第三百五十一話 お土産選び

 朝食も終えて、旅館のチェックアウトをする。

 スラタロウにホワイトにショコラが、一足先に王都の屋敷の人達を迎えに行っていた。

 一晩いなかったけど、屋敷は何もなかったかな?

 そう思っていたら、ちょっとした騒動になった。


「「「エーちゃん見つけた!」」」

「おっと、どうしたの?」

「「「ううー」」」


 チェックアウトを終えて旅館を丁度出た所で、マシュー君達がエステルの足に抱きついていた。

 よく見ると、リンにはコタローとそしてフローレンスにはマチルダが抱きついている。

 昨日の夜会えなかったので、寂しかったようだ。

 リンもフローレンスも、二人を抱きしめて頭を撫でていた。


「エステル様がいなくて、屋敷の中は不気味な位静かでした。子ども達もだいぶ寂しがっていて、中々寝付けなくて大変でしたよ」

「うーん、エステルが不在なのがそこまで影響が大きいとは思わなかったぞ」


 俺の横にいつの間にかいたマリリさんが屋敷の状況を報告してくれたけど、確かにエステルは明るいし子ども達にも人気だからなあ。

 予想外の報告に驚きつつも、特に問題はなかったのでほっとしている。

 さて、皆を連れて街に行こう。

 と、思ったのだが......


「サトー、助けてよー」


 エステルが、多くの子ども達に体をよじ登られて動けなかった。

 皆でエステルに纏わりついている子どもを引きはがして、ようやく街にくりだした。


「久々に来たけど、観光客が増えているような」

「多分気のせいではないですね」

「王都や周辺の領地では、ドワーフ自治領も以前よりも有名になりました」


 子ども達がついてきているのでまるで保育園の先生状態のエステルとリンとフローレンスが、ドワーフ自治領に多く来ている観光客の数の多さにびっくりしていた。

 ドワーフ自治領の独特の風習になによりも良質な温泉があるので、それが大きく広まったのが原因だという。

 というか、俺達がこの一端を担っている様な気もする。


「なにあれ?」

「ドラコどうした? って、ぶふぉ。何だこりゃ!」


 商店街に入って少しした所で、とある立派なお店にでかでかと横断幕が張られていた。

 そこには、「ドラコ赤竜王女、婚約おめでとうございます」と書いてあった。

 それを見つけたドラコは横断幕を指さして固まっているし、他の面々もびっくりして固まっている。

 おお、流石に子ども達も驚いているぞ。


「これはこれは、姫様」

「商工会長! これは一体何?」

「いやあ、赤竜王妃様がこの間喜んで我々に話してくれまして。この横断幕もきちんと許可を貰っております」

「お、お母さん。何て事を......」


 ドラコが、がっくりと地面に崩れ落ちている。

 シラユキを始めとする竜の仲間も、可哀想な目でドラコを見ていた。

 この建物はドワーフ自治領の商工会議所で、今はこれだけしか横断幕が用意出来ていないとドワーフの商工会長は笑っていた。

 まさかそんな事が、本人の知らない間に進んでいるとは思っていなかった様だ。

 勿論、俺達もそんな事は全く知らなかった。


「あ、姫様だ」

「姫様、婚約おめでとうございます!」

「あ、ありがとう......」


 その後も、行く先々でドラコに祝福の声がかかっている。

 ドラコはドワーフ自治領では抜群の知名度を誇るから、誰もが良かったと喜んでくれている。

 それが分かっているので、ドラコも無下な対応は出来ないでいる。

 ドラコの笑顔がぴくぴくとひきつっているが、俺達は誰も指摘は出来なかった。

 

「疲れた......」

「お疲れさん、まさかこんな事になっているとはな」

「本当だよ、お母さんがまさかここまでやっているとは思わなかったよ」

「街の人も本心で喜んでいたな」

「流石にそれは分かったけど、ちょっと複雑な心境だよ」


 お昼の時間になったので、ドラコ行きつけのお店に行く事に。

 大人数という事もあり、お店の人が気を使ってくれて奥の座敷に通してくれた。

 冷たいお茶を一口飲んだドラコは、だいぶ疲れた様子でテーブルに突っ伏していた。

 ドラコは人がいいので、街の人の好意を無下にできないで笑顔でずっと対応していた。

 皆も、そんなドラコを労っていた。


「ドラコ、この後どうする? 屋敷に帰るか?」

「いや、帰らない。イルゼ達にもまだこの街を紹介しきれていないし、それに後日の方がもっと酷い事になっていそう」

「ドラコ......」


 イルゼ達はドラコの気遣いに感激しているが、どちらかというとドラコの本音は後半部分だろう。

 和食に近いドワーフ自治領の料理を食べながら、皆で午後の事を話し合っていた。

 うん、恐らく蕎麦だと思うけどとても上手いぞ。

 子ども達は、海老天などの天ぷらを頬張っていた。


「サトー、僕達はイルゼ達の武器ができたから親方の所に行くね」

「周りからの視線もあるし、それが良いだろう。俺達はお土産を買う予定だ。特に王妃様達へのお土産は、慎重に選ばないとならない」

「うんうん、分かるよ。あの人達に、中途半端なお土産は選べないよね」


 ドラコが俺の話にウンウンと頷くけど、他の人も同じく頷いていた。

 陛下はともかくとして、王妃様達にはお世話にもなっているのでお土産のチョイスをしくじらない様にしないと。


 という事で、昼食を終えて皆でお土産屋に向かってあれこれ悩んでいた。

 人に何かを贈るって、本当に難しい。


「米酒に芋焼酎は確定。浴衣や着物などの服も購入して、かんざしや扇子に団扇も買おう」

「緑茶セットにドワーフ料理のセットも買わないといけませんね」

「ここの手鏡は美しいので、それも買いましょう」

「おしろいもあったよね。お母さんは、お化粧するのも好きだもんな」


 エステルにリンやフローレンスとも悩んで、あれこれ商品を買っていく。

 買いすぎても良くないので、このくらいにしておこう。

 ただし、お酒は結構な数を揃えた。

 まだ未成年のビアンカ殿下と妊娠しているルイ様の奥様を除いたとしても、王族皆がお酒大好きだし。


「お、やっぱりここにいた」

「ドラコか、無事に武器はできていたか?」

「バッチリ。微調整も終わったし、合流しようとしたの。お土産買うなら、恐らくここかなって」


 流石は地元民のドラコだ。

 お土産を探している俺達の居場所を直ぐに探し当てるなんて。

 ドラコの後ろを見ると、イルゼ達がニコニコ顔でいた。

 親方特製の武器だから、良いものが手に入ってご満悦の様だ。


「サトー様、会計が全て終わりました」

「有難うフローレンス。ミケ達も買い終わったか?」

「バッチリだよ!」

「じゃあ、一旦屋敷に帰るか」


 皆の買い物が終わったので、一日ぶりに屋敷に戻る事に。

 流石に人数が多いので、スラタロウやホワイトにショコラと手分けして屋敷にワープした。


「あー、何だか久々の感じがする」

「たった一日ですけど、そんな感じですね」

「仕事で泊まりになるとは、また別の感覚ですわね」


 エステル達も、屋敷についてホッとしているようだ。

 因みに学園入園希望組は、早速明日朝来る人達の分のお土産を分け始めている。

 こういうのも旅の思い出だな。


「じゃあ、王城に行ってお土産渡してくる」

「行ってらっしゃい。今日は子どもの事をお風呂に入れてくるよ」

「昨日は寂しかった様だったからな。リンやフローレンスも、子ども達の事をよろしくな」

「はい、お任せ下さい」

「行ってらっしゃいませ」


 エステルだけだととっても不安なので、リンとフローレンスにも後を任せて王城に向かった。


「はあ、予約人数間違えるとは。あの子らしいというか」

「お土産は、とってもありがたいわ」

「個人的には、こういった髪飾りが良いですわね」


 王妃様達にお土産を渡しながら、今回の旅行の事を話した。

 お土産には喜んでくれたのだが、エステルの残念な行動には頭を抱えていた。


「しかも、酔っ払って迷惑をかけるとはね」

「粗相はしていないから今回は責めないにしても、女らしさのかけらもないな」

「酔っ払ってそのまま掛け布団を抱きまくらに。ミケちゃん達にも、完全に負けてますわね」

「まあ、そこで下手に落ち込まないのがエステルですから」

「本当に理解のある人が相手で良かったわ」

「サトーに出会えたのが、エステルの最大の幸運ですわ」

「リンやフローレンスとは、女子力で完全に負けていますから。もしサトーの所じゃない所に嫁ぐとなると、それはもう大変ですわ」

「ははは……」


 エステルは、今回の旅行で女性力を全く発揮できなかった。

 というか、俺も元々エステルに女子力は求めていない。

 王妃様達は俺の所にエステルが嫁いで良かったと、相当安堵の表情をしていた。

 流石に俺も、これにはから笑いしかできなかった。


「待てー!」

「「「待たないよ!」」」


 屋敷に戻ったら、またもやお風呂上がりで素っ裸で走り回るマシュー君達を下着姿で追いかけているエステルに遭遇した。

 うん、確かにこんな姿は他の所には見せられないな。

 いつものドタバタ劇を見ながら、俺は二階に上がっていった。

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