第百二十八話 王城に到着

「「お兄ちゃんになっている」」

「パパがパパだ」

「当たり前だよ」

「「でも昨日は違った」」

「パパがママだった」


 今日は朝早くから出かけるので、起きて色々準備していたら子ども達がからかってきた。

 くそう、ニヤニヤしながら俺の事を指差しているよ。

 子どもっぽさが出てきたのは良いことだと割り切ろう。


「サトーさんが男性だ」

「当たり前だけど、頭の理解が追いつかない」

「あの女装姿が強烈すぎたし、声も違うから全く分からない」


 三人組は初めて会う人の感覚でいるみたいだ。

 こちらは理解が追いつかず、ポカーンとしている。

 俺が男だと早く認識してほしい。


 兎にも角にも、まずはシルク様に聖魔法をかけないと。

 二階に移動すると、子ども達も一緒についてきた。


「おはようございます。入って大丈夫ですか?」

「はい、どうぞ」


 シルク様に入室許可をもらって室内に入ると、ベットの脇に昨日保護したオオカミの子どもがいた。

 

「シルク様、この子に名前をつけましたか?」

「ええ、フウと名付けました。女の子ですよ」

「ワン!」


 さっそくフウが返事をした所を見ると、随分と仲良くなったようだ。


「では時間もないので、さっそく治療します」

「サトーさん。宜しくお願いします」


 集中してシルク様の体に聖魔法を流す。

 その様子を、子ども達や世話をしていたメイドさんも静かに見守っている。

 欠損部位以外は治療を終えているので、治療は思ったよりも早く終わった。

 

「ふう、終わりました」

「ああ、手足が、目が戻っています」


 シルク様はベットから立ち上がり、メイドさんに手をひかれながら少し歩いてみた。

 手足の動きも問題なさそうだ。

 長い間寝込んでいたから、動くためのリハビリは必要だろう。


「うん、これから暫くリハビリが必要だけど、治療としてはうまくいきましたね」

「はい、はい! サトーさん。いえ、サトー様。本当にありがとうございます」

「わー、お姉ちゃんよかったね」

「ワンワン」


 シルク様が涙を浮かべながら、俺にお礼を言っていた。

 子ども達もフウも、シルク様に駆け寄って一緒になって喜んでいた。

 メイドさんも嗚咽を漏らしている。

 長い間寝たきりの上に、実の兄にあんな目に合わされていたのだ。

 無事に治ってほっとしているのだろう。

 あ、ついでにこれも渡しておこう。


「シルク様、これはシルク様のお母さんの杖です。シルク様にと託されました」

「確かにこれはお母様の杖。サトー様、ありがとうございます」

「これからこの杖は、シルク様が生きていく上での手助けになるはずです」

「はい、大事に扱います」


 シルク様は、形見の杖をギュッと抱きしめていた。

 この杖を実際に使うようになるには、もう少ししてからかな。

 なので、杖は一旦また俺が預かる事になった。


 子ども達と一緒にメイドさんに手を引かれて、シルク様は一階の食堂に降りてきた。


「お、その様子だと治療は無事に終わったようだな」

「はい、サトー様のおかげです」

「まあサトーだから、治療が失敗するとは思っていなかったがな」


 アルス王子がほっとした表情でいた。

 他のメンバーも、ニコニコした表情でシルク様を出迎えていた。

 シルク様も久々に自分の手で食べる食事に、とてもご満悦な表情だった。


 食事後は着替えて王都に向かう準備。

 今回は従魔も全員お留守番なので、直ぐに移動とはならなかった。

 ここで揉めたのが、誰が俺と一緒に乗るかだった。

 というのもシルク様はまだ握力が戻りきっていないから、歳が近いミケが紐で固定しながら背負る事になった。

 となると、前回ミケと一緒だった俺が空くことになる。

 エステル殿下とリンさんの女のプライドをかけた戦いに発展しかけたと思ったら、ビアンカ殿下の一言で落ち着いた。


「サトーは一人で、エステルお姉様とリンの二人で乗れば良い。道中拾ってくるルキアは、またアルス王子お兄様と一緒になるじゃろう」

「「あう……」」


 ビアンカ殿下の大岡裁きで決着となり、まずはブルーノ侯爵領に向かうことに。

 

「みんな、お留守番宜しくね」

「「「「「お土産買ってきてね!」」」」」


 おい、何で返事がお土産なんだよ。

 そんな子ども達に苦笑しながら、ブルーノ侯爵領に飛び立った。

 とはいえブルーノ侯爵領は近いので、一時間もたたないうちにブルーノ侯爵領に到着。

 屋敷の中からルキアさんが出てきた。


「皆様、おまたせしました。そちらがシルク様ですね。初めまして、ルキアと申します」

「ランドルフ家のシルクです。この度は我が領が迷惑をかけ、申し訳ない」

「もう済んだことですし、これからは未来を見ることにしましょう。さあ、行きましょう」


 ルキアさんの合図で、飛龍は飛び立った。

 ここから二時間強の王都への空の旅になる。


「ルキアさん、色々任せっきりになってしまって申し訳ないです」

「いえいえ、サトー様の方が大変な事をされてますし、それにトムさんや文官の皆さんが頑張ってくれていますから」


 トムさんとかが頑張っているのか。本当にトムさんの活躍に頭が下がる思いだ。

 とはいえ、国境の安定をしないといけないから、もう暫くはルキアさんに任せないといけない。

 

 シルク様は空の旅を満喫しているようだ。

 ミケと楽しそうに話をしている。

 普段見ることができない景色を見るのは、俺も楽しいと思う。

 そう思っている内に、小さいながらも王城が見えてきた。

 まだ距離があるのに見えるなんて、王城は大きそうだ。


「アルス王子、王城がここからでも見えますね」

「この国で一番大きい建物だからな」

「それに街も随分と大きいですね」

「人口もこの国で一番多い。スラム街とかの問題もあるがな」


 近づくに連れて段々と大きくなっていく街並みを見つめていると、確かに一部はバラックみたいな建物も見える。

 城門が大きいから、容易には街並みの拡張はできないな。

 そんなことを思っていたら、王城に着いたようだ。

 それにしても大きいな。石造りなのにとても大きい。

 きっと魔法も併用しているのだろう。

 そして王城内の飛龍専用の着陸所に到着。

 飛龍の厩舎も兼ねているからとても広い。

 と思った所でアルス王子の飛龍が溜息をついている。何かあったのかな?


「ああ、あれは気にしなくていい。あの飛龍の番がかかあ天下でな。いつも尻に敷かれているんだよ」

「成程、溜息も納得です」


 ゆっくり厩舎に向かう飛龍の、黄昏れた背中がやけに寂しそうに見えた。

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