第百九十六話 防壁の工事現場

「何故、女装しないといけないんですか?」

「しょうがないじゃろう。事前に教会から要請があったのだから」


 昼食を取って建設現場に向かうのだが、何故か俺は女装姿で作業を行う事になった。

 今日は炊き出しの手伝いだったはず。

 なので女装する必要はないはずだけど。


「おお、聖女様が来られた」

「ありがたや」


 建築現場に着くと、何故か働いている人から拝まれた。

 先ずは炊き出しの手伝いをしよう。

 炊き出しといっても、今日は教会から手伝いがきている。

 孤児や寡婦の仕事の一つとして、教会から紹介された。

 メニューはオニギリや野菜スープ。

 オニギリは具も色々試していて、

地域特産の物も混ぜたりしている。

 働いている人にもお腹に溜まると好評で、オニギリは王都に少しずつ広まっている。


「こんにちは。順調ですか?」

「聖女様。木型のおかげで作るの物も簡単です」

「これなら私達でもうまくオニギリができますわ」


 炊き出しを手伝っている人に聞いたけど、オニギリを作るのもなれたようだ。

 実はドワーフ自治領の米問屋に、オニギリを作るための木型が売っていた。

 これをいくつか購入していたのだが、早速役に立った。

 料理になれていない人も、簡単にオニギリを作ることができる。

 オニギリを作るのに慣れてきた人は、とんでもないスピードで握っている。

 実は、この炊き出しはオニギリを握る訓練も兼ねている。

 

「孤児や寡婦が新しい仕事を得ますので、とても助かっています」


 これは枢機卿の話。

 皆でオニギリ屋を始めようとなったのだが、余り稼ぐつもりはない。

 更に販売ライセンスを取るのも面倒くさいので、色んな所に話をきいたら教会で寡婦向けの事業があるという。

 販売場所もあるというので、教会でオニギリ屋をやることになった。

 ご飯を炊いてにぎればいいので、難しい事は何にもない。

 木型もあるので、小さい子どももお手伝いができる。

 そしてオニギリ知名度アップに、俺が借り出された訳か。


「工事の進捗も順調で、今の所問題もありません」

「そうか。だが、無理は禁物じゃ。焦ってはならぬ」

「はい」


 工事担当が、ビアンカ殿下に進捗を報告している。

 途中雨の日もあったけど、予定以上に進捗はいい。

 勿論うちの魔法使い部隊の活躍もあるが、草刈機魔道具やチェーンソー魔道具がどんどん改良されているのも大きい。

 ゴレス領で沢山使い改良が加えられているので、当初のものよりも性能がアップしている。

 おかげで、城壁と防壁の間も整地が進んでいる。

 

「あ、お姉ちゃんだ」

「本当だ!」

「今日は救護所は、ララとリリが担当か」


 炊き出しの所に併設してある救護所には、交代でうちの人が待機している。

 小さな怪我はポーションで治して、救護所ではポーションで治らない怪我をみている。


「いてて」

「すみません、怪我人です」


 おっと、怪我人が運ばれてきた。

 運び込まれたのは、手を骨折した獣人の男性。

 どうも木で腕を挟んだという。

 患部を綺麗にして、直ぐに治療する。


「おお、流石は聖女様」

「聖女様に治して貰えるなんて、俺はラッキーだな」

「いやいや、怪我をしないようにしてくださいね」

「おう!」


 治療をした人は軽く手を上げると、直ぐに仕事に戻っていった。

 因みにうちのメンバーは、屈強な獣人とかにも全く関係なく接するので工事の人にも人気だ。

 子どもの時は、お菓子をくれたりする事もあるという。


「問題とか起きていないか?」

「大丈夫だよ!」

「リリ達で十分対応できるよ!」


 子ども達の成長はありがたいものだ。

 こういう現場を任せられるのは大きいな。


「サトー、来ていたの?」

「会議が終わったからね。教会のリクエストでこの格好だけど」

「だからか。巡回していても、聖女様が来たって盛り上がっていたよ」


 王都の巡回を行っていたエステルが俺に話しかけてきた。

 どうも今日の巡回は終わりの様だ。


「あ、お姉ちゃんになっている」

「色々あってこの姿なんだよ」

「ふーん。もうお姉ちゃんでも問題ないね」

「それは勘弁」


 ミケもやってきたし、夕方になったので今日の作業は終わり。

 片付けをして帰り道へ。


「皆さん、お帰りなさい。って聖女様?」

「あ、着替えるの忘れていた」


 出迎えてくれたシラユキさんが、俺の女装姿と玄関ホールに飾ってある聖女の描かれた絵を交互に指さしていた。

 あ、そうか。この姿は初めてシラユキさんに見せたか。


「あのシラユキさん。サトーです」

「は? え? サトーさん?」

「はい、そうです」

「え? え?」


 なおもパニックを起こしているシラユキさん。

 俺の女装姿だと全く気が付いていない様だ。


「サトー、ウィッグ取って指輪を外せば?」

「あ、そうか。よいしょ」


 エステルに言われたので、ウイッグとボイスチェンジの指輪を外した。

 これで俺だと分かったはず。


「え? あれ? 聖女様がサトーさんに」

「シラユキ。聖女様はサトーの女装した姿なんだよ」

「聖女様がサトーさん! きゅー」

「あー、シラユキさん大丈夫ですか?」


 エステルが聖女が俺の女装姿だとばらしたら、シラユキさんは処理能力の限界を超えたのか倒れてしまった。

 急いでシラユキさんを、使っているベットに運び込んだ。

 うう、明日顔を合わせにくいよ。

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