第百九十七話 ゴレス領の引き継ぎ

「すみません、昨日は気が動転してしまって」

「大丈夫ですよ。悲しいことによくある事なんで」


 翌朝、シラユキさんの治療を兼ねて話をしていると、やはり俺の女装姿の話になった。

 もうね、色々な人に驚かれるのには慣れたよ。

 

「ミケちゃんが勇者なのは知っていたのですが、サトーさんの女装姿があんなにも綺麗なのはびっくりしました」

「あはは、男としては反応に困りますね……」


 女装姿が綺麗って、もう何回目の反応になるかな。

 男としては、もう少し男らしい反応を期待している。

 でも、最近は全く男らしい仕事をやってないなあ。


 今日はゴレス領の新しい代官を送り届ける。

 ノースランド公爵の四男とサザンレイク侯爵の三男が代官なのだが、父親に似てとてもハンサム。

 しかも美人の奥さんに可愛い子どももいて、絵に描いたような幸せ家族像だ。


「ビアンカ殿下、捜査に時間がかかってしまい申し訳ありません」

「こればかりは仕方ない。事前に開発計画は纏めてあるが、お主等の裁量に任せる」

「「は!」」


 ビアンカ殿下が簡単に話をしたので、皆を連れてゴレス領へワープ。


「開発が進んでますね」

「作物も、もうそろそろ収穫できる物もありますね」

「子ども達が笑顔で走っていますわね」

「人種も関係なく、仲良さそうですわ」


 代官や家族から見ても、ゴレス領の第一印象は良いみたいだ。

 俺達がここに来た当初に比べると、雲泥の差で環境が変わったな。


「文官とメイドは揃っています」

「きちんと面接をした者じゃ。安心せい」

「ありがとうございます」


 直ぐにでも働けるように、色々手配は済ませてある。

 部屋も整えてあるから、奥さんや子ども達も安心して過ごせる。


「こちらが執務室です」

「「「「え?」」」」


 執務室では、スラタロウが仕事をしていた。

 触手を器用に使い、次々に書類を処理していく。

 しかも達筆なんだよな。


「事前に話を聞いていたとはいえ、本当にスライムが執務を行なっている」

「しかも書類も完璧だ。全く問題がない」


 皆さん、スラタロウの仕事ぶりに驚いている。

 我が家が誇る万能スライムだからな。

 しかも直ぐに仕事が引き継がれるように、引継ぎ書まで作ってある。

 お昼が近いので、食堂に移動する。


「歓迎の食事を用意しておる」

「まさか、これもあのスライムが作ったとか?」

「もちろんじゃ」


 テーブルの上に並んでいるのは、スラタロウが作った豪華な料理の数々。

 実は間引きした野菜とかも使っているので、サラダの一部はゴレス領の物だ。


「では、新しい代官を歓迎して乾杯」

「「「「乾杯」」」」


 ビアンカ殿下の乾杯の音頭で、昼食は開始した。

 お昼だからお酒は抜きです。


「「おいしー!」」


 早速子ども達から笑みがこぼれる。

 スラタロウの料理は、とにかく美味しいからな。


「美味しい!」

「過度に手を加えなくても、こんなにも美味しいのね」


 奥様方はスラタロウの料理方法に驚いていた。

 野菜スープも過度に調味料を入れないので、野菜の旨さが出ている。


「この野菜は美味しいな」

「これなら、王都でも売れるぞ」


 代官は、既に野菜の販路について話をしていた。

 俺も、この野菜なら色々な所で売れる自信がある。


「では、後は頼む。スラタロウは午後も残るというから、仕事の事は何でも聞くが良い」

「「はい!」」


 引き継ぎの為に残るスラタロウを残して、俺達は王都のお屋敷に戻る。


「アメリア、やっぱり寂しい?」

「流石に少しは。でも私達では統治もできませんし、住民のためにはこれが良かったのです」


 完全に生まれ故郷を国に引き渡されたアメリアとカミラとノラは、寂しそうな目で俺を見ていた。

 俺は三人の頭を優しく撫でてやった。


「私もアメリアさんの気持ちはよく分かります」

「よく考えれば、皆さん同じ境遇ですね」


 そこにシルク様とクロエもやってきた。

 皆実家に問題があって、一人になったりしている。

 そんな環境だから、アメリア達の苦悩も分かるのだろう。


「もう寂しくないよ。皆家族なんだから」

「ねー!」

「うん」

「そうだよ」

「「「ねーね!」」」


 そんなアメリア達やシルク様達に、子ども達が抱きついてきた。

 マシュー君も一緒だ。

 今は皆がいるし、寄せ集めかもしれないけど家族って思って貰えればいいな。

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