第二百三十一話 親も子も馬鹿揃い
「お兄ちゃん、おまたせ!」
「ミケ達も来たか。良く似合っているぞ」
「えへへ!」
パーティー会場に、うちから招待されたメンバーが姿を現した。
うちからは、爵位持ちとララとリリに、学園関係者でチナさんが参加。
アメリアとかは、うちに残ってオーウェン皇子とベラ皇女の護衛も兼ねている。
馬もうちにいるから、全く心配ないだろう。
マリリさんは、ソフィー皇女と一緒に直前になってからくる予定。
ホワイトが一緒にいて、何かあった時に対応できるようにする。
「サトー、おまたせ!」
「皆もドレスに着替えてきたのか。良く似合っているぞ」
「えへへ!」
エステルとリンもドレスに着替えてきて、こちらにやってきた。
主役より豪華にならないように控えめのドレスだけど、よく似合っている。
褒めてやると、エステルが腕に抱きついてきた。
「あれ? 王族がここにいていいの?」
「今日の主役はビアンカちゃんだし、お父さんとお母さん達がいれば大丈夫!」
「それならいいのだけど」
よく見れば、王太子様とかも普通にいるので大丈夫らしい。
警備にはオリガとガルフもいるし、ドラコ達も控えている。シルはうちにいるけど、ここにはリーフもいる。
ちなみにリーフは、軍の関係者扱いだという。
余程の事が起きない限り、このメンバーがいるから大丈夫だろう。
続々と参加者が入ってきたが、知り合いもいるので軽く挨拶をしておく。
閣僚とかは別件であっているので、先ずはバルカス様とテリー様。
「お久しぶりです。先日の火山噴火の際には、色々とお世話になりました」
「いえいえ、無事に収まって何よりです。ニーズ子爵領も順調のようですし、ひとまず安心といった所てしょうか」
「物資も滞りなく運べているし、バスク領としてもダメージが最小限で済んだよ」
「テリー様にも、色々救援物資を輸送頂き有難うございます」
火山の時は、バルカス様の援軍がかなり大きかった。
本当にバルカス様は、ナイスガイだよな。
「サトー様、少しお久しぶりです」
「ルキアさんもお変わりなくお元気そうで」
「ええ。結婚式も近いですし、収穫もありますけど、体調には気をつけております。バルカス様もバスク様も、お元気そうで何よりです」
横から話しかけてきたのはルキアさん。
一ヶ月後に迫った結婚式に向けて、何かと忙しいという。
しかし、主賓に気を使って控えめなドレスのはずなのに、ルキアさんはスタイル抜群だからかなり目立っている。
周りの貴族からもチラチラではなく、ジーッと見られている。
貴方達、気持ちは分かるが見すぎですよ。
「ルキアさん、ソフィー皇女の件で後ほどお話があります」
「何となく情報は頂いていますが、サトー様の情報は有り難いです」
事前に色々話をしておかないといけないので、後で直接話をしよう。
段々と人が集まってきたが、中にはド派手な真っ赤なドレスを着てきたオバサンがいた。
どう考えても貴族主義の連中だろうけど、香水もプンプンしていて気持ち悪い。
「全く、マナーというのを知らんのかな」
「うお、ビックリした」
突然後ろからボソッと話しかけてきたのは、着替え前の陛下だった。
いきなり話し掛けられるのは、心臓に悪いです。
「サトー、ちょっとこっちに」
と、陛下に連れてこられたのは、ビアンカ殿下とかが座る少し高い場所。
周りの様子がよく見える。
おや? ある貴族の動きが怪しいな。
貴族主義の固まりにいるからその一派だと思うけど、やけにあたりをキョロキョロ見回してブツブツいっている。
「怪しいですね」
「どう考えても怪しい」
「タラちゃんにお願いして、何を言っているか聞いてもらいましょう」
陛下とともに袖口に引っ込んで、その間にタラちゃんに盗み聞きをして貰った。
「分かったよ。ブルドッグがいない、何かあったかと言っているよ」
タラちゃんは直ぐに戻ってきた。
あの貴族は、さっき捕まったブルドッグ伯爵の関係者だな。
「このままでは計画が失敗すると、ブツブツ言っているよ」
成程、奴が裏で糸を引いていたのか。
「陛下、あの貴族にも退場してもらいますか?」
「そうだな。控室に呼ぶフリして拘束させよう」
という事で、不審な貴族を侍従さんに控室に呼んでもらった。
「誰だ、この忙しい時に儂を呼ぶなんて」
「儂だ」
「え、陛下。なぐふもふも」
パーティー会場の控室に呼び出された貴族は、陛下がいると知らずに驚いた所をあっという間にタラちゃんに拘束された。
王妃様達も控室に入ってきた。
「あなた、捕まえたかしら?」
「ああ、実習パーティーで騒いでいたやつの親だな」
どこかで見たことがあると思ったら、レイアにジュースをぶっかけて吹き飛ばされた奴の親か。
そういえば、うちに罪の軽減を願い出たな。
「馬鹿はこの場で尋問しましょう」
「ビアンカちゃんの誕生パーティーを、ぶち壊しにしようなんてね」
「タラちゃんは残っていてね。あなたとサトーは、外に出ていてね」
「はーい、私も頑張るよ!」
俺と陛下は、有無を言わさずに控室の外に出された。
そして控室の中から、ムチの音と悲鳴の様な何かが聞こえた。
思わず俺と陛下は、顔を見合わせて身震いした。
怖くて控室の中には入れないよ。
かちゃ。
ドアが開くと、血相を変えた王妃様達が出てきた。
あ、ちらりと見えた貴族は真っ白に燃え尽きている。
「大変! 先日実習パーティーでやらかしたのが、ボーイになりすまして入っているっていうの」
「誘拐が失敗した時の保険に、魔獣化の薬を飲ませるって」
「パーティーでの恨みもあるって話よ」
逆恨みも兼ねてかよ。
そこまで貴族主義の連中は落ちぶれたのか。
急いでパーティー会場に駆けつけようとすると、突然太ったボーイが中からふっ飛ばされてきた。
廊下を転がるボーイは、あの実習終了パーティーで騒ぎを起こした奴だった。
お腹のあたりに掌の跡があるから、誰かにふっ飛ばされた様だ。
完全にノックアウトされているのか、白目をむいて口から泡を吹いていた。
「変装しても、レイアの目はごまかせない」
パーティー会場から、怒り心頭のレイアが出てきた。
どうやら、こいつはまたレイアにふっ飛ばされた様だ。
「レイア、こいつの事が良くわかったな」
「レイアに殺気を出していた。ナイフも持っていたし」
と、レイアはぽいっとナイフを投げ捨てた。
よく見ると、今日の食事用のステーキナイフだ。
レイアの姿を見て逆上し、薬を使うことも頭から抜けて襲いかかった訳か。
現行犯なので、そのまま警備していた兵に連れられていく。
父親もついでに連れて行くように、兵に頼んだ。
「グッジョブよ、レイアちゃん!」
王妃様もレイアの頭を撫でていた。
慌てた分、ホッとしたのもあるのだろう。
「陛下。親が馬鹿だと、子もどうしようもない馬鹿ですね」
「儂も気をつけなければ」
陛下、あなたにはとっても心強い奥様がおります。
エステルは微妙だけど、しっかりと子ども達の教育は行われていますよ。
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