第三百五十六話 ちょっとした成長

 翌朝、いつもの学園入園組の特訓を中止と言っていなかったので、俺とビアンカ殿下で屋敷に戻った。


「僕達も、何か手伝えますか?」

「少しでも良いので、力になりたいです」


 おお、事情を話したら皆手伝いたいと言ってきたぞ。

 とはいえ、流石に全員連れて行くわけにはいかない。


「今日は、この後村に行ってもよい者だけにする。後は、行ける日を決めて順番じゃな」

「ビアンカ殿下、良いんですか?」

「これも良い実地訓練じゃ。良い体験になるじゃろう」


 という事で、いつもの朝二時間は全員で行って、そこから帰る人は再び送っていく事にした。


「チナさん。また、留守番を任せて申し訳ないです」

「屋敷の事はお任せ下さい。他の屋敷にも伝えておきます。あと、ライリーも連れて行って下さい。この子にとっても良い経験になると思います」

「すみません、治療中の人もお願いします」


 学園で教師をしないとならないチナさんに、またもや全てを任せてしまった。

 治療中の人も、また話せないけど流動食も取れる様になった。

 このくらいなら、侍従にお任せでも大丈夫。

 という事で、学園入園組とライリーを連れて村にワープした。


「これは酷い……」

「でも、お片付けとかは僕らもできると思うよ」


 村の惨状を見た子ども達は、一様にショックを受けていた。

 しかし、うちでドラコ達と勉強した成果か、直ぐに気持ちを切り替えていた。


「今日は村の人と後片付けで良いでしょう。それだけでも、かなり助かると思いますよ」

「二時間で帰る子もいるし、やはりそれで良さそうだね」


 フローレンスからの提案もあり、学園入園組には壊れた家の後片付けをして貰うことになった。

 早速、家の人と後片付けを始めている。


「ライリーは、妾達と街道と駐屯地作りじゃな。これも魔法の勉強じゃ」

「うん、頑張るよビアンカお姉ちゃん」


 ライリーは、ビアンカ殿下主導の街道と駐屯地作成に取り掛かった。

 体調もだいぶ良くなり、魔法の訓練も始めている。

 ライリーにも土魔法の適性があったので、良い訓練になりそうだ。


「サトー、僕達は巡回に行ってくるよ」

「気をつけて行ってこいよ」


 ドラコ達は、当初の予定通りに周辺の巡回を始めた。

 被害が出ない程度に、魔物も狩ってくるそうだ。

 さて、俺は昨日重傷だったビックベアとオーガの様子を見に行くか。


「昨日はありがとうございました。皆、この様に元気になりました」

「まだ体力は落ちていると思うので、無理はさせないで下さいね」


 ビックベアの大将と女将にオーガのギーガも、もりもりとご飯を食べていた。

 聞けば、この村人が小さなビックベアとオーガを保護して育てたそうで、家族同然だという。

 村人にも慕われていて、力持ちなので港での作業で大活躍だそうだ。

 学園入園組も最初は驚いていたけど、直ぐに打ち解けていた。

 まあ、うちにはバハムートもいるし、魔物耐性がついているだろう。


「サトー、木材とかどうする?」

「住宅建てるのに必要だよな」

「この村には大工もいるから大丈夫らしいけど、木材が足りないよね」


 エステルから指摘あったけど、確かに焼け落ちた家の再建が必要だ。

 だいたい十棟分は必要だな。


「ゴレス領に行って、木材を買ってくるか」

「それがいいかも。野菜も買ってこよう」

「街道ができるまで、定期的に物資も補給しないとならないな」


 エステルと共にゴレス領で木材を購入し、更に色々な領地にワープして物資を購入してきた。

 村外れに木材を出して、村の大工に確認してもらう。

 物資は、村長の家を拠点にして必要な人に配布した。


 あっという間に二時間経ったので、学園入園組は帰ることに。

 今日は全員帰って、明日改めて来ることになったそうだ。


「それでも、皆一生懸命に頑張っていましたよ」

「これだけの荷物が運び出せれば上等だろう。後でちゃんと給金を払うよ」

「それが良いかと。それだけの働きはしました」


 フローレンスも太鼓判を押す働きを見せてくれたので、学園入園組にはきちんと報酬を払おう。


「こりゃ便利だな」

「あっという間に、草が刈れたぞ」


 村の人も、街道や駐屯地になる場所の作業を始めた。

 どうも草刈り機の魔道具は初めてらしく、その使い勝手に驚いていた。

 ビアンカ殿下主導でどんどんと土地の整備が進むが、周辺までは手がつけられない。

 なので、そこを村人にお願いしている。

 整備しないといけない場所は沢山あるし、当分は仕事にも困らないだろう。

 

 さて、街道作りはというと、これまた凄い規模でやっているな。

 ビアンカ殿下の指示の下、馬車三台が余裕ですれ違える幅のある街道を作っている。

 ライリーも、魔法の練習を兼ねて頑張っている様だ。


「ビアンカ殿下、随分と広い街道ですね」

「こういうのは後から拡張はできぬ。今のうちに広めに作っておくのじゃ」

「確かに、再び工事となると面倒ですね。ライリーはどうですか?」

「まだまだこれからじゃ。筋は悪くないから、工事が終わる頃にはだいぶ良くなるじゃろう」


 ライリーは、アメリア達に色々と教えられながら少しずつ作業を進めている。

 最初は誰もが初心者だから、こればっかりは仕方ない。

 その横で、マシュー君達とニー達がガンガン道路整備しているのは気にしないことにしておこう。


 その後も作業は順調に進み、今日の作業も終わりとなったタイミングで、ちょっとしたハプニングが発生。


「「「今日もテントでお泊り!」」」

「いや、マシュー君達は帰るよ」

「「「なんで!」」」 


 昨日は仕方なかったけど、今日は子ども達を屋敷で寝させようとしたら、マシュー君達がブーブー言ってきた。

 どうもミケやマチルダとかもお泊りしたいらしい。


「まあ、こうなるような気がしました」

「皆、野営好きだからね」


 結局アメリアとエステル達も折れたので、子ども達も野営する事に。

 その代わり、夕食の炊き出しも手伝って貰いました。

 ライリーも一緒に野営する事になったので、屋敷に戻ってライリーの着替えを取りに行くついでにチナさんに一言伝えておいた。


「自ら野営したいと言い出すのはいい傾向です。よろしくお願いします」


 ライリーが積極的になってきたと、チナさんも喜んでいるので良しとしよう。


「で、何でいつも俺のテントに全員集まっているんだ?」

「「「気にしなーい」」」


 何故か野営すると、いつも子ども達が女性陣のテントではなく俺のテントに入ってくる。

 まあ、エステルがいるから子ども達はいじられるのが嫌なんだろう。

 あっという間に寝てしまった子ども達を見つめながら、俺も寝るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る