第三百三十四話 臨時のベビーシッター

「わかった、道中気にしておくよ」

「ポチも一緒なので、不審者は直ぐに拘束します」


 街に繰り出すエステル達に、不審者がいることを伝えておいた。

 ドラコ達もいるから、何かあっても直ぐに対処してくれるだろう。


「アイス屋は落ち着いたか?」

「もう平常に戻っていました」

「それは上々。ミケの店を襲うとは、とんだバカもいたもんじゃな」


 屋敷に戻ると、ビアンカ殿下と王太子様夫妻がいた。

 ウィリアム様が、早速シングルのアイスクリームを美味しそうに食べていた。

 そして、パタパタと飛んできたのはショコラ。

 主人が街で食べ歩きをしているのに色々な人をワープで連れてきてくれてお疲れ様です。

 陛下と閣僚は、変装をして護衛を付けて街に繰り出したらしい。


「サトーは会場に向かうのか?」

「いえ、暫くは屋敷にいます。実はちょっと子守を頼まれていまして」

「はは、それは仕方ないな」


 俺は両手に赤ちゃんを抱いている。

 一人はヘレーネ様の弟のノア君。

 もう一人は、カロリーナさんの弟のカーター君。

 何故だか、俺が抱いてあげたら離れないんだよな。

 しょうがないので、お姉さんが帰ってくるまで臨時のベビーシッターに早変わりだ。

 ビアンカ殿下は、ミケの店に行って売り子をやるらしい。

 普段できない経験だからなのか、エプロンを付けて張り切っていた。


「すみません、お邪魔してしまって」

「いえいえ、これはしょうがないですわ」

「もう、すっかりお父さんですね」

「でも、いまの格好だとお母さんかしら」


 王妃様達や王太子夫妻と一緒の部屋にいさせて貰うことに。

 ここなら、赤ちゃんの安全も確保できるだろう。

 腕の中の赤ちゃんを見つめながら、王妃様達は将来の訓練といっている。

 もうちょい先だけど、子どもの世話をしないとすることにはなるだろうな。

 

 二人を足の上に乗せる形で抱いていると、二人はあうあうとお喋りをするように喋っている。

 と、思ったら、床に降りてハイハイをし始めた。

 おお、二人が別々の方向に向かっていくから、中々大変だ。

 

「ハハハ、サトーでも子守は苦戦するか」

「二人同時なのだから、仕方ありませんわ」


 王太子夫妻からも少し笑われているが、新米ベビーシッターなので本当に大変ですよ。


「あうー」

「あうあう」


 ようやく二人を捕まえたと思ったら、今度はウィリアム様が食べているアイスクリームに興味を示した。


「ちょっとまっていてね」


 俺はアイテムボックスに入れておいたアイスクリームを取り出して、スプーンで少しずつ食べさせてあげた。

 添加物が一切入っていない安全なアイスクリームだから、赤ちゃんに食べさせても大丈夫。

 二人とも美味しそうに食べてくれた。

 少し水分を飲ませてあげたら、今度は少し臭うような。

 二人のお尻を嗅ぐと、同時にうんちをしたようだ。


「あ、同時にうんちしている!」


 アイテムボックスからタオルを出して、おむつとおしり拭きも準備する。

 順番におむつを交換してあげると、二人ともとってもスッキリとした表情になった。


「すみません、こんな所でおむつを替えて」

「いやいや、赤ん坊のすることだから仕方ない」

「それにしても、手際がいいですわね」

「うちでカーター君を預かった時に、何回か替えたことがありますので」


 おむつ替えは大変だよな。

 王太子夫妻も大変だと苦笑していた。


 おむつを替えたら今度は眠くなったのか、ウトウトし始めた。

 抱っこをしていると、何故かぐずることもなくストンと寝てしまった。


「サトーは寝かしつけも上手いわね」

「エステルはグズって大変でしたよ」

「これなら、将来の育児も全く心配ないわ」


 王妃様達が褒めてくれるけど、臨時のベビーシッターなのでもう疲れた。

 世の中のお母さん達は、本当に凄いな。

 ウィリアム様が、恐る恐る寝ている二人のほっぺをツンツンしているのが面白い。


「そういえば、ルイの所に赤ちゃんが出来たみたいなの」

「そうなんですか、それはおめでたいですね」

「やはり男の子がいいなっておもいますわ」

「私は元気に育ってくれるなら、男の子でも女の子でもどちらでも問題ありませんわ」


 ここで思い出した様に王妃様達が、ルイ様の事を話しだした。

 トップシークレットの様な気もするが、ここは素直にお祝いしておこう。


 ドン!


「帰ったぞ! お土産もあるぞ」

「「うわーん」」

「おお、よしよし。泣かないでね」

「あれ? もしかして起こしちゃった?」


 突然ドアがあき、陛下が入ってきた。

 両手に出店で売られていた物をもって、楽しんできたという顔だ。

 しかしそれどころではない。

 ドアの音に驚いて、二人が泣いてしまったのだから。


 懸命にあやす俺の事を尻目に、王妃様達の説教タイムが始まった。


「あなた、正座!」

「ウィリアムが寝ていた可能性もありますよ」

「あんなに大きな音を出して入ってきて、恥ずかしいですわ」

「えっと、スマン」


 部屋の隅で説教タイムとなっているのを尻目に、俺は大泣きをしている二人をひたすらなだめていた。

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