第二百十五話 チナ先生とバハムート
「「「「行ってきまーす!」」」」
休日二日目、実習生達は予告通りに薬草取りに出かけていった。
誰が付き添いで行くかで揉めたけど、人数増えると配分が悪くなるからとスラタロウとホワイトにタラちゃんとポチが付き添いに。
万能スライムのスラタロウと面倒見が良いホワイトがいれば、保護者として問題ないだろう。
「ぶー、私が一緒に行きたかったのに」
エステル、不貞腐れているけどスラタロウとホワイトの方がエステルより保護者として確実に上だぞ。
さて、俺は食堂で実習受け入れ元としての書類を記入する。
一人増えて十六人になったけど、元の人数が多いから大変なことに越したことはない。
この書類を書くと、実習も最終盤だと実感するな。
「パパ、書き終わった?」
「レイアも何か書いていたか」
「うん」
書類を書き終えて封筒に入れていると、いつの間にかレイアも書類を書いていたらしく、書き終わったのを封筒に入れていた。
「レイアは何をしていたんだ?」
「新作魔道具の案。実習生に考えて貰ったの」
「いつの間に、ちゃんとお礼を言ったか?」
「勿論。ふふ、いいアイデアもあった」
レイアは近くにいたマルクに封筒を渡して、魔道具ギルドに届けてもらうようにしていた。
俺は散歩を兼ねて学園に持っていくかな。
「俺は学園に書類届けに行くけど、レイアはどうする?」
「部屋にいる。ララとリリとお昼寝」
「寝すぎるなよ」
「はーい」
トテトテと食堂を出ていくレイア。
この辺は天才と言われつつも、まだまだ子どもだな。
さて、俺も出かけるか。
「はい、確かに受け取りました。わざわざお持ち頂きありがとう」
徒歩圏内なので、ゆっくり歩いてもそんなに時間はかからない。
守衛に取り次いで貰って事務室へ。
事務の人に書類を渡すと、問題なかったのでそのまま受け取ってくれた。
ちょうど休み時間なのか、周りにいる学生の数も多い。
来年はうちからもここに通うのか。
「サトーさん?」
後ろから声をかけられたと思ったら、本を持っている騎士服姿のチナさんがいた。
「珍しいですね、学園に来るなんて」
「実習生関連の書類を持ってきたんですよ」
「そういえば、今週提出でしたね。お疲れさまです」
チナさんの周りには、恐らく一年生と思われる男女数人がいた。
皆、俺とチナさんを交互に見比べている。
「先生、この人誰?」
「先生の彼氏?」
うん、定番の質問だな。
「違いますよ。先生がお世話になっている伯爵様ですよ」
「ということは、あの聖女部隊の?」
「そうですよ」
「「「凄い!」」」
何だ何だ?
今度は、学生がキラキラした目で俺の事を見てきたぞ。
そんなに聖女部隊って有名なんだな。
「サトーさんは当たり前だから気が付かないかも知れないけど、ミケちゃん達の巡回部隊は子ども達にも大人気なんですよ」
「そうなんですか?」
「ねえねえ、先生のうちに行ったら、勇者ミケに会える?」
「うーん、仕事じゃなければうちにいると思うよ」
「じゃあじゃあ、知の令嬢には?」
「いつも俺と一緒に王城で働いているからな。結構忙しいぞ」
「じゃあ、聖女サトーは?」
「せ、聖女サトーは暫くお休みかな」
「えー、なんで?」
子ども達が矢継ぎ早に質問してくる。
特に女の子は、聖女に会いたくて仕方ないらしい。
いつ会えるか、何回も聞いてきた。
そして、俺が困っているのを苦笑しながら見ているチナ先生。
笑わないで、助けてくださいよ。
キーンコーンカーンコーン。
「ほら、チャイムがなりましたよ。教室に戻らないと」
「「「「はーい」」」」
子ども達は、元気よく教室に戻っていった。
でも、廊下は走らないように。
「ふふ、大人気でしたね」
「ミケたちで慣れているつもりでしたが、中々エネルギッシュでした」
「私も次の授業の準備があるので、これで失礼しますね」
「ええ、頑張ってください。チナ先生」
チナさんと別れて、俺も帰宅する。
無事に先生ができていて良かった。
「聖女部隊に二つ名のある方は、学園ではヒーローですよ」
薬草取りから帰ってきた実習生に、日中あったことを聞いてみた。
因みにカロリーナさんは初めての薬草取りでとんでもない成果が出たらしく、目が点になって帰ってきた。
そりゃ、入金額みたらビックリするよね。
「学園の有名な先輩がいるのも大きいですし、実際に一緒に活動すると凄いと思いますよ」
「あんなにも簡単に犯罪者を捕まえるなんて、普通ではないですから」
「サトーさんも、被災者の移送に使った魔法も普通ではないですから。流石は聖女様と思います」
「エリアヒールなんて、上級魔法を軽々と使いますし。あの女装姿であの魔法を使えば、聖女様と言われるのも納得です」
口々に実習生が凄いと言うけど、実感はない。
俺としては実習で活躍したこの子達も、学園に戻ったらヒーローな気がする。
それよりも、気になるのが庭にいる。
今回の薬草取りで、新たに従魔が加わった。
カロリーナさんの手元には、緑色のハミングバードがいる。
名前もミントとつけて、カーター君にも懐いていた。
これはまだいい。
「「「わーい!」」」
マシュー君達が背中に乗って遊んでいるのは、どう見ても子どもの龍。
子どもと言っても、大きさは二メートルはある。
龍にしては、とてもおとなしいような気がする。
と言うことで、事情を知っているタラちゃんに詳しく聞いてみる。
「独り立ちしたばかりの、飛龍の子どもだね。森の中で餌が取れなくて弱っていた所に、スラタロウがご飯あげたの」
空きっ腹にスラタロウのご飯なんて、人間だろうが魔物だろうが麻薬に等しいだろう。
「従魔登録も完了しているよ。登録上は、私とスラタロウとホワイトの従魔だけど」
従魔の従魔ってなんだと思いつつ、親子とかの場合で登録する事もあるという。
しかし、フォレストラットの従魔が飛龍って凄いな。
「名前は決まったの?」
「ミケちゃんがニクで、リンがトカゲってつけようとした」
「おい、ニクにトカゲってなんだよ!」
「最終的には、ホワイトのバハムートで決まったよ」
「流石はホワイト。無難な名前だ」
ホワイトの付けた名前で良かった。
流石、ミケとリンのネーミングセンスだ。
まだ飛行能力も弱いみたいなので、暫く特訓が必要だ。
戦闘能力もホワイトより弱いというが、ホワイトはかなり強いと思うぞ。
バハムートは、馬小屋の空きスペースに住むことに。
既に馬が色々教えているから、ここでの生活は大丈夫だと思いたい。
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