほど前から、HP作成や動画編集、ブログやメルマガに特化したコピーライティングを手掛け、細々と自営業を営んでいましたが、最近では大手流通会社の依頼を受け、自転車での宅配といった委託業務も増えていました。



【貴殿は尊いお仕事をするにふさわしいものとして、

選ばれました。おめでとう。クリスマスイブの24日、

夕方の5時に出勤するように。


本当にめでたい。貴殿は栄誉ある職業につけるのだから、

今から胸を張って、毎晩寝られたし】



出勤場所は雪丘公園の滑り台前と書いてありました。


勇気は、あきれてものが言えない、とはこのことだと思いました。


「見るからに怪しすぎる、行くわけがない」


勇気は本棚の横に無造作に置かれた雑誌の束の上に、

その採用通知を放り投げました。


ところが翌朝になると、勇気の机の上に例の採用通知が置いてあるではありませんか。


「夜中に足でもついてて、ここまで歩いてきたか?」


勇気は冗談交じりにそう言うと、今度はその採用通知をやぶってごみ箱に捨てました。


驚くべきことに翌朝になると、また採用通知は勇気の机の上に戻っていました。


「ぽかんと開いた口がふさがらないというのはこのことか?」


勇気は自分を揶揄(からか)いながらも、顔から血の気が引いていくのを感じていました。


それからオカルトのような毎日が続きました。


破り捨てても、燃やして灰と化しても、翌朝には何ともなかったように勇気の机の上に戻ってくる採用通知、これがオカルトでないなら、何がオカルトだというのだろう。


絶句したり……唖然としたり……途方にくれたりしてみたけれど、

何も解決はしませんでした。


目の前にあるこの採用通知に従うほかないのだろうか?


勇気はなんだか自分が目に見えない誰かにあやつられているコマのように感じられて、気が滅入るのと、思いがけない気分の高揚とを同時に味わっていました。


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