第三百十七話 策に溺れた人神教国

 念の為に、左塔にも行ってみようということに。

 ほぼ執務スペースらしいので、今まで王国や帝国に加えて公国にしてきた悪事の数々が分かるはず。


「「とー!」」

「ぎゃー」

 

 それにしても、うじゃうじゃと人が出てくる。

 さっき三十人以上拘束したのに、また二十人は現れた。

 早速といわんばかりに、ララとリリに加えてドラコ達が拘束していく。

 

「お母さん、こんなに一杯出てきたの?」

「本当にゴキブリか! ってくらい出てきたのよ」


 ドラコと母親の会話が物語っているが、左塔に向かう通路にもうじゃうじゃと刃物を持った人が出てくる。

 皆が人神教バンザイみたいな事を言っているので、ある意味本当に怖い。

 これが宗教が持つ闇の部分かと言うのを、まざまざと見せられた。


「ここは通さないぞ!」

「人神教に栄光あれ!」

「うわあ、また出てきたよ」


 左塔に入った途端に、再び現れた刃物をもった人々。

 ドラコもうんざりするくらい弱いのに、それでも諦めずに向かってくる。

 気が抜けないのが、本当にキツイ。


「ようやく全員拘束したか」

「本当にしつこいのう」


 左塔に入って格闘する事、十分。

 ようやく、全ての刃物を持った人を取り押さえた。

 探索にも他に引っかからないので、もう大丈夫だろう。


「うわあ、何だこれ?」

「適当な指示書じゃのう」


 執務スペースにあった書類は、とてもじゃないがまともな物じゃなかった。

 お金の流れが適当だし、お金が足りなければ奪いに行けばいいという盗賊団の様な内容だった。

 もしかしたら、今は懐かしのビルゴがいた時の方がまともだったのかもしれない。

 人材が次々といなくなり、適当な命令しかできない人物しか残らなかったのだろう。

 現に、拘束した人物もずっと人神教のためにとブツブツ言っていて、はっきりいってまともじゃない。

 下がこんな感じなら、上にいる人物はもっとおかしい事になっていそうだ。

 できるだけの書類を押収して、いよいよ本命の中央塔に乗り込む。


「何だかおかしい人が多いから、もう一回浄化と生活魔法で綺麗にします」

「そうじゃのう。どうみても奴らはおかしい。何か背後にあるとしか思えぬ」


 中央塔を、もうこれでもかという位に浄化していく。

 そして、再びもうこれでもかという位に生活魔法で綺麗にする。

 これで、きっと大丈夫。

 

「よし、いよいよ中央塔を上がっていくぞ」

「「「おー!」」」


 ミケ達の掛け声と共に中央塔を上っていく。


「いやー! ゾンビがいるよ!」

「お兄ちゃん、どうにかして!」

「流石に怖いよ!」


 ミケとララとリリが、俺にひしっと捕まって怯えている。

 中央塔の二階に上がると、明らかにおかしい人が沢山いた。

 よだれは垂らしているし、目の挙動はおかしいし。

 それでいて、人神教の為にと刃物を持って襲ってくる。

 急いでタラちゃん達に拘束してもらったが、それでも何かブツブツ言っている。


「サトー、流石に私も怖いんだけど」

「ちょっと不気味ですね」


 エステルとリンも、目の前の人物をかなり怖がっている。

 拘束した人に近づいて体を調べてみると、既に脳や神経が侵されていて助けようもない状態だ。

 それに、何かニオイもする。

 白龍王様が俺の側にきて、目の前の人物が発する匂いを嗅いだ。


「これは恐らく薬物依存だろう。この匂いはアヘンだな」

「何となくそんな気がしていました。下にいた連中も、明らかに様子がおかしかったですし」


 何か薬物を接種しないと、この寺院に入ってからの異常さは解明できない。


「サトー、さっきの押収資料を」

「俺も、何か書いてあるかと思います」


 ビアンカ殿下と共に、先程押収した資料を調べる。

 直ぐに原因が分かった。


「どうも新たな収入源として、アヘンを生成して各地で売りさばく計画を立てていたようですね」

「それが自ら手を出して、自らを滅ぼしているわけか」

「完全に自業自得ですね。大麻も計画しているみたいですよ」

「どこかにケシの畑があるはずじゃ。この件が終わったら、全てを燃やし尽そう」


 ビアンカ殿下と意見が一致した。

 ケシの畑は、発見次第燃やさないといけない。

 大麻草もある可能性がある。

 これは、後始末もかなり大変だな。


 そして三階に上がると、またしても異様な光景が広がっていた。


「くさいよう」

「うーん、鼻がおかしくなる」

「嫌な匂いだよ」


 今度は匂いがキツイ事になっている。

 思わずミケ達は口あてをして、匂いを軽減している。

 そう、三階はベットに横たわりながらアヘンをぷかぷかと吸っている人が沢山いた。

 もう、まともじゃないのはひと目見てわかる。

 清潔感が全く無く、ただアヘンを吸っているだけだった。

 

「もう、こやつらは駄目だ」

「ここまでいくとなると、助けられないぞ」

「禁断症状が酷いから、アヘンを吸い続けないとならない」

「もう、人間として終わりね」


 白龍王夫妻とドラコとシラユキの祖父母は、ベットに横たわっている人物を見て首を振っていた。

 ここの人達は、二階の人と比べても更に悪いのだろう。

 ここの人はそのままにしつつ、四階に上がっていった。


「ハハハ。やあ、お主らを待っていたぞ」


 どうやら、四階が最上階の様だ。

 四階にもベットが並べられていて、豪華な服を着ていながらアヘンを吸っている人がいる。

 その中には、子どもと思われる人物もいるぞ。

 可哀想だが、もう助ける事はできないだろう。

 そして、一番奥にいるのが偉そうな服を着た人物だった。

 その人物が、こちらに話しかけてきた。

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