第二百十六話 実習終了パーティー
「よし、これで終わりだ。二ヶ月ご苦労さま」
「「「「ありがとうございます」」」」
宰相の声で今日の業務は終わり。
つまり、二ヶ月に渡った現場実習も終わった事になる。
この後、実習生は学園に集まり実習終了のパーティーがあるらしい。
遠方で実習している学園生も、今日の夜に間に合う様に戻ってくる。
このパーティーには実習受け入れ元も参加するので、俺も参加する。
「「「お帰りなさい」」」
侍従に迎えられてお屋敷に到着。
学園生は、お風呂に入って制服に着替える。
俺も風呂に入って着替えないと。
そして、制服に着替えた学園生に玄関ホールに集まってもらった。
「俺から、皆に渡したい物がある」
「「「「「おお!」」」」」
皆に手渡したのは、それぞれ持っている武器に合わせてドラコとホワイトのウロコを混ぜたドワーフの親方が作った剣。
それにタラちゃん達のスパイダーシルクで作ったドレスにモーニング。
バスク子爵領のエーファ様とサーシャさんの制作で、謁見や夜会でも着用可能。
「あ、名前と聖女部隊の紋章がある」
「私のにも」
「剣には、それぞれの名前と紋章があるよ」
「有難うございます」
「これは嬉しいです」
親方が作った剣にはそれぞれの名前が刀身に彫られていて、柄頭には聖女部隊の紋章がつけられている。
この聖女部隊の紋章というのは、剣に天使と悪魔の羽が描かれている。
言うまでもなく、ララとリリの羽の事だ。
これは実習生の侍従志望の子が考えたもので、正式にうちの部隊の紋章として採用された。
部隊の騎士服にも描かれていて、紋章登録もしているので偽造したら罰則の対象となる。
ちなみにこの侍従志望の子はデザインが得意でレイアがすぐに目を付け、魔道具や建築のデザインを頼んでいるという。
プレゼントを渡し終えたので、学園に向かう準備をする。
今日は全員うちに泊まるので、何もなければパーティーが終わったらうちに帰ってくる予定だ。
俺達は、俺とミケとレイアに、エステルとリンとフローレンスの六年生。
それに、教師としてチナさんも参加する。
軍属担当のシルとリーフは、リーフだけ参加するらしい。
何故かスラタロウも貸し出してくれと要請があったけど、絶対に料理の事だな。
馬車二台に分乗して、学園に向かっていく。
学園の体育館がパーティー会場になるので、皆と共に入っていく。
すると、体育館の中からわーっと歓声があがった。
「あれが聖女部隊を統括するサトー様?」
「エステル様やリン様にフローレンス様も一緒だから、間違いないでしょう」
「あの小さい猫耳の少女が、勇者ミケ様かな?」
「決闘を申し込んだブルドッグ伯爵の嫡男を、あっという間に倒したんだって」
「その横にいるエルフが、レイア執務官だね」
「ちっちゃくてかわいい!」
「チナ先生も、やっぱり聖女部隊なんだね」
「紋章を付けた服をきているし、何よりも勇者様と知の令嬢を両手にしているわ」
ここまでは何となく想像できた。
「おい、リーフ教官がいるぞ」
「えっ、本当だ。あの妖精は間違いない」
「リーフ教官に歯向かって、しごきを受けた兵が何人いることか」
「今では有名な鬼教官だよな」
おい、リーフよ。普段、軍の訓練で何をしているのか。
軍属希望と思われる屈曲な男子学園生が、小さな妖精のリーフを指さして怯えているぞ。
「今年は予期せぬ出来事もあり、中々大変な実習だっただろう。しかし、きっとこの経験は君達の糧になる」
何はさておき、会場に殆どの参加者が揃ったので、学園長と思わしきおじいちゃんの挨拶が始まった。
しかし話が長いな。前世の学校の校長の話も長かったけど、この世界の偉い人の話も長い。
「それでは実習が無事に終了したことを祝い乾杯とする」
「「「乾杯!」」」
学園長が話すこと十分。待ちくたびれたのもありつつ、ようやく乾杯されてパーティーがスタートした。
「やはり、サトーの所は賑わっているな」
「実習生が多いのもありますが」
「これだけ多くの実習生を受け入れた記録はないぞ。きっと最多人数更新だな」
閣僚が俺の所に集まってきて、お互いの実習受け入れの苦労を話していた。
やはり受け入れが一人でも、かなり気は使うという。
特に女の子を受け入れる所は、かなり気を使ったらしい。
軍務卿の所がそうだったらしいが、ミミがいてだいぶ助かったという。
「うちは女ばかりでな、逆に男の子が気を使ってましたよ」
「うちの所は毎年男女でくるので、その点は大丈夫でした」
バルガス様は男の子で逆に気を使ったという。
サザンレイク侯爵は湖畔のコテージでの侍従研修があるので、毎年実習先として人気らしい。
うちは受け入れ人数が多かったのが、逆に幸いだったな。
ちなみに大人にはアルコールが提供されている。
勿論学園生はジュースです。
エステルとリンとフローレンスは、三人に憧れる学園生に男女関係なく囲まれていた。
チナさんとリーフは、教員と何か話をしている。
「ミケちゃん、お肉食べる?」
「食べる!」
「うまうま」
「レイアちゃんかわいい!」
ミケとレイアは、可愛いもの好きの女子学園生に囲まれていた。
元気なミケと小動物的な感じのレイアは、共に女子学園生の人気者になっていた。
勿論実習生達も、久々のクラスメイトとの再会を喜んでいる。
実習先でどんなことがあったか、男女関係なく色々話をしている。
こうしてみると皆仲良く話をしているように見えるが、実は改革派と中立派が一緒で、貴族主義が別になって集まっている。
カロリーナは俺の保護下になったからこちらだし、元々学園では改革派と中立派はあまり意識していない。
しかし貴族主義の連中は相変わらずというか、我が道を行っている。
こちらをチラチラと見ながら、仲間内で色々話をしている。
一昔前までは国内の一大勢力だったのに、相次ぐ不祥事によりかなり勢力を落としている。
それでもやはり貴族主義の連中というか、パーティーの最終盤でやらかしてくれた。
「おい、何が聖女部隊だ。俺が新しい紋章を考えてやったぞ」
俺が宰相と話をしていたら、今回実習生だと思われる学園生が、下手くそな絵をミケとレイアの所に持ってきた。
というか、この学園生は明らかに酔っ払っていないか?
この学園生の親をちらりとみたら、泥酔しているのか真っ赤な顔でゲラゲラ笑っていた。
ミケはというと、酔っ払い学園生に全く気がついていない。
というのも、ミケの真後ろで酔っ払い学園生が喋っていて、ミケは目の前の別の学園生と話をしていたからだ。
レイアは何となく気がついたのか、ちらりと酔っ払い学園生の方を見た。
酔っ払いはこれを無視されたと思ったのか、手にジュースのグラスを持つと何故かレイアに中身を頭からかけてきた。
「俺様が話をしているのだから話を聞け! そもそも、なんでガキがここにいるんだ!」
酔っ払いが話しかけた時に俺もミケとレイアの所に向かったけど、まさかジュースをかけるとは思わず間に合わなかった。
会場は完全にシーンとなった。
酔っ払い学園生の親は息子がそこまでやるとは思わず、今更ながら酔っ払って真っ赤な顔が真っ青になっている。
レイアは、頭からジュースをポタポタ垂らしながら真顔で振り向いた。
あ、これは完全に怒っているぞ。
レイアは本当に怒ると無表情になる。
「反撃していい?」
「ああ、俺は軍属希望だ。ガキのパンチなんて効かないぞ」
酔っ払い学園生に警告したレイアだったが、それでも酔っ払い学園生はレイアを指さしてヘラヘラ笑っていた。
シャドーボクシングのマネをして、レイアを挑発までしている。
「そう、じゃあ」
「グボア!」
レイアはあっという間に酔っ払い学園生の足元に移動し、鳩尾に掌底を叩き込むと、酔っ払い学園生はそのまま体育館後方の出口の方まで吹っ飛んでいった。
慌てた両親は酔っ払い学園生を拾うと、そのまま退場していった。
俺は直ぐに、レイアを生活魔法で綺麗にしてやった。
そしてうちに来た実習生が近づくと、レイアは実習生にギュッと抱きついた。
「レイアちゃん。ジュースかけられて大丈夫?」
「ジュースかれられたのは大丈夫。お姉ちゃんが考えた紋章を馬鹿にされたから怒っただけ」
「レイアちゃん。ありがとう」
実習生もレイアの事をギュッと抱き返していた。
周りからは、二人に向かって歓声が沸き起こっていた。
「いやあ、久々にスッキリしたねー。あいつは運動神経ゼロで、魔力制御ゼロに指揮官能力ゼロのダメダメだよー。更にやる気ゼロで、軍配属不可の烙印を押されたんだよー」
リーフが裏話を少し話してくれた。
全く才能がないのに軍属希望を出し、本人のやる気もないので全く訓練についてこない。
訓練官の意見も無視し、遂には実習をボイコットしたという。
じゃあ何で実習終了パーティーに参加していたのか、それはこちらに来た人物が教えてくれた。
「ライズ伯爵にサザンカ男爵、この度の事は誠に申し訳ない」
謝罪してくれたのは学園長だった。
ここではということなので、ステージ脇の控室で話をすることになった。
俺とレイアの他に、宰相と軍務卿もついてきた。
チナさんとリーフも一緒だ。
「彼の実習の評価が余りにも悪いので、リーフ教官をお呼びして話をしていたのです」
「リーフからの話は私も聞いていましたし、そもそも彼の成績で軍属希望は出せないはずなのです」
学園長とチナさんの話を聞くと、そもそも酔っ払い学園生の成績では軍属希望を出せる程ではなく、この実習成績もありえると。
「実習が始まった時に解雇された教師って覚えているー? どうもそいつが怪しいんだよねー」
「軍への実習推薦書も、解雇された教員の名前で出されていた。優秀な成績と合わせてな」
あ、何となく読めた。
解雇された教員が、成績を偽造していたんだ。
多分賄賂を貰っていたのだろう。
実習が終わってから何食わぬ顔で、実習完了にする予定だったんだろう。
「しかし当の教員は解雇され、成績ボロボロの実習評価が残った。そして教員が解雇されたのを知らないあの連中が、実習終了パーティーに来たわけか」
「ライズ伯爵の言うとおりになります。実習中は学園に来ませんので、教員が解雇された事を知らなかったかと」
はあ、馬鹿な親に子どもだな。
そうでなくても、レイアにしたことが大問題になるだろうし。
「他にも成績を改ざんしていた痕跡があり、チナ先生を中心にして見直しをかけている。まだ教師になってニ年目というのが救いです」
「とはいえ、それによって不利益を被った学園生もいますよね?」
「はい。特に卒業生は就職先に響きます」
「王城でも対象者をピックアップしているが、幸いにも殆ど影響はなさそうだ。成績をアップしたものは、他の教科が駄目で結局実家に戻っている」
学園生に不利益が出ないのが一番だから、就職に影響なくてよかった。
チナさんには申し訳ないけど、頑張ってもらうしかない。
「今回のパーティーの事もあるので、対象学園生は停学とします。意図的に成績の偽造を依頼したのもありますので、最終的に除籍になるかと思われます」
親子ぐるみでの事だから、誰も擁護できない。
義務教育でもないし学校いかなくても貴族としてやれるけど、メンツを気にする貴族主義の連中にはダメージが大きい。
「サザンカ男爵、これでいかがでしょうか?」
「後は学園に任せる。レイアの事はこれで終わり」
レイアは学園に処分を一任した。直接やり返したし、もう気が晴れたのもあるのかもしれない。
とりあえず話は終了となった。
「エステル、貴族主義の連中がごっそりいないけど」
「サトーが学園長と話している間に、そそくさと帰ったよ」
もう終了になるのでパーティー会場に戻ると、貴族主義が陣取っていたスペースが空になっていた。
仲間の不祥事をみて、うちに何か言われる前に帰った様だ。
レイアが元いた場所に戻ると、学園生にもみくちゃにされていた。
心配と尊敬と色々な事を言われていた。
そして学園生にもみくちゃにされているのがもう一人。
聖女部隊の紋章をデザインした学園生だ。
さっきのレイアとの一連のやり取りで紋章をデザインしたのがバレたので、こちらも周りからは尊敬の念で見られていた。
色々あったけど、とりあえず終わってホッとしている。
レイアが笑っているから、良いとしよう。
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